2025.02.03
皆さんはGLP-1という一種のホルモンを利用したお薬を知っていますか? これやせ薬です。
GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)は、腸管ホルモン(インクレチン)の一種で、食事の後に小腸から分泌され、血糖値の調節に重要な役割を果たします。以下のような働きがあります:
インスリン分泌の促進:血糖値が上昇すると、膵臓のβ細胞からインスリンの分泌を促進します。これにより血糖値を下げる効果があります。
グルカゴン分泌の抑制:膵臓のα細胞から分泌されるグルカゴン(血糖値を上げるホルモン)の分泌を抑えます。
胃の排出遅延:胃の内容物の排出を遅らせることで、食後の血糖値上昇を緩やかにします。
食欲抑制:中枢神経系に作用して食欲を抑える効果もあります。
GLP-1受容体作動薬(GLP-1アゴニスト)と呼ばれるGLP-1の作用を利用した糖尿病治療薬や肥満治療薬が開発されています。これらの薬は、GLP-1の働きを模倣または強化することで血糖値をコントロールし、体重減少にも効果を発揮します。有名な薬剤には以下があります:リラグルチド(ビクトーザ、サクセンダ) セマグルチド(オゼンピック、ウゴービ)これらは特に2型糖尿病(インシュリン使用にまで至らない糖尿病)や肥満治療に使われることが多いです。
私のブログを読んでいる方、私の患者さんではもう耳にタコができるか、きくのも嫌になっていると思いますが、乳がんに罹患された後、もし再発を防ぐために”皆さんが”できることで、確かに効果ありと証明されていることは一つしかありません。(ホルモン剤をきちんと飲むとか、抗がん剤をするなど、医者がすることを別にして)
それは規則正しい運動を心がけて、太らないこと、です。
しかし乳がんのような大きな病気を経験されると、それをきっかけに今まで通っていたジムをやめてしまったり、趣味の山登りやマラソンをやめてしまったり・・・なにより年齢は嫌がおうでも拾いますから、じわじわと太ってしまわれている方は多いのが現状です。
先生、ホルモン剤のせいじゃないですか?
「ホルモン剤は0カロリーです。食べなければ太りません。」
なんて会話を私としたことのある患者さんは多いですよね(笑)。
なんか、痩せる薬とかないですかね? とそうなりますよね。
あることはあるんです。それがGLP-1です。
もちろんその目的で保険が通ることは考えにくいですから、わが国ではほとんど普及していません。ただ米国では現状積極的に使われているようです。そしてそれを実際に臨床で使用されている、そして全国で講演までされている先生のコラムがありましたので紹介したいと思います。示唆に富む、そして非常に興味深い話になっています。
GLP-1をベースとした肥満治療薬であるセマグルチド(オゼンピック、ウィーゴビー)とチルゼパチド(ゼップバウンド)ほど急速に人気が高まった薬はほとんどありません。これらの薬によって肥満治療薬は大きな進歩をしましたが、そう考えられる十分な理由があります。セマグルチドが2021年にFDA(米国における厚労省、保険適応を決めている)に承認されるまで慢性的な体重管理に最も効果的な薬は、おそらく1959年に初めて承認されたフェンテルミン(アディペックス)だけでした。60 年以上も効果が疑問視され、進歩が止まったままであった中で、患者や医師が 新しく登場したGLP-1 を待望の画期的成果とみなしたのは驚くことではありません。
私も最近まで、そのような医師の一人でした。
肥満医学の専門医として、私は早くから声高にこの画期的な薬の使用を主張してきました。GLP-1 療法の臨床試験に参加し、肥満に対する前例のない有効性について公に頻繁に講演しました。私はこれらの薬に対する期待を皆さんとともに共有し、高額な費用、限られた保険適用、早期に終了したクーポン プログラム、供給不足など、皆さんもご存じのさまざまな障壁にもかかわらず、患者とともにこの薬を保険適応とし、安価に入手するために戦いました。
しかし、数年経って、現実世界での経験に基づいて私の見方は変わり、今では GLP-1 薬の使用について深い懸念を抱いています。
ただし誤解しないでください。効能の観点から言えば、これらの薬は「効きます」。GLP-1 を服用できる余裕があり、我慢でき、継続できる人は、確実に体重を減らします。私は、空腹感を減らし、食べ物の音を静め、満腹感を高めることで、体重を減らす能力がどのように変化するかを直接見てきました。そして、そのメリットは体重減少だけにとどまりません。研究では、心血管イベントの減少が確認されています。うっ血性心不全などの症状の改善、腎臓病、閉塞性睡眠時無呼吸、および変形性関節症が改善することも明らかになっています。
