2025.03.25
世界保健機関の世界乳がんイニシアチブ(GBCI)の新しいデータは、今後20年間で乳がんの診断数と死亡率が上昇する可能性が高いことを示しており、警告しています。
2021年に結成されたGBCIは、2040年までに世界の乳がんによる死亡者数を毎年2.5%削減するための枠組みを作るために設立されました。米国やHuman Development Indexの高い他の国々では死亡者数を減らすことに大きな進歩が見られてきましたが、GBCIの新しいデータは、これらの改善が世界の隅々まで均等に分配されてはいないことを示唆しています。(筆者注:Human Development Index(HDI、人間開発指数)とは、国連開発計画(UNDP)が発表する指標で、各国の人間の発展(Human Development)の度合いを測るためのものです。これは、単に経済的な豊かさだけでなく、健康や教育の観点からも総合的に国の発展を評価することを目的としています。)
専門家らは、世界185カ国を対象としたGLOBOCANデータベースのデータを用いて、乳がんの診断と死亡率の傾向を分析し、両者の今後10年および20年間の軌跡を推定してみました。
チームは、2050年までに新規症例が約38%増加し、死亡者数はさらに急激に増加し、世界全体で68%増加する可能性があると結論付けました。
これらの推定は、早期発見の取り組みが不足している低所得地域に不釣り合いなほど大きな影響を与えます。たとえば、メラネシア、ポリネシア、西アフリカでは死亡率が最も高くなると予測されていますが、東アジア(よかった、日本も入ります)、中央アメリカ、北アメリカでは死亡率が最も低くなると予想されています。
逆に、オーストラリア、ニュージーランド、北アメリカ、北ヨーロッパでは、診断率が最も高くなると予測されています。これは、これらの地域での早期発見の取り組みによるものと考えられます。つまり、より多くのがんが特定されることになりますが、がんが治療に反応しやすいより早い段階で発見される可能性が高くなります。
この報告書の調査結果は、10月に発表されたアメリカがん協会の年次乳がん統計で共有されたデータと一致しています。この報告書では、米国では乳がんによる死亡者数が1989年以降44%減少しているにもかかわらず、がん罹患率は数十年にわたって着実に上昇していることが明らかにされています。
前述の直後に発表された、データと分析の大手プロバイダーであるLexis Nexis Risk Solutionsからの追加データは、米国における新たな乳がんと診断される女性の増加という調査結果をさらに裏付けました。そしてこのレポートは、若い女性のがん診断が「憂慮すべき」割合で増加しているという新たな傾向を浮き彫りにしました。このレポートによると、30代の女性の乳がん罹患率は2021年から2023年の間に13%増加しました。
世界的にみると、乳がんの負担は 50 歳以上の女性の間で最も高くなっています。ただし、これらの数字は地域によっても異なります。たとえば、アフリカでは、乳がんの診断の 47% が 50 歳未満の女性で発生しています。比較すると、北米とヨーロッパでは、女性の 18% と 19% が 50 歳未満で診断されています。
これらの報告書はいずれも、若い女性のがん診断の増加は主にスクリーニングの増加によるものだとしています。新しいリスク評価モデルによって、より早期のスクリーニングが奨励されているからです。十分な診断リソースがないにもかかわらず、なぜ特定の地域で若い女性の診断率が高いのかを解明するには、地域別の追加調査が必要だが、この最新の報告書は、早期発見が死亡率低下の鍵であるという考えをさらに強調していると考えられます。
「2050年には乳がんの新規患者が320万人、乳がんによる死亡者が110万人に達すると予測されており、既知の修正可能なリスク要因への介入による一次予防を通じて負担を軽減することは可能ですが、そのためには協調的な努力と政治的意思が必要です」と報告書は述べています。
「乳がん生存率の不平等の拡大を減らし、今後数年間に乳がんと診断される数百万人の女性の予後不良を軽減するために、特にHDIの低い国と中程度の国では、早期診断と治療への継続的な投資と改善が緊急に必要です」と締めくくられています。
出展は「Nature medicine」です。
学者の文章とはこれほどわかりにくいか、という文章で申し訳ない。
簡単に要約すると、WHOの専門機関の調査結果によれば
1 世界的に乳がんに罹患し、死亡する女性は確実に増加傾向にある。
「2050年までに新規症例が約38%増加し、死亡者数はさらに急激に増加し、世界全体で68%増加する可能性がある。」
