2025.04.25
米国臨床腫瘍学会(以下ASCO)は、早期乳がんにおけるセンチネルリンパ節生検(以下SLNB)の役割に関する臨床実践ガイドラインの最新版を発表しました。
この最新版の作成には、2017年に最後に発表されたガイドライン以降に発表された試験の結果に基づく推奨事項が含まれており、SLNB単独と腋窩リンパ節郭清を伴うSLNBを比較した9件のランダム化試験と、SLNBと腋窩リンパ節郭清なしを比較した2件の試験のデータが含まれています。
「数十年前には、乳がんの治療に際しては、がんが腋窩のリンパ節に転移しているかどうか知る必要があると考えていました。そのためには、少なくとも10個以上のリンパ節を切除して、検査する積極的な手術が必要だと考えていました」と、エモリー大学ウィンシップがん研究所のガイドライン共同議長であるマイリン・A・トーレス医師は説明しました。
「しかし、リンパ浮腫、腕の痛み、肩の可動域制限といった症状が高率に発生し、多くの女性の生活の質に影響を与えていることにすぐに気づきました。リンパ節転移が陰性であったとしても、時には理由もなくそのような症状が現れることもありました。
そうした合併症を防ぐために、広範囲にわたる 腋窩リンパ節の郭清を行う機会は徐々に減少し、臨床的にリンパ節陰性と考えられる早期乳がんの患者さんにおいては SLNBによって数個のリンパ節を検査するだけでいい、という考え方に進化しました。
腋窩への手術を縮小することで、上肢のリンパ浮腫の発生率が低下し、全体的な生活の質が向上しました。そして治癒率や再発率には悪影響や低下は見られませんでした。
そしてその後には今度は、浸潤性乳がんの患者は全員、リンパ節転移を正確に評価するために腋窩のリンパ節をすべて取るようなことはしない代わりに、センチネルリンパ節生検(SLNB)を受ける必要があると考えられてきました。この情報は、適切な術後治療を決定する上で非常に重要でした。」
今回更新された臨床における実践ガイドラインでは、
閉経後、50歳以上、術前の腋窩超音波検査でグレード1~2、腫瘍サイズが2cm以下、ホルモン受容体陽性、HER2陰性、これらを満たす乳がんと診断され、乳房温存療法を受ける特定の患者に対して、術者はSLNBを省略することが推奨されています。
この推奨は、SOUND および INSEMA という 2 つの臨床試験の結果に基づいています。
第III相 SOUND 試験では、術前の腋窩超音波検査で陰性の所見が得られた早期乳がん患者において、腋窩手術を省略してしまっても、 SLNBを施行することに対して非劣性であるかどうかを比較しました。5 年遠隔無病生存率は 2 つのグループで同程度でした。
第III相 INSEMA 試験では、乳房温存手術を受ける予定の臨床的にリンパ節陰性の ≤ 5 cm 浸潤性乳がん患者において、腋窩手術の省略が SLNB に対して非劣性であるかどうかを評価しました。生存率の評価において腋窩手術の省略が SLNB に対して非劣性であることが示されました。
「SLNBの省略は乳がんの局所治療分野(手術や放射線治療)における大きな変化であり、他の多くの大きな変化と同様に、これらの知見を実践するにはある程度の意図的な努力が必要になると予想しています」と、ブリガム・アンド・ウィメンズ病院、ダナ・ファーバーがん研究所のKo Un Park医師(ガイドライン共同議長)は述べています。
「なぜなら、SLNBの情報がなくなってしまえば、それに基づいて構築されてきた放射線腫瘍医と腫瘍内科医が、その後の放射線治療および全身療法の計画を行う上で、何を基準に決定すればいいか、現状ではわからなくなってしまう可能性があるからです。」
ただ今回の改正では、SLNBが省略されても、臨床医は今まで通りに放射線療法を施行し、腋窩のリンパ節転移がないとしても必要である全身療法があるならば、それを推奨することを変更すべきではないと述べています。
このガイドラインを定めた専門家チームは、この改正に、SLNBの省略が放射線療法や全身療法の決定にどのような影響を与えるかについての追加情報を含めました。この情報は、多職種チームが手術前に微妙な状況を検討できるようにするために作成されました。パーク医師によると、SLNB 省略のもう一つの難しい点は、SOUND と INSEMA の初期検査に腋窩超音波検査が含まれていたことです。これは普遍的な方法ではありません。これはまた、実務上の課題も提起しています。診察では脇の下に何も疑わしい兆候が見られなかったのに、超音波検査で何かが見つかった場合どうすればいいか、実はまだわかっていないのです。転移ありとしてしまっていいか、まだ決まっていません。超音波検査でリンパ節転移が検出された場合はどうすればよいのでしょうか?臨床試験データはまだありません。
改訂版におけるその他の重要な推奨事項には、診断時に臨床的にリンパ節陰性であり、5cm以下の浸潤性乳がん患者さんが、乳房切除術を受け、センチネルリンパ節が1~2個陽性であっても、乳房切除後に局所リンパ節照射を受けていれば、追加で腋窩リンパ節郭清をする必要はない、とします。
この推奨事項は、腋窩リンパ節郭清を受けた患者の5年生存率に改善が見られなかったSENOMAC試験のデータによって裏付けられています。
トーレス医師とパーク医師はともに、SLNB と 腋窩リンパ節郭清の施行または省略に関する推奨事項は今後数年間にわたって進化し、変化を続ける可能性が高いことを認めました。「今後、より多くの研究で、SLNBを省略できる患者層がさらに広がると予想しています。画像診断技術が向上すれば、リンパ節ががんに侵されているかどうかをより確実に判断できるようになり、SLNBを行う必要性は減っていくと考えています。」
まとめ
・閉経後、50歳以上、術前の腋窩超音波検査でグレード1~2、腫瘍サイズが2cm以下、ホルモン受容体陽性、HER2陰性、これらを満たす乳がんと診断され、乳房温存療法を受ける特定の患者に対しては、術者はSLNBを省略する、つまり腋窩には何も手を加える必要はないことが推奨されています
・診断時に臨床的にリンパ節陰性であり、5cm以下の浸潤性乳がん患者さんが、乳房切除術を受け、最終的にセンチネルリンパ節が1~2個陽性であっても、乳房切除後に局所リンパ節照射を受けていれば、追加で腋窩リンパ節郭清をする必要はない、ことも同時に推奨されました。
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