乳腺と向き合う日々に

非浸潤性乳管癌(DCIS)と診断されても手術を省略して アクティブモニタリングで大丈夫!?

DCIS(非浸潤性乳管がん)は以前から超早期がん、Stage 0とされ、ほぼ転移や再発はなく、手術で完治できるがんとして扱われてきました。

ただ本来 がんは、「転移、再発の可能性が否定できない」、「手術で完全に切除できたはずなのに何年かして再発してくる、転移が見つかる」、「微小転移の存在が0%とできない」、それこそががんであったはずです。取れば100%治るのは良性のイボや良性のポリープと変わりません。

がんの定義はがん細胞で構成された腫瘍であり、がん細胞とは命をとるもの、転移するもの、という定義ではなく、無限に増殖する細胞という定義になります。つまり命を取らなくても、転移しなくても無限に増殖し続ければがんなので、DCISはその範疇としてがんと程度されているのです。

その意味から、DCISは未だ皆さんが認識しているがんと呼べる状況にまで至っていない、前がん病変、未病とも考えられます。ならばがんになるまで待っていても問題ないはず。つまり厳重経過観察していれば、DCISの段階でとどまっている限り、手術や、ましてホルモン剤、抗がん剤をしなくてもいいのではないか?という考え方は出てきます。

今年の米国で開催されたサンアントニオ乳癌シンポジウムでは、 低リスクの乳管内癌(DCIS)に対しては、厳重経過観察(これを積極的モニタリングと呼んでいます)でいい、いままでガイドラインで推奨されていた治療、つまり手術で切除する、必要なら放射線治療を加える、と比較しても、その後に本来の乳がん、つまり同側の浸潤がん(これこそがStage 1から4までに分類される乳がん)の発生率を高めることにはつながらなかったことが、ランダム化COMET試験で示されました。

つまり、DCISを手術せずに経過観察していても、手術をして切除しても、その後に本来の乳がんが発生する(乳がんと診断される)確率に差がなかったことが分かったのです。ちなみに両方の群ともに乳がんによる死亡例は1例もなかったそうです。またホルモン剤に関しては、患者さんの選択によってたとえ手術をしていなくても飲用してもいいことになっていました。

当初 浸潤性乳管がん=DCISとされていても、手術をしないで、経過観察をしているうちに、しっかりした乳がん、命をとる可能性のある本来の乳がん、つまり浸潤がんがそこにできてくることはあります。また手術をして、切除し、放射線や、ホルモン剤投与を行っていても、その切除後にそこに浸潤がんが再発してくることがあります。

切除しているのに出てくることがあるの?それって本当にまれじゃない?とだれでも思われるでしょう。あるんです。めったにありませんが。

DCISの発見後、2年間での同側の乳房における浸潤がんの累積発生率は、積極的モニタリング群では4.2%、標準治療群では5.9%でした。この差は統計的に有意ではありませんでしたが、DCISに対する積極的モニタリングは、ガイドライン推奨治療と比較して、統計学的には”劣る”とは言えない、と証明されるものでした。ノースカロライナ州ダーラムのデューク大学医学部のシェリー・ファン医学博士、公衆衛生学修士は、このことを今年のサンアントニオ乳癌シンポジウムで報告しました

この試験のデザインは少し理解が難しいので、捕捉します。本来DCISは見つかったらすぐに手術をするのが原則です。切除すればその標本は病理で詳しく検査されます。そうすればDCISだとされた腫瘍の一部に浸潤癌が見つかることがあります。つまりStage 0ではなかったのです。もちろんStage 1、本来の転移を起こし、再発する可能性が否定できない、つまり生命に危険を及ぼすがんであった、ということになります。
今回の試験では、DCIS診断後、すぐに手術を受けた群で、その後の2年間で浸潤がんが見つかった症例は、4-5人を除いてすべて、手術時に実は浸潤がんだったとのことです。つまり標準治療群で2年間で浸潤がんだった5.9%は最初からDCISではなかった、ということになります。切除しているのに浸潤がんが出てきたわけではなく、それはやはりまれだったのです。

このことは大変重要な意味を持ちます。純粋なDCIS(手術してみたら浸潤がんだったということのないDCIS)は最初に診断されたDCISの95%程度であり、それは2年程度見ていても浸潤がんにはならない、ということです。もっと言えば本当に本来のDCISなら手術や治療は不要で、放置していても問題ない、ということになります。積極的モニタリングで2年以内に浸潤がんが見つかった症例はそもそもDCISでなかったということも同時に推察されます。

誤解を恐れずに言います。この結果からは DCISはがんではない、ということです。少なくとも真のDCISは2年程度ではみなさんのおそれる浸潤性乳がんにはならない、のです。

ただ現状ではDCISが本当にDCISなのか、実は一部に浸潤がんが混じっているのか、それを確実に診断できる方法はなく、5%程度は誤りが生じます。そこは注意が必要でしょう。

