乳腺と向き合う日々に

2024.03.04

40歳から毎年乳がん検診を始めると どれくらいのメリットがありますか?

MonticcioloらによってRadiology誌に発表された最近の研究によると、彼らは40歳から始めて少なくとも79歳まで継続する年1回の乳がん検診が、最小限のリスクで死亡率の最大の減少をもたらす可能性があることを発見しました。
Monticciolo DL, Hendrick RE, Helvie MA. Outcomes of Breast Cancer Screening Strategies Based on Cancer Intervention and Surveillance Modeling Network Estimates. Radiology. 2024; 310.

乳がんは、米国女性のがんによる死亡原因として 2 番目に多いものです。日本でも国立がん研究センターがん情報サービス2017年版によれば、乳がんは30歳から70歳までの女性のがんによる死亡原因として 1 番目に多くなっています。これまでの研究では、マンモグラフィー検査への定期的な参加により乳がんによる死亡率が 40% 減少することが実証されているにもかかわらず、毎年の検査に参加しているのは米国では対象患者の 50% 以下にすぎない可能性があります。ちなみにわが国でも2022年の国民生活基礎調査によれば、2年に1回のクーポン検診を過去2年間で受けた方の割合は47.4%でした。その点ではほぼ同様です。

「乳がん検診の推奨については、特に検診の開始時期と頻度について、議論が続いています」と、研究論文の筆頭著者であるMonticciolo医学博士は説明しています。
「スクリーニングにも(被爆や、誤ってがんの疑いありとされ不要な検査をされることとなる)リスクはありますがいずれも致死的ではなく、ほとんどの女性にとって許容範囲内でしょう。しかし乳がんが進行して見つかればそれはしばしば致死的です。乳がんは早期に発見できれば治療が容易です。私たちは女性に余分な手術や化学療法を行わなくて済むのです。リスクをうんぬんするよりも、いかに早期発見を可能とするかを検討し、その方向に努力することが良い考え方であり、それがスクリーニングの役割です」と彼女は付け加えました。

2009 年、米国予防サービス特別委員会 (USPSTF) は、女性が 50 歳から2年に1回で乳がん検診を受けることを推奨しました。その結果、研究者らは全国的に検診参加者が減少していることに注目しました。2023年、USPSTFは、その推奨年齢を広げて40歳から74歳までの女性が2年に1回のスクリーニングに参加することを示唆する新たな勧告を起草しました。
米国放射線学会、乳房画像学会、全米包括的がんネットワークは、平均的ながんリスクが高い女性に対しては年1回のスクリーニングを推奨しています。
乳がんは40歳から発症し始め、健康である限り、一生継続して発症します。

スペース

研究者らは、がん介入・監視モデリングネットワーク(CISNET)の2023年乳がんスクリーニング結果の推定中央値の二次分析をさまざまな頻度と開始年齢で実施しました。

研究者らは、死亡率の減少、生存余命、乳がん関連死亡の回避、良性または不必要な生検、回収率など、乳がん検診の利点とリスクを以下の4つの異なるシナリオで比較しました。

1、50~74歳の女性を対象とした2年に1回の検診

2、40歳から74歳の女性を対象とした2年に1回の検診

3、40歳から74歳の女性を対象とした年1回の検診

4、40歳から79歳の女性を対象とした年1回の検診

結論として、Monticciolo先生らは、40歳から79歳の女性を対象にデジタルマンモグラフィーまたはトモシンセシスによる年1回のスクリーニング(つまりシナリオ4)により死亡率が41.7%減少することを発見しました。

一方、50~74歳の女性を対象とした2年に1回の検診(シナリオ1)では死亡率が25.4%減少
40歳から74歳の女性を対象とした2年に1回の検診(シナリオ2)では死亡率が30.0%減少しました。

さらに40歳から79歳の女性を対象とした毎年の検診では、他のシナリオと比較して、マンモグラフィ検査1回当たりの偽陽性スクリーニング(6.5%)(つまりがんはないのにがんの可能性ありと診断してしまう確率)と良性生検(0.88%)(それをさらに何らかの形で組織をとって調べることとなる確率)が最も低かったことが示されました。

USPSTF は推奨事項を作成するために CISNET モデリングを使用しましたが、リコール率と良性生検はリスクではなく害であると言及しました。つまりがんでもないのに呼び出され、がんでもないのに針を刺して検査をされることは“害”である。だから1年に1回よりも2年に1回を推奨しました。しかしMonticciolo先生らは「マンモグラフィー検査の、害と利益のバランスをとるため、追加の画像検査や良性生検のために女性が呼び出しを受けることを避けることも大事だが、そのために死亡率を下げるという重要な利益の一部を放棄することになってもいいのか?」と提言しています。

Monticciolo先生らは、年に一度の乳がんスクリーニング後に、女性が誤って良性であるのに生検を受ける確率は 1% 未満であり、それをずっと継続してもそうしたことが起こる確率は 10% 未満であることを示しました。
トモシンセシスを使用してスクリーニングを毎年実施した場合には、女性がその生涯で、誤って良性であるのに生検を受ける確率は 6.5% に減少しました。

まとめ

40歳から79歳まで、毎年マンモグラフィ検診を受ければ、乳がんによる死亡率を41.7%下げることが可能になる。

それを2年おきにすればそれは30.0%となる。

毎年検診すれば、それだけ偽陽性、がんでもないのにがんであるとされ、精査をするために呼び出しを受けることも起こりえる。さらに針で突いて検査をした挙句、良性であるとなることも起こりえる。ただその確率は生涯検診をつづけても10%以下である。