2 十分な対策が取られていない国では乳がんによる死亡率も当然増加するが、対策が取られている国では死亡率は低下している。
(この論文ではHuman Development Index(HDI、人間開発指数)の低い国という定義)
「米国では乳がんによる死亡者数が1989年以降44%減少しているにもかかわらず、がん罹患率は数十年にわたって着実に上昇している」
3 HDIの高い国では「若い女性のがん診断が「憂慮すべき」割合で増加している」が、それは若い女性に対してもリスクを評価し、スクリーニング(検診)をすることが普及しているからだろうと考えられる。
4 こうした取り組みが、今後の乳がん罹患率の上昇に対応するためには非常に重要になることが明らかになった。
2025.03.21
先日 Youtubeを見ていて、恐ろしいことを述べている投稿に目が留まりました。
その内容というのは、
1 米国では40歳以下のマンモグラフィ検査は”禁止”されており、施行すれば逮捕される。
2 それくらい被ばく量の多い検査であり、大変危険な検査である。
3 最近になって乳がんが異常に増加している原因、それはマンモグラフィ検診の普及によるものなのだ。
こんな恐ろしいことをいう方がいるのか、と正直震えました。
全て”うそ”です。
まず私のブログを読んでおられる方であれば1については理解できると思います。
40歳以下(未満ですが)に施行しない、75歳以上に施行しないのは、「施行による死亡率の減少効果が認められなかったから」です。つまりやっても意味がないからしないのであって、禁止もされていなければ、逮捕もされません。事実、米国では25歳以上の女性には、乳がんのリスク評価を行い、必要であれば施行する制度ができています。被ばくが問題ではない、とは言いませんが、被ばくというデメリットと(というよりもコストや時間、乳がんでもないのに乳がんの疑いとされて精査をされる偽陽性の存在などのデメリットを強調していますが)、乳がん死の減少というメリットのバランスが40歳以下では取れていないのでしない、ということなのです。これについては何度もここで触れてきました。
米国予防サービスタスクフォース(USPSTF)が乳癌検診に関する新しい草案勧告を発表しました。
最近、医師がYoutuberとしてSNSに参戦し、その専門知識を使ってさまざまなコンテンツをアップロードしていますが、さすがに自分の医師免許をアップロードしているところは見たことがありません。そのYoutuberがコンテンツの中で自身が医療に携わっていると言っているだけです。証明はされていません。さすがに偽医師はいないでしょうが…
Youtubeは規制がほぼなく、コンプライアンスが既存のメディアに比べて緩いことが魅力でもありますが、少なくとも医療に関することを、資格のない方が一般の方に影響を及ぼす形で発信していることには問題があるように思います。特にこうしたSNSコンテンツではインパクトがないと再生してもらえないため、サムネと言われる”表紙”で衝撃的な内容を書いておいて、中身を見ると違うことを言っていることもよくあります。今回はしかしその通りの内容だったので驚きました。ほぼすべてうそを本当らしく事実と絡めながら述べていました。
2のマンモグラフィの被ばく量について改めて解説します。
1. マンモグラフィ検査: 被ばく量:0.1~0.5 mSv(ミリシーベルトと読みます)
特徴:乳房に対するX線撮影で、低エネルギーのX線を使用。
乳がんの早期発見に有効。被ばく量は比較的少ない。
2. 胸部X線写真(一般撮影):被ばく量:0.02~0.1 mSv(通常は約 0.05 mSv)
特徴:肺や心臓の状態を評価するための一般的な検査。
被ばく量は非常に少なく、通常の生活で受ける自然放射線(年間約2.4 mSv)のごく一部。
3. CT検査
被ばく量:胸部CT:5~7 mSv
被ばく量:腹部CT:8~10 mSv
被ばく量:頭部CT:2~4 mSv
全身CT(フルボディスキャン):20~30 mSv
特徴:X線を用いた断層撮影で、詳細な画像を取得可能。
一般撮影より被ばく量が多いが、診断価値が高い。
4. PET検査(PET-CT):被ばく量:5~25 mSv(PET単体:約5 mSv、PET-CT:約10~25 mSv)
特徴:放射性薬剤(18F-FDG など)を体内に注射し、がんや炎症などを検出。
CTと組み合わせたPET-CTでは被ばく量が増加。
まとめ
胸部X線やマンモグラフィは被ばく量が少なく、安全性が高い。
CT検査は部位によるが、胸部・腹部CTは比較的高い被ばく量になる。
PET-CTは放射性薬剤とCTを併用するため、被ばく量が高くなる。