 積極的モニタリングでは平均2年間(5年以上観察されている方もいます)、DCIS診断後に厳重に経過観察されています。そしてあらかじめ決められた危険なサインが認められれば手術が行われます。同じように病理に回され、調べてみても浸潤がんがそこで見つかる可能性は4.2%で差がなかったのです。
逆に言えば、このファン先生らが決めた、あらかじめ決められた危険なサイの内容こそが大変重要で、そのサインが2年間経っても出てこないDCISはおそらく真のDCISであり、手術は不要だ、ということになります。ホルモン剤を飲んでおられる方もおられるので、それは必要なのかもしれませんが…

このことにより今後はDCISについて、そのすべてが何も考えることなしに手術、まして全摘、とは言えない、ことになりました。これは乳がん、特にDCISについて、検診の在り方、方法、からその診断基準、そして前述の標準治療のガイドラインに及ぶ、とんでもない変化をもたらします。

乳房温存切除の考え方が米国で発表された時、日本では乳がんの手術は全摘一択でした。その考え方が受け入れられ、普及し、一般化するまで2年のずれがあったとされます。
しかし今ではこうした発表はインターネットで一瞬で拡散されています。ガイドラインの変更はすぐに浸透します。なによりこの学会には日本からも多くの先生が参加されています。そしてDCISと診断され、手術を直前に控えた患者さんに与える影響を恐れず、これをネットで拡散する私のような人間もいます。
いま米国で騒がれているこの発表はすぐに日本でも大きな反響が出るでしょう。私がここで触れるかどうかは大勢から見れば大きな問題にはならないでしょう。

シェリー・ファン医学博士によれば、「DCISと診断された2年後、積極的モニタリングに無作為に割り当てられた低リスクDCISの女性は、ガイドラインに準拠した治療に無作為に割り当てられた女性と比較して、同側乳房の浸潤がんの発生率において劣ることはない、という結果が得られました」とファン氏は記者会見で述べました。

「非浸潤性乳管がんと診断されたその後に、浸潤性の乳がんが発生した症例では、その2群間で腫瘍の大きさ、リンパ節の状態、腫瘍のグレードに有意差はありませんでした。」

「まだ2年間の経過観察しか終わっていませんが、短期的な結果からは積極的モニタリングによる対応は有望だと感じており、さらなる追跡調査によって、低リスクDCISの女性に対するこの治療法の長期的な結果と実現可能性が判明すると思われます」と彼女は付け加えました。

この研究はJAMA誌にも同時に発表されました。

記者会見の司会者で、テキサス大学サンアントニオ校ヘルスセンターおよびメイズがんセンターのバージニア・カクラマニ医学博士は、この研究結果はあまりにも影響が大きすぎる、とし、ファン氏がこの研究結果を患者と今後はどのように話し合うつもりなのかと質問しました。当然です。これが発表されてしまえば、DCISで今まさに手術、まして乳房全摘が必要とされた患者さんは迷うに決まっているからです。

「ここで重要な点は、これらはまだ初期のわずかな期間の観察結果だということです」

ファン氏は言います。「ですから、この結果は刺激的ではありますが、まだ実践を変える、標準治療のガイドラインをかえるほどではないと思います。もし今回のこの結果によって患者との関わり方が変わるとするならば、積極的なモニタリングで対応したとしても、その後に浸潤がんを発症するリスクは低いと患者に伝えられるようになるということだと思います。」

「私の患者の多くがそうであるように、すでに手術を拒否する決断をしている患者のために、私たちは安全で、非常に早い段階で浸潤がんをはっきりと検出できる能動的モニタリングプロトコル(これこそ前述の、DCISが手術が必要と判断されるようになる危険なサインのことです)を考案したと思います」と彼女は指摘した。「これらの結果が永続的であるかどうかを確認するには、5年、7年、10年の計画された分析を待たなければなりません。そうすれば、これは診療を変えるものになると思います。」

発表ではむしろ手術を受けた患者さんの方が浸潤がんが多く発見されたことになっていることに対して、ファン氏は、手術群で浸潤がんの発生率が高かったのは、乳房病変がDCISではなくがんであることが手術中に発見されたためだと述べました。「手術を受けた患者で発見された浸潤がんのほとんどは、4~5人の患者を除いて、ステージ分類時に発見されました。」

「それでは、積極的モニタリンググループでも手術率はおそらく同様になると予想されますか?」とカクラマニ氏は尋ねた。

「その通りだと思います」とファン氏は言う。「結果は2年と短いものですが、私たちはこの患者集団の40%を5年以上追跡してきました。私たちが検出した腫瘍のサイズが小さかったことは、積極的モニタリング群の患者に害を及ぼさない程度に診断を遅らせたことを示しているのです。」

