非浸潤性乳管がん(DCISと呼ばれます)はステージ0の超早期がんと呼ばれます。DCISは理論的に転移を起こすことのない癌です。肺や肝臓はそのすべてを切除することに人間は耐えられませんが、乳腺はすべて切除することもできる臓器ですから、DCISに関してはどれほど大きくても、転移はしていないので、乳腺を全切除すれば理論的にはその時点で間違いなく完治します。再発はない、転移もおこらない、だから切除さえできれば確実に治る、その意味で早期がんです。
ちなみに非浸潤がんとことなり、浸潤がんにはステージ 0 はありません。もちろんステージ I は早期がんですが、浸潤がんはわずかな確率ですが、転移、再発がありえます。現在の成績的には1%強、つまり100人の早期の浸潤がんの患者さんがおられれば残念ながら一人は再発される、ということになります。そしてその違いからDCISは ”超”早期がんともいわれたりします。
転移しない、だから再発しない、そのことからDCISには、術後に抗がん剤やホルモン剤を投与することは不要とされてきました。ただ実はホルモン剤に関しては飲んでいる方はおられます。

もちろんDCISの中にも女性ホルモンに感受性のない種類のものがあり、それはいかなる場合も薬は使いません。また抗がん剤はホルモン剤と比較して、副作用が強く、メリットとデメリットのバランスから考えてDCISに使われることはないと思います。
つまりホルモンに感受性のある非浸潤性乳がんは、術後にホルモン剤を投与するべきか?の問題になります。これ、ちなみに我々の教科書にはなんて書かれているか。
「閉経状況にかかわらずタモキシフェンの投与を弱く推奨する:推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:強,合意率:90%(43/48)
閉経後の場合,アロマターゼ阻害薬の投与を弱く推奨する:推奨の強さ:2,エビデンスの強さ:強,合意率:83%(40/48)」
48人中40から43人は投与を勧めるとなっています。しかし弱く。何とも中途半端な答えですね。
タモキシフェンとアロマターゼ阻害剤の違いについて話をすると長くなるので、簡単にまとめますが、アロマターゼ阻害剤はタモキシフェンと異なる副作用があり、先のメリットデメリットのバランスの観点から、推奨する先生の割合が減っているのです。
ただこの結果を見る限り、DCISの術後にホルモン剤を引用されている方は多いと思われます。
「え、転移しないのに? 再発もしないのに?」 「いらないでしょ!」 そういう声がしそうです。
なぜ弱くであっても、推奨するのか? その理由は2つあります。
ひとつは言葉は悪いのですが、”取り残し”です。DCISは小さながんの芽、ポリープが乳腺の中に散在するように発生することがまれではありません。たとえ乳腺を全切除しても、乳腺は皮膚の臓器なので、周辺の皮膚の中にその芽が残ることがあります。それが何年かたって姿を現してきたとき、それは”取り残し”なのか、それともそのあとからわずかに残った正常な乳腺から発生してきた新しいものなのかは区別できないのです。
手術する人間にとっても “全摘゛した乳腺にまたがんが発生するのはとんでもないことです。何としても避けたい。しかし 超早期がんであるDCISを全摘するのはただでも気が引けるのに、大きな傷で引き連れを残すような手術もしづらいです。
ホルモン剤を飲んでもらったらせっかく手術をしたそのあとの乳腺からまた癌が発生することを防ぐことができる、これはもうわかっています、だから推奨することがあるのです。
もう一つは対側、反対側の乳腺の発生です。先に述べた切除されていても、温存されていたら、その残った同側の乳腺に新しく発生する乳がん、これもホルモン剤を飲んでいれば抑制されることが分かっているのです。いわば予防です。

近年 ホルモン感受性ありの非浸潤性乳癌(DCIS)の術後の女性について、ではタモキシフェンを正規の20㎎ではなく、10㎎の半分量として、あるいは1日おきに20㎎を飲む、としたらどうなるか?を調査した論文がGandini先生らによって発表されました。
この研究では、エストロゲン受容体陽性または不明の非浸潤性乳管癌(DCIS)、微小浸潤癌、または高リスク乳腺病変を有する女性を対象とした3つの臨床試験の個々の患者データを用いました。
これらの試験では、患者はタモキシフェン5mgを1日1回、または10mgを隔日で2~5年間投与される群、あるいは対照群(プラセボまたは無介入)に分けられました。主要評価項目は乳がんのない期間であり、これは同側または対側の浸潤性乳がん、DCIS、局所再発、または遠隔転移の初回発生までの期間と定義さました。
今回の研究対象となったのは1,545人の女性です。これらの女性をだいたい9.4年間追跡調査しました。
低用量タモキシフェンを投与された患者さんでは、全体的に乳がんに関する異常が発生するリスクが低下しました。ただ閉経状態によって治療効果にばらつきが見られたようです(P = .01)。
閉経後の女性では、低用量タモキシフェンを投与された335人中40人に乳がんイベントが発生したのに対し、対照介入を受けた401人中93人に乳がんイベントが発生しました(ハザード比[HR] = 0.51、95%信頼区間[CI] = 0.35~0.73、P < .001)。つまり対側の浸潤性乳がん、DCIS、局所再発、または遠隔転移が発生する確率が0.51倍になった、=半分になったということになります。
低用量タモキシフェンは、こうした乳がんイベントを10年間で11.2%減少させていました。
閉経前の女性では、その効果は少し乏しくなり、低用量タモキシフェンを投与された448人中127人、対照介入を受けた335人中107人にイベントが発生しました(HR = 0.90、95% CI = 0.70~1.17、P = .45)。確率が0.90となっていますので、対側の浸潤性乳がん、DCIS、局所再発、または遠隔転移が発生する確率が0.90倍になった=1割減っただけとも言えますが、低用量タモキシフェン投与群では、対側乳がんの強いリスク低下が認められました(HR = 0.45、95% CI = 0.26~0.76)。これは0.45ですから、対側乳がんの発生が半分以下まで抑制された、ということになります。
重篤な有害事象(副作用)はまれであり、低用量タモキシフェン投与群と対照群で同様でした。
研究者らは、「低用量タモキシフェンは、閉経状態および発症部位によって差はあるものの、乳がん発症の持続的な減少と関連していた。これらの知見は、DCISおよび高リスク病変における予防療法のベネフィット・リスクプロファイルを改善するために、内分泌療法の用量漸減を支持するものである」と結論付けています。
非浸潤性乳がん(DCIS)は、もともとそれで亡くなることはないがんですので、その後にホルモン剤を飲用されても、死亡抑制効果はありません。ただだからこそ、もう一度乳がんに罹患されるリスク、新しい乳がん、反対側の乳がん、温存した乳腺に出てくる乳がんのリスクは無視できません。タモキシフェンをたとえ半分でも飲んでいれば、そのリスクが半分まで抑制されるとしたら、弱く推奨、飲んでくださるならそのほうがいい、と考える医者が多いのも理解できますよね。
ただ現状、この通常の量の飲み方と異なり、半分だけ飲む、というやり方はわが国では一般的ではないことは理解してください。また半分にしたら金銭的負担は必ず下がりますが、効果は変わらないのか? 副作用はそのぶん減るのか?は今回の研究では調べられていないことに注意してください。
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