あぁ、ついにその時代が来るのか…この結果をみて私はそう思いました。
毎年米国シカゴではASCO、米国の臨床腫瘍学会が巨大な会場で開催されます。世界中のがんの研究者が集まって、その研究成果を発表する、おそらく世界最大の学会です。今年は5月30日から開催です。
その会場では、エポックメイキングな、つまり今後の標準治療そのものを変えてしまうような、時代を変化させてしまう素晴らしい発表が何年かに一度なされます。その時その会場に居合わせた医師はラッキーです。
会場全体で医師が立ち上がり、地鳴りのような拍手でスタンディングオベーションが起こるのです。難しい英語で、発表の最中にはついていけなかったぺいぺいの医師であっても、その雰囲気ですごいことが起こったのだとわかります。その翌日、その日から、業界にニュースが知れ渡り始めます。そしてすべての医師が、これからは標準治療、つまりこれが最善であり、当たり前であり、これ以外の治療は何らかの理由がなければ選ばれることはない、そのスタンダードがはっきりと変わったことを知るのです。
この研究の結論が発表された時、おそらくその一つになるのでしょう。
前振りが長くなりました。
テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者による新しいデータによると、もともと早期乳がん患者でありながら、術前に化学療法を施行し、画像上にがんが確認できないくらいに小さくなってしまった、そしてそうした乳腺に標準的な放射線治療を行った場合、手術が必要ない可能性があるということがわかりました。
JAMA Oncology 誌に掲載された第2相試験、その5年間経過観察された結果によると、
早期がんで発見された乳腺のしこりに、手術を行うことなしに抗がん剤による化学療法と、その後に放射線療法を行い、針生検による組織学的検査を行います。そこで病理学的完全奏効、つまりがんが残っていない、と診断された患者では、そのまま手術なしで経過観察していても、乳がんが再発していないことが明らかになりました。
追跡期間中央値55.4か月(つまり約4年半は経過を見たということです)、病理学的完全奏効を示した31人の患者全員が無病状態を維持し、全生存率は100%だったとのことです。
抗がん剤をされる、これは手術をされなくてもいやでしょう。ただ手術をしても抗がん剤される方はいます。放射線治療は、乳腺を全摘せずに温存した方では絶対、全摘しても必要とされる方はいます。
この二つをして、その後にしこりがあった部位を特殊な針で突いて検査をします。
顕微鏡で見て、がんが残っていない、と判断されたら、もともとしこりが存在した部位を含めてすべてそのまま手術をせずに経過観察するわけです。
そうしたら4年以上経過観察して、再発もなく、乳がんで死亡する方も0だった。そういう結果です。
外科腫瘍学会2025年年次総会でも発表されたこの研究結果は、乳がん患者さんのうち、一部の患者では長い間標準治療の一部となってきた乳房手術を回避できる可能性があることを明らかに示唆しています。
「5年経過時点で乳がんの再発が認められなかったことは、この手術を伴わない乳がん管理法の大きな可能性を浮き彫りにしています」と、MDアンダーソンの乳腺外科腫瘍学教授で主任研究者のヘンリー・クーラー医学博士は述べました。
この研究は、化学療法に良好な反応を示す早期乳がん患者において、手術を省略することができるか、という疑問に関する初の近代的な手法による前向き試験です。約 2年間の追跡調査による結果は、以前 The Lancet Oncology 誌に発表されています。今回それが5年間に延長されました。
世界中で、毎年 230 万人の女性が乳がんと診断されています。1 世紀以上にわたり、末期がんではない、転移を伴わない浸潤性疾患の治療では手術が標準でした。しかし化学療法剤の改良により病理学的完全奏効率が大幅に向上しました。この高い奏効率と選択的画像誘導吸引補助コア生検(US-VABという検査方法です。これは病理検査のところで触れています)および厳格な組織学的処理を組み合わせることで、手術が必要ない患者を判別する医師の能力が向上しました。
この多施設共同試験には、早期段階のトリプルネガティブ乳がんまたは HER2 陽性乳がんを患う 40 歳以上の女性 50 名が参加しました。参加者の平均年齢は 62 歳で、トリプルネガティブ乳がん患者が 21 名、HER2 陽性乳がん患者が 29 名でした。
標準的な化学療法治療後に、この試験の参加者の乳腺のしこりが画像診断で確認され、そのすべてが 2 cm 未満と判定されました。その後 患者は 画像誘導吸引補助コア生検(US-VAB検査)を受けました。この生検で生きたがん細胞が認められなかった場合、手術は省略されます。
その後 患者は標準的な乳房放射線療法に進みました。
US-VAB生検では、病理学的完全奏効が確認されたのは、31 人の患者でした。
この多施設共同試験は患者数 100 名に拡大され、現在韓国でもさらに調査が進められています。
「これらの有望な結果が続いていることから、浸潤性乳がんに対する乳房手術をなくすことが新たな標準治療となり、今後は乳がんに罹患した女性に、乳房を温存し、体を傷つけずに済む機会を提供できることがあり得るようになる」とクエラー博士は述べました。
「この治療法が日常的なものになることを期待しているが、これが標準治療となるにはさらなる臨床試験が必要だ」
まとめ
トリプルネガティブ乳がんはともかく、HER2陽性乳がんはほぼ全例で抗がん剤が必要とされます。せっかく早期発見されても、抗がん剤を投与されることがおおいタイプになります。
どうせ抗がん剤されるのであれば、早期がんであればがんが画像上消失してしまうこともあるわけで、そういった場合、手術を省略できるのではないか、とはだれでも考える疑問です。
今回、こういう条件を満たせば手術を省略できる、という道しるべが提示されたことは大きい。今後はその検証も加速するでしょう。
あと5年、10年後には早期乳がんの標準治療の一つに、手術なしの治療法が加わることになることはほぼ確実です。
ご予約専用ダイヤル
079-283-6103