これでわかるように、マンモグラフィの被ばく量は決して高くありません。胸部X線と比較すれば高く感じますが、胸部X線検査は1枚で終わりです。受けたことがある方は知っていると思いますが、マンモグラフィでは右側で2枚、左側で2枚とることもあるので、その分高くなります。ただ当然乳腺だけにできるだけあたるように絞って行われているので、左右別々に取る必要があるのです。CTではそんなことはしませんよね。
ちなみにミリシーベルトという単位について少し解説します。
ミリの部分は1mシーベルトは、1シーベルトの千分の1という意味になります。
シーベルト(Sv)は、放射線が人体に与える影響(生物学的影響)を評価するための単位です。
1. 放射線の基本単位
放射線に関する単位には以下の3つがあります。
グレイ(Gy) は「1 kgの物質が何ジュールの放射線エネルギーを吸収したか」を示します。
シーベルト(Sv) は「放射線の種類と人体への影響を考慮した線量」です。
1 Gy = 1 Sv ではなく、放射線の種類によって異なります。
ベクレル(Bq) は「1秒間に何個の原子が崩壊し、放射線を出すか」を示す単位です。
このようにシーベルトは、人体への影響を評価するために使われ、以下の基準があります。
被ばく量(mSv) | 影響 |
---|---|
0.05 | 胸部X線1回の被ばく |
1 | 年間の一般公衆の被ばく限度(人工放射線) |
2.4 | 世界の自然放射線の年間平均 |
10 | CT検査(腹部)の被ばく量 |
100 | がん発生リスクが増加する可能性があるレベル |
1000(1Sv) | 急性被ばくで一時的な白血球減少 |
4000(4Sv) | 50%の人が死亡する可能性(致死線量) |
このようにシーベルト(Sv)という単位は被ばくの影響を表す単位であり、1Sv浴びればその場で強い悪影響があります。治療で1Svも浴びることはあり得ないので、ミリつまりその1000分の1の単位で被ばく量を表します。マンモグラフィは高く見積もっても0.5mSvですから、生活しているだけで環境から浴びてしまう自然放射線量の1/5程度ということになります。私がみたYoutubeコンテンツでは胸部X線写真と比較していましたが、胸部X線検査は検診だけでなく、肺炎や気管支炎などの診断や、治療効果の判定にも使います。1週間で3-4回施行することもある。撮影する対象も違いますし、目的も違う。比較することが根本的におかしい。
大袈裟に見えるようにあえて被ばく量のもっとも少ない検査をもってきて、比較してみせているだけのように思いました。
最後に、「最近になって乳がんが異常に増加している原因、それはマンモグラフィ検診の普及によるものなのだ」の部分です。これが最も劇的で、逆説的で、そして都市伝説的で、目を引く文章になると思います。しかしこれが完全に嘘なのです。
まず乳がんが異常に増加しているのは、”最近”と書かれていますが、これはいつからのことを”最近”と言っているのでしょうか。
上記のグラフはWHOで公表されている人口10万人当たりの乳がんの罹患率の推移を示したグラフです。わが国の罹患率は下から3番目、急激に右肩上がりのオレンジ色ですが、ほぼずっと上昇傾向です。
上で固まっている中のえんじ色がアメリカ、濃緑がカナダです。
マンモグラフィ検診の日本での導入時期は1999年(本格導入)です。1980年代から試験的に導入されていましたが、正式な「対策型検診」として採用されたのは1999年です。2000年に厚生労働省が「乳がん検診指針」を改訂し、40歳以上の女性に対して2年に1回のマンモグラフィ検診を推奨したのが始まりです。
アメリカ(米国)では導入時期は1970年代~1980年代(普及)です。1960年代後半からマンモグラフィの技術が発展し、1970年代には一部で乳がん検診に活用されるようになりました。1980年代に入ると全米で本格的に普及し、1989年には米国予防医学タスクフォース(USPSTF)が推奨を始めています。カナダでは1988年に全国プログラム開始で導入されています。
グラフでわかりますが、日本での乳がん罹患率は検診が始まる1999年より前から上昇しています。
またマンモグラフィ検診が原因なら米国や、カナダで同じような上昇が認められ、それが10-20年前倒しで起こるはずですが、それは認められていません。
乳がん罹患率が上昇しているからマンモグラフィ検診が導入されたのです。それを逆に解釈するのはあまりにも悪意に満ちたひどい解釈です。
ではなぜ乳がんがこれほど増加しているのか、それも私のブログの中で触れています。もちろん一つの要因で説明できないことはあるでしょうが、この説は京都大学の研究で裏付けられたものです。よかったらこちらも参考にしてください。
なぜ乳がんは増えているのか ついに学問的に説明できてしまった?
