乳腺と向き合う日々に

2024.03.29

"乳管内乳頭腫”と診断されたら・・・1

乳管内乳頭腫は、乳腺の乳管にできるいわばポリープです。大腸や胃など消化管の粘膜にできるポリープが腸管内乳頭腫、そして乳腺乳管の粘膜にできるポリープが乳管内乳頭腫です。

これについては実際の大腸内視鏡で観察される大腸ポリープの写真を過去に解説しているので参照してください。大腸のポリープも大腸がんではない、つまり悪性ではありません。良性です。
でも大腸のポリープは切除されます。それは将来、その場所にがんが発生するリスクがあるからです。もっといえばすでに発生”している”かもしれない、それを切除すれば調べることができます。今は大腸ポリープのほとんどを内視鏡ですべて切除して調べることもできるようになりました。
しかし乳管内乳頭腫はそうはいきません。切除するとなると現在の医療器具では内視鏡的に切除する方法は見つかっておらず、手術をするしかありません。ラジオ波や凍結でそれを実質的に破壊することはできますが、それでは診断はつかなくなります。

乳管内乳頭腫は、乳管の粘膜にできるポリープです。大腸や胃などの腸管とミルクを運ぶ乳管では、太さが全く異なります。当然できるポリープの大きさも全く異なります。
そして腸管は原則入口一つで出口も一つ。乳管は乳頭に20程度の開口部があり、中で複雑に分岐しながら乳腺の隅々まで分布して、作られたミルクを乳頭に運んできます。乳管については、過去のこの記事を参照してくださってもいいかもしれません。

この記事の中で、実際に乳管の中に挿入したカメラ(内視鏡)で捉えた乳管内乳頭腫の写真を提示しています。下記にもう一度それを出します。解像度が低いので少し離れてみた方がいいかもしれません。これは乳管に挿入できるようなとても細いカメラでとられた映像だからです。

乳管鏡2

乳管内視鏡は、幹が空洞になった樹木の隅から隅の枝まで観察するようなもので、そのすべてを観察することはもともとできません。その上、歯がゆいのですが、こうしてポリープを見つけて、観察することができてもカメラ自体があまりに細いので、それを切除することができないのです。手を出すことができない。観察ができ、場所が同定できても、診断を完全につけるには結局手術しかないのです。

さて この乳管内乳頭腫 いろいろなことがわかっていません。
乳頭腫は何度もくりかえしますが良性です。乳頭腫と診断された時点では良性です。
ただ乳管内乳頭腫は、大腸ポリープ、つまり腸管内乳頭腫のようにがんになるのでしょうか? なるとしたらどれくらいの確率で? そしてどれくらいの期間で変化していくのでしょうか?

これを”乳管内乳頭腫”の自然史と言います。
2021年 ジェシカ・リンバーグDrの研究があります。
Limberg J, Kucher W, Fasano G, Hoda S, Michaels A, Marti JL. Intraductal Papilloma of the Breast: Prevalence of Malignancy and Natural History Under Active Surveillance. Ann Surg Oncol. 2021; 28: 6032-40.

全体を切除せず、一部を採取する針生検を施行し、乳管内乳頭腫と診断された175 個の 病変を有する 152 人の患者(平均年齢 51 ± 13 歳) を10年間(1999年から2019年)の病理と画像記録で遡及的にレビューしたものです。

最初の画像診断では 乳管内乳頭腫の平均サイズは 8 ± 4 mm でした。
大部分の病変 (57%、n = 99) は直ちに切除されてましたが、76 例 (43%) は定期的に画像検査で経過観察され、追跡期間中央値は 15 か月 (範囲、5 ~ 111 か月) でした。

直ちに切除された乳管内乳頭腫 のうち、外科的病理学では 97% (n = 96) で良性所見が、3% (n = 3) で上皮内乳管癌(DCIS これは非浸潤癌と呼ばれて100%治癒することが知られていますが明らかになりました。(筆者コメント:この数字を覚えていてください。3%を多いと感じられる人もおられるし、少ないと感じられる人もおられます。良性であるとされた乳管内乳頭腫が、切除によって全体を観察してみるとがんであった、これを”アップグレード”といいます。これからこのアップグレードの確率についても話をしていきます。)

積極的に経過観察とした残りの乳管内乳頭腫では、 72% (n = 55) が安定したままであり、25% (n = 19) が消失!またはサイズが減少しました。(つまり97%はそのまま安定しているか、消えてしまう!ということになります。当院でも理事の西原が追跡している乳管内乳頭腫をたくさん持っていますが、「結構な頻度で消えるよ」といわれていました。ここではその確率は1/4ということが示されています。)

しかし2年後、4%は画像検査でサイズが増大しており、その後切除され、最終病理検査では1例は上皮内乳管癌(DCIS)となり、1例は結局、良性の乳管内乳頭腫とされました。

結論 病理学的に 異型性のない乳管内乳頭腫では、そのときにそのまま切除しても(転移をきたし、命にかかわるような)浸潤癌は観察されませんでした。またそのまま経過観察としても病変の 96% は 進行しませんでした。

針生検で一部を観察し、乳管内乳頭腫と診断された患者さんは、その時すぐに切除する必要はないでしょう。経過観察をしていけば、変化が見られた時に切除をすればそれで命をとられるようなことはない、といえるでしょう。

乳管内乳頭腫と診断されても、少なくともすぐに切除しなければならない、ということはなさそうです。経過観察していれば問題ない、命を取られるようなことはない、と言えます。

経過観察する中で 1/4は消失してしまうこともあるようです。

ただ経過観察は、どれくらいの期間ごとに、どれくらいの長さで見ていけばいいのでしょうか? 1年? 半年? この論文では平均15か月、最低でも1年ごとに観察されていました。ただ30歳で乳管内乳頭腫が見つかった人と、70歳で見つかった人では気にしながら観察していかなければならない期間の長さが全く異なります。この論文も含めて、「乳管内乳頭腫は長期的にはがんに変化することがあるのか?」については結論は出ていないようです。

実際この論文の研究でも57%の患者さんは診断されて直ちに、4%がのちに切除されています。直ちに切除となった理由はどこにあったのでしょうか?

この話 まだ続きます。