乳腺と向き合う日々に

2025年04月

検診と検診の間に見つかる乳がん 

たとえば毎年ドックをしている、クーポン検診は2年ごとにすべて受けているなど、きちんきちんと検診をうけているのにその時には見つからず、結局自分でしこりに気が付いて見つかる乳がんがあります。それを中間期(検診と検診の中間)がんと呼びます。この中間期がんについて、このブログでも何度か述べてきました。
雨の乳がん学会総会 その2 中間期がん(検診と検診の間に見つかるがんという考え方)
検診を受けていれば大丈夫・・・なのか? さらに中間期がんについて

中間期がんは皆さんにとっては”検診の見落とし”として映ります。
乳がん検診の有効性に対する否定にもつながり、さらに医療そのものに対しても不信感を持つ原因にもなるでしょう。こうした皆さんの中に生じた疑惑は、医療行政にも影響を与え、結局検診なんてやっていても無駄だ、税金の無駄だ、という考えにつながります。中間期がんを無くすことは我々にとっても死活問題とも言えます。しかし決してなくなりません。

マンモグラフィ、乳腺超音波検査、これらを検診としてルーティンで施行している行政機関もあるでしょう。最近ではBRCA陽性症例では毎年のMRI検査を義務付けている施設もある。
しかし中間期がんはなくなっていません。

持っている道具、つまり検診の機器の性能が多少なりと改善したとしても、根本的に変わらないのであれば、検診の頻度を上げるしかありません。しかしそれも限界があるでしょう。毎月受ける、3か月に1回受ける・・・無理です。それはもう検診ではありません。1年に1回が乳がんに罹患したこともない、基本的に健康である皆さんにとって、生活の時間を割くことのできる限界ではないでしょうか。

だとすると中間期がんはなくならないでしょう。

それはこういうことから証明できます。

米国では、2年おきのマンモグラフィ検診を、毎年に変更したら、乳がんによる死亡をどれくらい下げることができるのか、調査されました。
検診を受けたことがない方が、乳がんで毎年亡くなっています。その数を100とします。
40歳から74歳まで2年おきにマンモグラフィ検診を施行します。するとその数は70までさがります。いえ、70までしか下がりません。
ではそれを40さいから74歳まで毎年に変更したとします。するとその数は0になるでしょうか?
いいえ、なりません。63に下がるだけです。63の方々は毎年マンモグラフィ検診を受けていても、受けていない方と同じく乳がんで亡くなってしまっています。

これは驚くべき数字です。

予算を倍に増やし、頻度を倍にしても、乳がんで亡くなる方は7%下がるだけなのです。もっといえば63%の方は検診を受けていてもいなくても、かわらず乳がんで亡くなってしまいます。

私はマンモグラフィ検診は、もともと皆さんの期待を10としても4、せいぜい5にしかならない検査とお話ししています。それはこういった結果によります。
検診に携わっている医師は、絶対に見落とさない、という覚悟のもと、日夜 勉強会、研究会と称してマンモグラフィの読影の研鑽に励んでいます。私もその一人ではあるのですが、こうして名人芸の域に達した読影医の先生がどれほど大量に出現したとしても、おそらく中間期がんは目に見えては減らないでしょう。それはこのマンモグラフィというモダリティがそもそもすべての乳がんが発見できる検査方法、検査機器ではないことがもう明らかなのではないか、と考えられるからです。中間期がんを無くすという課題は、見落としを防ぐ、という方向での努力では解決しないことはもはや明らかだと思います。(もちろん現状こうした努力を否定しているのではありませんよ。)

もしこの検診を受けながらも乳がんで亡くなってしまう63%の方々が、日常でしっかり自分で自己チェックされていたとしたら、中間期がんとして見つかった可能性があります。ただ、それが早期発見であったかどうかはこの資料からはわかりません。もちろん私はきちんとした方法で、正しく努力すれば自己チェックで早期発見は可能だと考えているからこそ、本を出したわけなのですが…。

スペース

さて この中間期がんですが、検診で発見される乳がんよりも予後が悪いことが明らかになっています。

高濃度乳腺に発生する乳がんは、中間期がんとなりやすいことはすでに述べました。
高濃度乳腺は出産経験のない方によく見られ、また20代、30代の若年者のほとんどが高濃度乳腺です。そうしたことを踏まえれば、中間期がんの予後が不良であることが多いことは理解ができます。