コロナワクチン以来、陰謀説の花盛りの時代です。いつの間にか根拠のないうわさが独り歩きし、時に誤った認識を広めることでうわさが害をなすこともあります。皆さんも、オールドもニューも、メディアのいうことをうのみにせず、自分で判断する目を養ってください。
それは私のブログに関しても同様ですけれどもね。
2025.03.14
乳がんに限ったことにはありませんが、がんの治療法は進化し続けており、常に新しい薬剤が開発され、時に画期的な発見によって、がんによる死亡率は年々減少し続けています。もちろんその進歩は止まることなく続いており、がん克服に向けて、世界中で優秀な医師、研究者が画期的な治療法や、薬剤を求めて日夜努力を続けています。
しかし乳がんに関しては、2010年ごろを契機にして、なぜかその傾向が止まってしまっており、とくに40歳未満および74歳以上の女性の乳がんによる死亡率が、それまでは長期にわたって減少していたにもかかわらず、低下が止まっていることが研究によってわかっています。
20歳から39歳の女性の乳がん死亡率は、1990年から2010年にかけて年間2.8%減少していました。しかし2010年から2022年にかけては減少が見られず、年間変化率は-0.01(P =0.98)と、ほぼ全く変化しなくなっている、と、テキサス州テンプルのベイラー・スコット&ホワイト・セントラル・テキサス画像研究教育財団の医学博士デブラ・L・モンティチオロ氏と、コロラド州オーロラのコロラド大学アンシュッツ医学部のR・エドワード・ヘンドリック博士が報告しました。
そして75歳以上の女性では、乳がんによる死亡率は1993年から2013年にかけて大幅に減少していました(年間変化率 -1.26、P =0.01)が、2013年から2022年にかけては減少の証拠は見られませんでした(APC -0.2、P =0.24)と、最新のJournal of Breast Imaging誌で指摘されています。
40歳、74歳という年齢におけるキーポイントがあるように見えます。これは米国の予防サービスタスクフォースと呼ばれる国の定めた委員会が、「マンモグラフィによる乳がん検診の対象年齢を40歳から74歳まで、隔年での施行を勧める」としたことに起因します。(参照)
研究者たちは、年齢制限を書けることの愚かさを、根拠を示してこのガイドラインに反対しようとしている、ということを背景として知っておくとより理解が深まるでしょう。
しかし、40歳から74歳の女性(つまりマンモグラフィ検診の対象年齢)の場合、乳がんによる死亡率は1990年から2022年にかけて年間1.7%から3.9%減少しており(P <0.001)、この年齢層ではアジア人女性を除くすべてのコホート研究で乳がん死の減少が観察されました。つまりこの年齢層では死亡率の現象は現在まで継続しています。
1990年以降乳がん死亡率が低下し始めたのは、マンモグラフィーによる検診の普及と、治療法の改善によるものと思われます。
米国予防医学タスクフォースが推奨するスクリーニング範囲である40~74歳から漏れてしまっている年齢層の女性では、長年改善が見られてきた乳がん死亡率が、もはや低下していないことが懸念される、と研究者らは記しています。これらの年齢層で進行期乳がんの診断率が上昇しているため、死亡率の低下が止まった可能性があると指摘しました。
(筆者注)恐ろしいのは40歳以下の若年層、74歳以上の高齢者層で、進行がんで見つかる割合が”増えている”傾向が認められているということです。我が国日本では推奨年齢は40歳から60歳のままなので、もしそれが事実なら60歳以上の女性で同じ現象が起こっている可能性があります。
