乳腺と向き合う日々に

ベージニオ🄬を術後補助として飲用することのメリット

ホルモン受容体陽性 (HR陽性)、ヒト上皮成長因子受容体 2 陰性(HER2陰性)、リンパ節転移陽性の乳がん患者さんでは、再発リスクが高く (様々なデータがありますが5 年で最大 30%が見込まれます)、治療の強化、対策が必要とされてきました。

ホルモン剤による内分泌療法と併用して、2年間 術後に補助として アベマシクリブ(ベージニオ🄬)を飲用することは、現在では HR陽性HER2陰性、そして再発リスクが高いリンパ節転移陽性の患者に対する国際的に承認された標準治療になっています。

アベマシクリブは追跡期間中央値42カ月(4年弱)で、全患者が治療を終了した時点の2年間の治療を超えて、無浸潤病生存期間(IDFS)*および無遠隔再発生存期間(DRFS)の持続的な改善を示しました。
*無浸潤疾患生存期間とは、手術日から浸潤性病変の再発と判断された時点、またはあらゆる原 因による死亡日までの期間です。浸潤性病変とは、病理学的に、他臓器に転移を起こす能力があると判断される病変の総称です。つまりその病変の切除を行っても完治しない可能性が示唆される病変です。

全生存期間(OS)は未だ結論が出ていませんでしたが、今まで通りのホルモン剤による内分泌療法単独群と比較して、アベマシクリブを併用した群での死亡数が少なかったことから、おそらくアベマシクリブ併用群では最終的に生存率でも有利な結果が出ることが予想されていました。

ここでは最新のOSの評価結果を示します。

Rastogi P, O'Shaughnessy J, Martin M, Boyle F, Cortes J, Rugo HS, et al. Adjuvant Abemaciclib Plus Endocrine Therapy for Hormone Receptor–Positive, Human Epidermal Growth Factor Receptor 2–Negative, High-Risk Early Breast Cancer: Results From a Preplanned monarchE Overall Survival Interim Analysis, Including 5-Year Efficacy Ou. Journal of Clinical Oncology. 2024.

スペース

ベージニオ🄬は比較的新しい薬剤でジェネリックも存在しないため、大変高価です。会計の時にびっくりされる方も多いと思います。
加えて代表的な副作用は下痢です。下痢とまでいかなくてもたいていは軟便で苦労されておられる方も多いと思います。脱毛や嘔吐が多くみられる抗がん剤とまではいかないまでも副作用のないものではありません。白血球もよく下がってしまいます。
できたら治療が完了した後まで飲みたくない、そう思われている方も多いのではないでしょうか。さらにそれが2年継続しますから大変です。

メリットがわかれば、デメリットの我慢もできる、そう思って紹介しています。

この臨床試験を、monarchE 第 III 相グローバル試験と呼びます。

合計 5,637 人の患者が 2 つの群に割り当てられました。
コホート 1 ( 5,120名)は、少なくとも 4 つの腋窩リンパ節 転移あり、または組織学的に異型度3以上、 あるいは 腫瘍のサイズ が5cm 以上、のいずれかの特徴を伴う再発の高危険群です。

コホート 2 ( 517名)は、1 ~ 3 個のリンパ節転移陽性、あるいは細胞分裂指数 Ki-67 ≧ 20% である患者が含まれていました。

これらのコホート 1 とコホート 2 の集団を
ホルモン剤単独で治療する群と、アベマシクリブを2年間併用してホルモン治療を行う群のふたつにランダムに(1:1)割り当てました。

結果

患者の約80%は少なくとも4年間(治療期間終了後2年)追跡されています。

術後に浸潤性病変の発生のリスクを軽減するというアベマシクリブの継続的な利点が統計学的に証明されました。実際には発生リスクを3割以上減少させました(HR、0.680,  95%CI; 0.599 ~ 0.772, p < .001)。上の図のAです。

術後に遠隔転移の発生のリスクを軽減するというアベマシクリブの継続的な利点もまた統計学的に証明されました。実際には発生リスクを3割以上減少させました(HR、0.675,  95%CI; 0.588 ~ 0.774, p < .001)。上の図のBです。

最終的な生存率では差が出ることがまだ証明されていませんが、時間の経過とともにそれも明らかになるでしょう。上の図のCです。

まとめ
アベマシクリブ(ベージニオ🄬)は、確かに高価で、2年間と長く、副作用も様々あるけれども、遠隔再発率を3割以上下げるなど、それに見合った効果があり、再発が予想される高リスクホルモンレセプター陽性HER2陰性乳がん患者さんには投与が強く勧められる、と言えるでしょう。