最新のJAMA Oncology に掲載された研究によると、何十年にもわたって年齢に基づいたマンモグラフィー検査が行われてきたにもかかわらず、スウェーデンの女性で発見された乳がんの30% が、驚くべきことに予定された検診の間に発見されていないことがわかっています。
これらの中間期がんを早期に発見するために、その女性個人ごとに個別化されたリスクに基づく検診戦略へ移行するべきではないか、という考え方が出てきています。

中間期がんは、定期検診と定期検診の間隙をぬって発見され、診断される乳がんです。マンモグラフィー検診は、乳がんを早期に発見し、死亡率を確実に低下させます。しかし定期検診で乳がんが発見されたとしても、乳がんの自然史を考えればたとえば2年前の検診の際には乳がんがまったく存在しなかったということは考えられず、残念ながらその前回、前々回の検診では多くの乳がんを見逃していたことは確実です。

高濃度乳腺、不均一高濃度乳腺と呼ばれる密度が高い乳房は、それだけで乳がんのリスクを高め、腫瘍を見えにくくしてマンモグラムの読影を複雑にするため、マンモグラフィーによる検診の精度を下げてしまいます。中間期がんの発生率についていまだ十分に調査されたとは言えませんが、画像技術、放射線科医の解釈、乳房密度などの患者固有の特性などの要因により、存在している乳がんがマンモグラフィ検診で検出されないことは実は珍しくはないのです。

先にも述べましたが、中間期がんは現状の医療レベルでは避けられません。しかしたとえば乳房密度がマンモグラフィに与える影響について、患者さんも医療提供者事態も理解が不足していることにより、中間期がんが発生するたび、検診への不信と、2 年ごとのスクリーニングの有効性についての疑問が生じてしまっています。

1989年から2020年の間にストックホルムのマンモグラフィ検診を受けたスウェーデン生まれの女性を対象に、人口ベースのコホート研究が実施されました。これらの40歳から74歳の女性は、18か月から24か月ごとにマンモグラフィ検診を受けていました。この研究では、中間期がんとしての乳がんと、検診で発見された乳がんを調査し、次にすべての乳がん症例を分析してリスク要因の推定しました。

この研究結果から、29,049 人の女性 (5.5%) が乳がんと診断され、そのうち 10,631 人 (2%) がスクリーニングで発見されたがん、4,369 人 (0.8%) が中間期がんとして診断されました。

中間期がんは、浸潤性、腫瘍が大きい、リンパ節転移がある、組織学的な異型度が高い、Ki-67 増殖指数が高いなどの傾向が見られ、エストロゲン受容体 (ER) 陰性、プロゲステロン受容体陰性、HER2陽性である割合も高いという結果でした。

乳がんと診断された患者さんの約 30% が中間期がんとして発症しました。この割合は患者の年齢が上がるにつれて減少していました。
中間期がんとして発見されるリスクが高い方は、初産年齢が高い、教育水準が高い、ホルモン補充療法 (HRT)を受けている、マンモグラフィが高濃度である、ことが関与していることがわかりました。

肥満とそれに関連する疾患は、検診で発見される乳がんのリスクを高めますが、中間期がんのリスクは低下していました。マンモグラフィの高濃度は、中間期がんのリスクを高めるのみならず、検診で発見されるがんなど、全ての乳がんのリスクと関連していました。

家族に乳がんの既往歴がある場合、中間期がんのリスクは 1.85 倍 (95% CI、1.72-1.99) 増加します。具体的には、中間期がんの家族歴があると HR は 2.92 倍(95% CI、2.39-3.55) に上昇し、スクリーニングでがんが発見された家族歴があると 1.70倍 (95% CI、1.44-2.01) に上昇します。
遺伝性乳がん卵巣がん 症候群(HBOC) の家族歴があると、中間期がんのリスクが大幅に増加します。
さらに、卵巣がん、大腸がん、前立腺がん、黒色腫、精巣がんの家族歴も、中間期がんのリスクを高めます。

中間期がんを発症した女性は、検診でがんが発見された女性と比較して、エストロゲンホルモンレセプター(ER)陰性がんを発症する確率が高く (22% 対 11%)、ER 陰性乳がんの家族歴があると、ER 陰性の中間期がんを発症するリスクが 3 倍になりました。

過去 30 年間、スウェーデンは中間期がんの割合を減らすことができず、研究者らは今回の検討により、中間期がんをより効果的に標的とできるリスク要因を特定しました。具体的には、乳腺密度が高く、ホルモン補充療法を受けている女性は中間期がんの見逃しが多く、その発生を減らすにはたとえば乳腺USを併用する、MRIを併用するなど、今までのマンモグラフィ検診だけにはとどまらない、検診感度の向上が必要でした