今回の分析では、研究者たちは、1990年から2022年までの全女性、年齢層別、人種または民族別の国立健康統計センターのデータを使用しました。この期間に女性全体で乳がん死亡率は43.5%減少し、年間変化率は1990年から2010年にかけて年間1.66%から3.28%減少しました。しかし、2010年から2022年にかけては年間1.23%の減少にまで縮小しました。
(筆者注:ちなみにわが国では乳がんの死亡率は減少傾向は未だ認められていません:WHO参照)
人種や民族別に見ても、ほとんどのグループで1990年から2022年にかけて乳がんによる死亡率が低下していました。観察期間中に乳がんによる死亡率は、白人女性の割合は41.4%、ヒスパニック系女性の割合は30.3%、黒人女性の割合は28.8%、アジア系女性の割合は11.8%減少していましたが、ネイティブアメリカン女性の割合のみ10.1%増加しました。
しかし、最近に絞ってこの傾向を調べてみると、乳がんによる死亡率は、アジア系女性では 2009 年以降、ヒスパニック系女性では 2008 年以降、ネイティブ アメリカン女性では 2005 年以降、低下が止まっていました。さらに、75 歳以上のアジア系女性の死亡率は 2004 年以降上昇しており、年間変化率は 0.73% です。
筆者注:米国では高等教育で自己チェックの指導を行っています。確かに小学生や中学生の年齢層に乳腺の自己チェックの教育をしてもピンと来ないかもしれません。しかし社会の貧困層に属している女性ほど高等教育を受ける機会に恵まれておらず、よって学校からも、またそうした教育を受けていない親からも、乳腺の自己チェックの習慣づけがなされていない可能性が高くなります。
ここではそこまで触れられていませんが、私は、人種による遺伝的素因よりもこうした社会的背景の影響の方が大きいと考えています。
そしてそこから鑑みるに、高等教育においても乳腺の自己チェックを指導しておらず、親世代も現代の若年世代も、自己チェックの教育を受ける機会が全くない日本人では、特に40歳以下、60歳以上で乳がんによる死亡率が減少しないどころか上昇していることが予想に硬くありません。
勤勉で、言われたことはきちんと守り、継続できる我が国の女性たちがなぜ乳がんで苦しまなければならないのか。私は憤りすら覚えます。
1990 年代前半から中頃にかけて、白人女性と黒人女性の両方で死亡率が全年齢層で大幅に低下し、黒人女性の 年間変化率は -1.42、白人女性の年間変化率 は -1.05 でした。
しかし、乳がんによる死亡率は黒人女性の方が白人女性よりも高く、その比率は年齢によって異なります。2004年から2022年まで、黒人女性と白人女性の乳がんによる死亡率の比率は全年齢で1.39で(筆者注 つまり同じ乳がんに罹患しても、黒人は白人の1.39倍亡くなっています)、年齢層によって大きく異なります。20~39歳の女性では2.04、40~74歳の女性では1.51、75歳以上の女性では1.13です。
40歳未満の女性の間での人種間での死亡率の差は、「特に若い黒人女性では、現在の乳がんリスク評価、検査、治療戦略を変更しなければならない」ことを示唆していると研究者たちは指摘しました。著者らはまた、診察時の黒人女性と白人女性との比較でステージIVの疾患発生率を評価し、黒人女性と白人女性のステージIVの発生率比が死亡率比を反映していることを発見しました。(筆者注:つまり末期がん状態で発見される割合が、黒人の若年者女性では高いわけです。)
だから25歳から40歳の女性全てが乳がん検診をするべきと考えているのではありません。乳がんのリスク評価は25歳までにすべての女性に推奨されています(筆者注:日本ではそれを受けることができる窓口はありません。それもまた我が国の恥ずかしいところです)。40歳未満の女性の乳がん検診は、その評価において平均以上のリスクがある場合にのみ推奨されます、と筆者は述べています。
