乳腺と向き合う日々に

乳がんの自己チェックというけれど、実際、触ったらわかるの?

歯磨きは親が子に教えて習慣にするもの、歯科検診は自分で考えていくようになるもの、です。

同様に 自己チェックは親が子に教えて習慣にするもの、クーポンをはじめとするマンモグラフィ検診や人間ドックは自分で考えていくようになるもの、です。

乳腺の自己チェックはしたがってすべての女性が日常で習慣としてするものです。

私の外来では、検診で来てくださった方の診察の中ではもちろん、待合室では私のビデオが流れていますし、このブログでも繰り返し、自己チェックをしてくださいとお願いしています。
ただ歯科検診を受診して、口頭で歯磨きをしてくださいね、とは声掛けしていただけると思いますが、正しい歯の磨き方を手取り足取り指導してくださる歯科医の先生はあまりおられないと思います。基本的に年に1,2回の指導では子供はきちんと磨くようにはなりません。やはり親の監視と指導があってはじめて習慣になります。しかも親に言われてやっているうちは本当の習慣ではありませんよね。自分からやるようになって初めて虫歯ができにくい環境が整います。歯磨きの指導は本来歯科医の日常の役割とは異なるのです。

私は乳腺の自己チェックもそれと同じで、乳がんの検診に自発的に来院されている女性に勧めていけば、きっと娘さんにも指導してくださるようになる、と考えています。それが今度は娘から孫に指導されるようになれば医師の役割は本来の役割に戻るでしょう。

ただ題名にあるように 「乳がんって自分で触っていたら本当にみつかるの?」という根本に疑問があれば、積極的にしようとは思ってくれないと思います。ただこの質問はあまりにも現状がわかっておられない質問なのです。

円グラフ

私の施設は年間2万人を検診し、大体200人強の乳がんを発見しています。
上の図はその内訳なのですが、昨年の段階でも残念ながら定期的に検診をされていて見つかった、あるいは他施設のドックや、クーポン検診で異常を指摘されて見つかった、そうした検診で発見された患者さんは35%です。割合から見て、最も多いのは自分で乳腺のしこりに気が付いて受診された、方です。
これはずっと変わりません。自己チェックでの発見はずっと1位で検診発見は2位です。すこしづつ2位が1位を追い上げていますが、まだ変わりません。

乳がんは自分で触って気がつくのですか? 

「はい 乳がんの大部分は検診で見つかったのではなくて、自分で見つけられています。」

それが回答になります。

上の写真は、私の外来診察室においてある大小のビー玉と、ゴルフボールです。
右端の1.7㎝のビー玉が、私の本に付属しているものと同じサイズです。

「先生、乳がんって触っていたら本当にわかるんですか?」

これ(1.7cm)、自分の乳腺に当てて、想像してみてください。もしこの大きさで、この硬さのしこりが自分の乳腺に隠れていたら気づきますか?

「うーーん。難しいかな・・・」

そうですか?ではこの大きいビー玉(2.5cm)ならどうですか?

「いやこれは気づくでしょ。私の胸はそんなに大きくないし。」

そうですか?たとえば若い方が生理中や、生理前の乳腺が張って、痛みがあるような時ならどうでしょう?

「うーーん。そうですね・・・難しいかな。」

そう、だから自己チェックは痛みが気になったり、乳腺が張った時にするのではなくて、生理の間の乳腺が柔らかくて、張っていないときにしないといけません。娘さんに指導するときはそうしてください。ではこのゴルフボールならどうですか?

「これは論外ですよ。気づかない人いるんですか。」

そのとおり、乳がんを触って気が付かない人なんていないんですよ。乳がんに限らず、がんは必ず時間とともに進行して大きくなりますから。ただ、どの段階で気づくのか、それをできるだけ小さく見つけないといけないのです。自分で気づくにしても、検診で発見するにしても、早期で発見することが最も重要になります。自己チェックで気づくなら、この一番小さなビー玉が早期乳がんの上限になるのです。

できるだけ小さく見つけたい、小さい段階で気づきたい。

そのためには先に述べた生理前、生理中は避ける、など様々な注意があります。
自己チェックを行うのであれば、正しくやらなければどうしても発見が遅れるのです。逆に正しくやれば早期で発見することも可能になります。自己発見で見つかった乳がん患者さんでも、私のデータでは44%が早期発見されていました

だからきちんとした知識を持って自己チェックをしなければなりません。

繰り返しになりますが、乳腺の自己チェックはすべての女性が、正しいやり方で規則正しく日常で習慣としてするものです。

そして自己チェックは親が子に正しいやり方を教えて正しく習慣にするもの、クーポンをはじめとするマンモグラフィ検診や人間ドックは自分で考えていくようになるもの、なのです。

前回の 自己チェックの”ポイント”を参考にしてください。ここで書いたことも本にまとめて書いています。よかったらご購入ください。

定価1,650円(本体1,500円+税)