乳腺と向き合う日々に

2024.07.17

雨の乳がん学会総会 その2 中間期がん(検診と検診の間に見つかるがんという考え方)

「私はきちんと2年に1回 マンモグラフィ検診を受けているから大丈夫」

以前にも触れましたが、米国予防サービス特別委員会 (USPSTF) による乳がんスクリーニングガイドラインでは、すべての女性が40歳から隔年で乳がんの検査を受けることを推奨しています。これはしかしBグレードの推奨です。Aではありません。隔年、あるいは毎年でもマンモグラフィによる乳がん検診を受ければ、乳がん死は抑制されるという確実な証拠があります。これは間違いない。ならばなぜBなのでしょうか。
その勧告は、科学的証拠に基づいて評価され、勧告の強度はAからDまでの等級で示されます。A等級は高い推奨度を示し、D等級は効果がないか、または害があるという証拠があることを示します。
最新のガイドラインでは、開始年齢が引き下げられ、40歳から隔年で乳がんの検査を受けることを推奨していますが、これはBグレードの推奨とされ、純利益が中程度である、または中程度の効果があるという高い確実性があることを意味しています。なぜAではないのでしょうか。

もし本当に”きちんと2年に1回 マンモグラフィ検診を受けているから大丈夫”であるのなら、それを1年に1回、そして半年に1回、3か月に1回としていけば、ほぼ100%大丈夫、でなければなりません。
しかし少なくとも1年に1回で北斗さんや、小林麻央さんの例があるように100%大丈夫ではありません。早期発見できないこともある。では半年、3か月に1回ではどうでしょうか?

これも前述しましたが、米国予防サービス特別委員会 (USPSTF) による乳がんスクリーニングガイドラインはMonticcioloをはじめとする研究者らによる、がん介入・監視モデリングネットワーク(CISNET)の2023年乳がんスクリーニング結果に基づいて定められました。研究者らは乳がん検診の利点とリスクを以下の4つの異なるシナリオで比較しました。

1、50~74歳の女性を対象とした2年に1回の検診
2、40歳から74歳の女性を対象とした2年に1回の検診
3、40歳から74歳の女性を対象とした年1回の検診
4、40歳から79歳の女性を対象とした年1回の検診

結論として、Monticcioloは、40歳から79歳の女性を対象にデジタルマンモグラフィまたはトモシンセシスによる年1回のスクリーニング(つまりシナリオ4)により死亡率が41.7%減少することを発見しました。一方、シナリオ1では25.4%減少し、シナリオ2では30.0%減少しました。

つまり2年に1回を、1年に1回にしても乳がんで死亡する確率を10%下げるだけだったのです。
私の医療圏では140名の方が亡くなっていると言いました。2年に1回の検診を1年に1回の検診に倍に増やしても、140名が120名になるだけなのです。それが小さいとは言いません。ただ医療コストは単純に倍になるので、それに見合わないとは言えると思います。

ましてやこれでは「私はきちんと2年に1回 マンモグラフィ検診を受けているから大丈夫」とは言えないのではないでしょうか。推奨グレードAとはとても言えないでしょう。

例えば毎年歯科受診をしている方は、受診していない方よりも齲歯は少ない。

学校以外に塾に通う子は通っていない子より成績がいい傾向がある。

ただそれは歯科医が何かしたからよりも、そういう人の方が、日常での意識が高く、しっかり気を付けて歯磨きをするからではないのでしょうか?年1回の歯科医の処置よりもその方が大きいのではないか。

塾も、週に1-2時間受けている講義で何を習っているかよりも、そういう意識がある子の方が普段から勉強する傾向が高いから成績が良くなるのではないでしょうか。

 隔年のマンモグラフィ検診で、乳がんを全例確実に早期で発見できるから乳がん死の抑制効果が出ているのではない。検診を受けておられる方は、普段から乳腺に気を付けて自己検診をしており、気になったらすぐに施設を受診する心構えができているから、乳がん死が抑制できているのではないか。

ちなみに検診を定期的に受けておられる方が、それでも検診ではなく、ご自分で腫瘤に気づいて乳がんを発見してしまう場合、これを中間期乳がんと言います。

Orsiniらの研究によれば、定期的に検診を受けている方で、検診と検診との中間期に自覚症状で発見される乳がん症例は全発見症例の28.9%にのぼり、その腫瘍の平均サイズは18mmでした。
Orsini L, Czene K, Humphreys K: Random effects models of tumour growth for investigating interval breast cancer. Statistics in Medicine 2024.

逆に定期検診を受けないから乳がん死に至るのではなく、定期検診を受けない方は、乳腺に関心がないから進行するまで乳がんを放置していて死に至るのではないか。

私が経験した過去3年以内に検診歴のない自己発見乳がん症例1541例における腫瘍サイズは触診では24.0mm、病理切片上では23.4mmでした。同じ自分で触って乳がんを発見したとしても、検診を定期的に受けられている方ではサイズを小さく見つける傾向があります。検診を受けられない方は進行して見つかる、それは常識ともいえるがそれは検診が直接的に影響しているだけではないのかもしれません。

早期発見にこだわらないとすれば、もともと乳がんは検診を受けなくても自己チェックで発見できます。だとすれば隔年施行されるだけの乳がん検診の精度をあげることよりも、乳がん検診の受診率をあげることの方が乳がん死の抑制効果はよほど大きい可能性が高いといえます。さらにそれによって自己検診をさせる動機付けを行い、日常の乳がんに対する意識を高めることで乳がん死を抑制することに貢献する効果も無視できないのではないでしょうか。

われわれ検診クリニックは、来られた患者さんの乳がんを早期発見することはもちろん必須です。

でもおなじくらいの努力が、受診される方の動機づけと、その方の日常の意識改革、自己検診の教育に向けられていなければならないのではないか、そう思います。