乳腺と向き合う日々に

2021.09.26

ブレスト・アウェアネス もう一度

以前 ブレスト・アウェアネスについて説明しました
ブレスト・アウェアネスとは、簡単に言い切ってしまえば、自分の乳腺の正常な状態を知っておこう、という”考え方”です。乳がんは自分で検診できるほぼ唯一のガンです。しかしほとんどの人がそれをしない。たとえ定期的に病院やクリニックを受診して健診をうけているとしても、毎月検診している人はいないはずです。しかし自分で検診するなら毎日だって可能です。それなのになぜ。
多くの方がこう答えます 「触ってもわからない」。
当たり前なのです。医師でもない限り、一般の女性は乳がんを触ったことも、見たこともありません。形も大きさも硬さも知らない。探しようがない、だからわからない。それが当たり前です。
ブレスト・アウェアネスはその考え方を根本から変えてしまうものです。
まずはどこでもいい、検診を受けて異常なし、正常だ、と診断されるところから始まります。
そしてその日、自宅に帰った後、しっかりと自己触診、自己検診をします。そして正常な自分の乳腺の状態をしっかりと覚えておくのです。その後は毎日検診する必要はありません。ときどき、その時と”違いがないか”を確認していくだけでいいのです。その意味から自己触診は毎日しているほうがむしろ違いがわかりにくくなります。月1回程度が適正なのです。

健診を受け、正常と診断されたら、その状態を自分でも自己触診、自己検診して、覚えておく。
毎月気が付いたら自己検診して、そのときと”変わったところ”がないか、確認する。

これがただしい自己検診の在り方です。自分の乳腺の状態を知っておく、これがブレスト・アウェアネスの概念です。

乳がんは原則固いのですが、柔らかいしこりのこともあります。

乳がんは原則触っても痛くありませんが、痛みを伴うことがあります。
乳がんは浸潤するので原則として乳腺内で動きにくいですが、コロコロとよく動くがんもあります。
乳がんは原則1個のしこりとして発生しますが、板状に発生したり、離れて島状に発生することもあります。乳腺全体が硬くなったり、皮膚の色が変わることから見つかるがんもあります。
乳がんは原則ある程度の速度をもって増大しますが、年単位でゆっくり大きくなることもあります。
乳がんは原則乳腺にできますが、乳腺には何もないのに、わきの下だけにできることがあります。
乳がんは原則若い方では増殖が速いですが、遅いこともあります。また高齢であっても増殖の速い場合があります。

このように乳がんの性質には例外もあるので、乳がんを探す、という目的で自己検診をすることはまず不可能なのです。
われわれ乳腺を専門にする医師は、正常な乳腺も異常な乳腺もたくさん見ています。ですので診断できるのです。しかし皆さんが詳しく知ること、把握することができるのは自分の乳腺しかありません。それも正常な乳腺しかありません。正常を知らないで、異常を見つけることはできない、そういうことなのです。

スペース

ブレスト・アウェアネスを意識しない検診は、場合によっては逆に悪い結果につながることがあります。

市町村からやってくるクーポンや、人間ドック、様々な機会にマンモグラフィを中心とする乳がんの検診を受けておられる方も多いと思います。とても大切なことで、その意義に関しては否定のしようもありません。乳がん患者さんの9割近くが治癒するようになった現代医療において、もし検診を受けておられるような方がきちんと治癒しないなら、それほど良い成績にはならないでしょう。

ただきちんきちんと検診を受けておられる方こそ、かえって陥りやすい危険がある、と言ったらどうでしょうか。そしてそれを防ぐ簡単かつおそらく唯一の方法がブレスト・アウェアネスなのだ、と言ったら皆さんは理解できますか。

ここでたとえ話をします。
Aさんはきちんと毎年ドックを受診し、マンモグラフィによる乳がん検診を受けています。
今年もコロナの騒ぎもありますが、自分で決めたこと、きちんと受診しました。

説明を聞くAさんです。ここではブレスト・アウェアネスを実践するAさん、しないAさんのたとえ話をします。

きちんと検診を受けたAさんは医師から、現状は何も異常はないこと、正常範囲内であり、心配はないことを説明されました。

定期的に自己検診をすること、定期的に同様な検診を受けたほうが良いこと、の説明を受けました。

Aさんはその際にブレスト・アウェアネスの考え方の説明を受けて、それを実行するよう勧められました。

その日の夜

自宅に帰ったAさんは、意識しながら自分の乳腺を全体に触ってみました。硬いところに気が付きました。痛いところもありました。ごろごろするところもありました。でも今日検査したばかりです。正常範囲の変化であることは間違いありません。そう考えてその日はゆっくりと眠ることにしました。

自宅に帰ったAさんは、医師からいろいろ聞きましたが、正常と診断されましたことですっかり安心しています。
家事を終え、入浴してリラックス、その日はそのまま床に入って眠りました。
(つまりブレスト・アウェアネスを意識しませんでした。)

しかし6か月後…

嫌な話であることをご了承ください。ここではたとえ話をしています。
ブレスト・アウェアネスを意識したAさん、意識しなかったAさん。
ただお二人とも時々乳腺は触ることはあっても、自己検診というほどは意識していませんでした。
忙しく日々を過ごしている中、残念なことにAさんは乳がんを発症しており、検診から6か月後、入浴の際に自分で乳腺のしこりに気が付きます。

Aさんは、入浴していて、自分で乳腺の1㎝のしこりに気が付きました。
「え、ここ・・・・硬い。」

Aさんは思います。
これ、あの正常と言われた検診の日にはなかった。こんな固いところはなかった。これは異常だわ。病院に行かなければ。

Aさんは、入浴していて、自分で乳腺の1㎝のしこりに気が付きました。
「え、ここ・・・・硬い。」

Aさんは思います。
まあでも半年前に検診を受けたばかりだし、先生は1年後で大丈夫と言われていたから…。
半年もしたら次の検診の予約も取っているし、少し様子を見ようかな。
あそうか、生理前だから張っているのかもしれない。痛くもかゆくもないし、大丈夫だよ。

さて、

さて、皆さんがもしブレスト・アウェアネスを意識して実践しなかったとしたら、
そしてその何か月か後に自分でなにか乳腺の異常に気が付いたとしたら、

右のAさんのように自分で自分を納得させて、様子を見たりしませんか?
きちんと病院を受診できますか?
その自信がありますか?

右のAさんがもし検診を受けていなかったとしたらどうでしょうか?
逆に心配して病院に行くのではないでしょうか?

つまり検診をきちんと受けて安心しているからこそ陥る危険性がそこにあるのです。これを防ぐ最も有効な方法こそブレスト・アウェアネスなのです。検診を受けて、正常とされた日に、むしろ逆に念入りに自分の乳腺の自己触診をしておく、このことがとても重要であることを理解してもらえたのではないでしょうか。
われわれはきちんと指示を守って検診を受けてくださっている方を乳がんによる死亡からなんとしても守らなければなりません。できれば抗がん剤も不要なレベルの早期で発見したい。しかし我々の行う健診だけでそれを全員に実現しようと思えば、1年1度ではとても約束はできないのです。もちろんその方の乳腺や、年齢、遺伝的な要素にも影響されます。すでに何らかの乳腺の異常を経過観察している方ではなおさらです。
健診と健診の間の乳腺の自己検診の助けを借りることができれば、その精度は飛躍的に高まります。

ブレスト・アウェアネス、これを意識して健診を受けるようにしてください。