→ この緑いろの文章で分かられたと思いますが、ファン先生はDCISが手術が必要とされる危険なサインを定義して見つけた、と考えていることがわかります。そしてその危険なサインがない限りは、”(今の段階では)おそらく”手術をせずに経過観察していても大丈夫だ、ということが分かったと言われています。そしておそらくこの危険なサインは、DCISと診断されていても、実はほんらいの乳がんである浸潤がんであった、最初の診断が誤りであったサインなのです。
もしかすると今後は、DCISが発見されたとしても、この危険なサインがない限りは手術をせずに経過観察することもできる、という風に標準治療のガイドラインが書き換わるかもしれません。

質問がありました。この研究結果は、DCISの手術が遅れると患者に悪影響を与える可能性があることを示す最近の分析結果と矛盾しています。このことはこのブログでも過去に触れていますね。

これは(DCISの患者さんのなかでもさらに)リスクの低い患者群です」とファン氏は言います。「これは DCIS 患者全員に当てはまるアプローチではありません。また、DCIS には多くのサブグループがあり、その一部は浸潤性に進行していく傾向がないことは明らかです。私たちのチームは現在、浸潤性進行のリスクが最も低い患者を予測するのに役立つバイオマーカーの開発に取り組んでいます。これは、臨床特性と組み合わせて、患者が治療について決定を下すのに役立つ追加の補助手段になると思います。今回提示したこれらのまだこれから観察が必要とはいえ、しっかりとした結果は、少なくともDCISについて考えるという議論を開始し、患者と彼らを治療する臨床医の両方にとってDCISをまったく異なる方法で捉えるきっかけになると思います」と彼女は付け加えました。

研究結果

米国における DCIS の年間発症数は約 50,000 人です。手術が依然として主な治療法であり、多くの場合、放射線療法や内分泌療法と組み合わせて行われます。治療法は、低リスクおよび中リスクの浸潤性乳がんの場合と同じです。(高リスクな浸潤がんでは抗がん剤治療が加わるという違いがあります。)

「すべてのDCISが浸潤がんに進行するわけではないので、DCISの管理において手術を軽減できる可能性がある」とファン氏と共著者らは考えました。つまりある一定の危険なサインがないDCISは、真のDCISであり、手術せずに経過観察していても大丈夫な可能性があると考えたのです。

多施設COMET試験は ガイドラインに準拠した治療と、積極的モニタリングとを比較するように設計されており、後者では手術は浸潤がんへ進行が確認された場合にのみ行われます。主要な評価項目は、その後2 年間にDCISと診断された方の乳腺に浸潤がんがあると診断されたかどうかでした。

研究者らは、浸潤性疾患の証拠がない、新たに診断されたグレード 1/2(核の低異型度)、ホルモン受容体陽性、HER2 陰性の低リスクの DCIS を持つ 40 歳以上の女性を登録しました。

1.ガイドラインに準拠した治療に無作為に割り付けられた患者は、手術として乳房部分切除術または乳房切除術のいずれかを選択できました。乳房部分切除術を選択した患者には放射線療法が提供されました。両グループの患者は内分泌療法を選択できました。フォローアップのマンモグラフィーは 12 か月間隔で実施されました。

2.積極的モニタリング群では、患者は、DCISがある乳房については 6 か月ごとに、DCISのない健康な側の乳房については 12 か月ごとに診断用マンモグラフィー検査を受けました。新たな病変が発生したり、乳房組織の変化に関する画像診断が検出された場合には、針生検が推奨されました。生検で浸潤癌が判明した場合は、そこからガイドラインに準拠した手術が必要とされました。

主要解析には、年齢の中央値が 64 歳の 957 人の患者が含まれていました。DCISの 4 分の 1 は核グレード 1 で、残りはグレード 2 でした。

2年後の浸潤がん発生率は統計的に有意ではなかったが、「積極的モニタリングはガイドラインに準拠した治療より劣らない」という結論を裏付ける、と研究者は報告しました。

こういう臨床試験は言葉にすればするほど難しくなります。
だからといってわかりやすくすると誤解を生じやすくなります。
しかしこのままの文章ではあまりにわかりにくいので、私なりに言い切ることで分かりやすくします。その意味で非常に誤解を生みやすくなるかもしれません。もしDCISと診断された方がこれを読むときはそれを了承して読んでください。

この論文が意味すること

低リスク非浸潤性乳管がん(=DCIS)(核異型度グレード1-2、ホルモンレセプター陽性、HER2陰性)と診断された患者さんの5%程度は、実はその中に浸潤がんを含んでいる。そしてその5%も、半年おきに経過観察していれば、変化が認められて、いずれは診断される。
そして残りの95%の真のDCIS症例は、治療をしなくても問題なく生存し、命を取られるようなことはない。現段階では診断後の2年間についてはおそらく保証できる

だから低リスクのDCISと診断されても、経過観察でよく、すぐに治療は必要ではない。そしてその95%の方は2年後もそのまま治療せずに経過される。