「私たちの研究結果は、若い黒人女性がよりタイムリーなリスク評価と診断を受けられるようにするために、さらなる取り組みが必要であることを示唆している」と研究者らは記しています。「特に少数民族については、医療格差を考慮する必要があります」と結んでいました。
筆者から: わが国ではまずマンモグラフィ検診が40歳から60歳までに推奨されています。しかし40歳より若い年齢に乳がんが発生しないわけではありませんし、60歳以上の女性においてはむしろ40-60歳女性よりも多く乳がんが発生しています。当然74歳まで検診を推奨している米国よりも乳がんによる死亡率は高くなることは予想に硬くありません。
40歳以下、60歳以上の方は、したがって自己チェックをしておくことが必須になります。自発的にマンモグラフィ検診をドックなどで受けられてもいいですが、きちんと定期的に受けられていなければ危険性は低下しません。米国では25歳以上の方は自分の乳がんのリスクをチェックしてくれる窓口があります。リスクが低い方では40歳以下でマンモグラフィ検診を受けることは推奨されていません。しかし残念ながらそれを相談できる窓口が日本では存在しません。そして高齢の方ではなかなか医療機関の受診が難しい方もおられる。これらの若年者、高齢者こそ、何も害がなく、どこでもできる乳腺の自己チェックを徹底するべきです。
しかしそれに必要な知識、つまり自己チェックの教育がわが国ではなされていない、という現状があります。残念ながら学校や行政にそれを期待できない現状がわが国にはあります。
私は、たとえばこのコラムを読んでおられる知識のある方、検診を受けておられる世代、そうした方が若い娘、高齢の親に声掛けし、乳腺の自己チェックを指導していくしかない、と考えています。
2025.03.06
本の内容について、少しずつ触れてきました。
あまりしつこいと、よほど売りたいのかなと思われてしまう、と思っていたのですが、「大事なことなので一度しか言いませんよ、という人よりも、何度でも繰り返し言います、という人の方が信用できる」という記事をFACEBOOKで見ました。勇気をもらってもう少し話します。
本当に売りたいのなら、あまり内容を話さないほうが本来いいはずですものね。私は本にして出すほど、もともとしつこい人間もありますし(笑)。
前回も書きましたが、当クリニックで発見される乳がんの内約半数は定期的に検診されていて、我々が「今回は異常がみとめられます」と言って発見します。もちろんその場合はほぼ早期で発見されます。最終的にがんである診断には医師による病理検査が必要なので、全ての乳がん症例がわれわれによって診断が決定しているのは確かです。ただ残りの半数の方は「先生、なにか硬いしこりがあるんです。痛くもかゆくもないんですが…」といって来院され、われわれが検査をして、乳がんの診断がつきます。この場合、発見したのは我々ではなく、やはりご自身です。そして現状ではほぼすべての施設で発見されている乳がん症例のほぼ半分は、残念ながら検診ではなくこうして自分で発見されたものなのです。
ただ当然ですがそうして発見された乳がん症例では原則早期がんから、残念ながら末期で発見されるものまですべてが含まれることになります。それはご自身がどれだけ注意して自己チェックしていたか、そして発見してどれくらいの期間経過を見ていたか、に左右されます。
注意して定期的にきちんと自己チェックしていた方ほど、より小さく、早期で発見されます。
逆に普段全く意識をしておらず、入浴時や下着をつけていて偶然気付きました、という方であれば残念ながら早期がんではない確率が上昇します。まして、別に痛くもかゆくもないので、という理由で放置され、数か月経過を見ていて大きくなってきたので慌てて受診した、そういった乳がんでは残念ながら早期で収まっていることは期待できないでしょう。
私は2年に1度 クーポンできちんとマンモグラフィで検診を受けています!