これらの薬が意図されたとおりに、つまり無期限に服用される限り、その効能は否定できません。しかし、これらの薬の服用を中止すると、身体と精神に何が起こるのでしょうか。ここに問題があります。
実のところ、ほとんどの患者は抗肥満薬を服用し続けません。私は毎日診療でそれを目にしています。研究によると、患者の4分の3は2年以内にGLP-1薬の服用を中止しています。多くは数か月以内に中止しています。中止の理由には、費用、副作用、供給不足などがあります。しかし、最も一般的な理由の 1 つは、患者が単に減量薬を無期限に服用したくないということです。多くの人は、「システムを打ち負かす」ことができると信じており、短期間服用し、ライフスタイルを変え、体重が戻らずに服用をやめることができる、と信じて服用をやめてしまうのです。
しかし残念ながら、それは不可能です。セマグルチドとチルゼパチドの臨床試験では、平均的な患者は3分の2のリバウンドが見られました。減量した体重の約半分(および心臓代謝変数の同様の変化)は、中止後 1 年以内に元に戻ります。人によっては、体重がほぼ瞬時に元に戻ったように感じ、最初に減った体重よりもむしろ超えて戻ってしまうことがよくあります。私の患者は、食べ物の誘惑が再び現れて、空腹感と敗北感を覚えると言います。
GLP-1薬の科学的な作用のしくみは、これらの薬が永久的な変化を引き起こさない理由を説明しています。これらの薬は、グルカゴン様ペプチド-1受容体の外因性合成アゴニストです。使用中、これらの薬は特に脳と胃の受容体を飽和させ、非常に高い持続レベルで内因性GLP-1の効果を模倣します。しかし薬の使用を中止すると、その効果は2~4週間以内に消えます。受容体はもはや空腹を鎮めるペプチドで満たされておらず、空腹感が猛烈に戻ってくる。そして体重もすぐに増える。
その結果、多くの患者が治療と中止を繰り返し、最終的に失うのは年間12,000ドル以上のお金だけになります。(ほとんどの場合、米国でも保険が使えません)
この悪循環は、我が国の身体的、精神的、経済的健康、そして肥満に苦しむ何百万もの人々にとって、長期的には重大な影響を及ぼす可能性があります。何百万もの人々に GLP-1 の短期使用を強いると、社会に何が起こるのでしょうか。結局、痩せることに失敗し、たくさんお金を使ったことだけが残る。私たちは結局、医学の最も基本的なルールである「害を与えない」に違反しているのでしょうか。
これらの薬をやめることによる悪影響は体重の増加だけにとどまらず、体重の増減には一定のリスクが伴うこともまたわかっています。体組成を測ると、GLP-1による治療中、患者は筋肉量を失うことがわかっています。脂肪とともに、筋肉の損失の多くは回復しないという研究結果が出ています。中止してその後体重が元に戻った場合、戻った体重は主に脂肪であり、筋肉ではありません。これにより、筋肉量が減り、基礎代謝率が低下し、将来の減量が困難になるなど、むしろ治療前より状態が悪化する可能性があります。健康への影響としては、筋力の低下、骨密度の低下、骨折リスクの上昇などがあります。
心理的には、体重が元に戻ると肥満に関する誤解や偏見が強まります。患者はまたしても「失敗した」試みに対して自責の念と恥を感じ、それがうつ病や自信の低下につながることも少なくありません。
最後に、何百万人もの人々がこれらの薬を服用したり中止したりすることで生じる経済的損失は計り知れません。人々はこれらの薬に毎年何千ドルも費やして大きな犠牲を払っているが、結局は体重が元に戻ってしまう。医療経済はこれ以上膨れ上がる費用に耐えられない。全国の州ではすでに、維持不可能な費用を理由に保険の適用を停止している企業もあります。
患者が何万ドルも費やし、不快で時には深刻な副作用に耐えた後、私たちはこの時代を振り返ることになるのではないかと私は恐れています。そして体重増加の繰り返しと食事に関する不満の復活を経験した後、こう自問するのです。
「これらの薬が「効く」としても、本当に効いたのだろうか?それとも、最終的に患者、社会、経済に害を及ぼしたのだろうか?」
まとめ
たとえは悪いですが、まるで覚せい剤ですね。
疲れが取れない、何も手につかない、でも覚せい剤を使うと超人になったように眠ることなく、どんどん仕事がはかどる。なんでもできるような気がする。
でも薬が切れた途端に、前にもまして恐ろしい疲労感と、無力感にさいなまれる。仕方なく、また覚せい剤を使う。もはやお金をいくら使ったかもわからないが、もうやめられない。
やはり楽して、というか薬でなにかを得ようとしても、必ず何かを同時に失う、ということですよね。生活習慣に伴う病気は生活習慣を先ずは正す。それ以外の解決方法はそれがまずできてから、そう思います。
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