たしかにそれは大切だし、早期発見につながります。けれども2年に1回しか検診をしていない、とも言えます。きちんと日を決めて、正しいやり方で自己チェックをしています、と言われる方は毎月検診をしています。
もちろん両方をされているのが最善です。
単純な比較はできませんが、検診に携わっている人間である私にとって、この2つの乳がん検診を比較し、どちらかを選べ、と言われれば後者の方が優れています。
2年に1度の検診は、もしその年に住み慣れない土地に引っ越したりして、受ける機会を逸してしまえば4年開いてしまいます。万が一そこで乳がんが発生すればまず早期発見などできないでしょう。
しかし毎月自己チェックを習慣にされている方ではそれがない。入浴を4年もしない方はいないと思われるからです。もちろんたとえ入浴できなくても自己チェックはできます。どこでもいつでもできるからです。どんなに仕事が忙しくても、育児が大変でも、妊娠されていても、高齢で動けなくても、医療施設のない島や田舎住まいの方でも、災害にあわれて避難生活を余儀なくされておられる方でも思い出しさえすればできるからです。もちろん1円たりとかかりません。それでいて早期に発見された場合の治療にかかる経済効果は計り知れません。
習慣にしてしまえばこれほど頼りになる検診はないのです。また自分でチェックできるのがほかのがんにはない乳がんだけの強みでもあります。
上の表は 日本の女性のがんによる死亡原因を年齢階級別にみたものです。
日本人女性のがんによる死亡原因で一番多いのは大腸がんであることはよく知られていますが、それは全体で高齢者を含めてみたときにそうなります。少なくとも30歳から70歳までの比較的若い女性で見たときには、死因の第1位は乳がんになります。
子宮頸がんは若い女性、特に20台30台では脅威です。しかしそれでも乳腺の方が上になります。
繰り返しますが、上の表は死因であり、罹患ではありません。がんになられ、亡くなっておられる方の順位を見たものです。少なくとも30歳代では乳がんは紛れもなくもっとも恐ろしいがんなのです。
そこで考えてほしいことがあります。
20歳代、30歳代でも確実に乳がんの方はおられます。そして不幸にして発見が遅れ、亡くなっておられる方もおられる。
20歳代、30歳代の方にはクーポンは来ません。ドックもまずいかないでしょう。
職場の検診のマンモグラフィも40歳からがほとんどですよね。
ではこうした若年齢者の乳がんはどうやって見つかっているのでしょう?
そう、自分で見つけているのです。自分で触っていて気づくしかない。
たしかに検診を受ければ、人間ドックを受ければ、早期で見つかるかもしれません。ただ検診は有料です。原則保険が効きません。20歳から毎年、規則正しく、お金を払って検診を受ける。気持ちがいいものでもないマンモグラフィ検査を受ける。ご自身に照らし合わせてください。まずやらないでしょう。
ではここで質問です。
小さいころからお風呂でお母さんが乳腺の自己チェックをしているのを見ている娘さん。お風呂にビー玉を置いてお母さんがチェックしていたら、娘さんなら必ず聞くはずです。
「お母さん、なにしているの?これなあに?」
これはね、乳がんのチェックをしているのよ。
「お母さん わたしは?」
いまはいいよ。でも大きくなったら必ずするようにしてね。
そうして育てられ、生理が始まったら自己チェックを習慣づけるように母親から言われて育った娘さん。
お母さんが自己チェックはもちろん、乳がんの検診などしていない。だから娘に声掛けなどしたこともない。注意もしない。そうしたお母さんに育てられた娘さん。
この二人の娘さんが不幸にして20歳代、30歳代で乳がんに罹患してしまったとしたら、発見が遅れて不幸な結果になる可能性が高いのはどちらの娘さんでしょうか?
これは聞くまでもない。そんなの分かり切ったことです。それを裏を返すと、こうした若年性乳がんで、残念ながら早期発見できなかったとしたら、不幸な顛末になってしまったとしたら、それは”親の責任”ということもできる。検診の対象にならない若い女性に、普段から、若い時から自己チェックをするように声掛けできるのは親だけだと思います。日常生活の場面場面で気を付けるように、たとえうるさがられても、言い続けることができるのも親だけだと思います。
その気持ちはある。ただどう教えたらいいかわからない。正しい方法がわからない。
だからこの本を書きました。
この本は、母へ娘へという副題がついています。これは、母へ(このことをわかってください。貴方だけが検診していてもだめだ、貴方の娘さんは大丈夫ですか)、(あなたの)娘へ(この本の内容を教えてください。検診に行かないまでも、定期的に正しく自己チェックをするように指導してください)という内容を込めているのです。
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