2024.12.05
骨粗しょう症は、長命な方の多い日本人ではほぼ国民病と言っていい状況ですので、そのための学会(日本骨粗鬆症学会)も存在します。そしてその学会が提案した予防と診断のためのガイドラインもあります。これは無料で誰でも見ることができます。
ただ裏を返せばそれだけ問題にもなっているということになります。
下記はそのガイドラインで示されている骨粗しょう症の年齢別有病率(左)、そして骨粗しょう症の発症率(右)です。題名は違いますが、同じことです。
かなり高いことがわかります。60歳台になればほぼ20% 70歳台で40%と増えています。
ちなみに左は日本骨代謝学会の基準をもとに行われた大規模調査の結果からのデータです。右はWHO基準に基づいて行われた調査結果から作成されたデータになります。WHOの方が基準が厳しいことがわかります。WHO基準に当てはめると男性ではほとんど発生していないことになるそうです。このように基準によっては%が変わってしまいますが、この年齢では大体この%の方で、骨はいつ骨折を起こしても仕方ないレベルで脆くなってしまっているというふうに見ることができます。
検査をして骨がスカスカですよと言われていい気持ちはしませんが、かといって痛みもなく、何も起こらないのなら、放置していても問題はないでしょう。それが椎体の圧迫骨折や、それこそ大腿骨頭部の骨折となって実際のイベントの原因となるから問題なのです。それが起こればその後の生活の質が著しく低下し、最悪寝たきりになってしまいます。
こうした骨折ですが、直せばいいじゃない、と思われる方も多いでしょう。確かにそのために手術もなされています。ただ手術をするにせよ、ギブスを巻くにせよ、固定するにせよ、また元に戻るようであれば最初からそう簡単に骨は折れないのです。ちょっとした尻餅、かるい転倒などで骨折するのにはそれなりの理由があります。だからそう簡単には治癒はしません。ボルトで補強したり、チタンで入れ替えたりが必要になることが多い。
しかし前回も述べましたが、そのボルトを固定する骨、チタンを差し込む骨もまた脆くなっているので、思ったようにもとには戻らないのです。そうして手間取っているうちに今度は筋肉が落ちていきます。筋肉が落ちれば骨への負担はさらに増えます。女性はもともとの筋肉量も骨量も男性よりも少ないので余計に症状も、骨折も起こりやすいのです。
おそろしい大腿骨近位部骨折ですがどれくらいの頻度で起こっているのでしょう。
2007年の大腿骨近位骨折の発生としては148,100人であり、男性31,300人 女性116,800人で圧倒的に女性に多く発生していることがわかっています。1年で11万人はすごいですね。グラフは年間で1万人当たり何人に起こるのか(100人で1%)、なので、60歳代女性で0.数%、70歳代でも0.5%前後ですね。
椎体骨折はどれくらいかも出ています。10年間の累積発生率でみると、60歳台男性で5.1% 女性で14%、これが70歳代では10.8% 女性で22.2%まで上昇するそうです。大腿骨骨折よりは多いですね。
タモキシフェンをAIにすれば、理論的にこうしたイベントに遭遇する確率が1.5倍に上がることになります。直接命に関係ない? でもこれ無視できないように思いませんか?
身近におられませんか?腰の骨を手術された方、大腿骨を手術された方、その後元気に元通りに歩かれていますか?痛みはなくなっていますか?そうなっていないのではありませんか?
ロコモティブシンドロームという言葉があります。これは世界に先駆けて超高齢化社会となった我が国が、「運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態」を指します。移動機能とは立ち座り、歩行、階段昇降など身体の移動にかかわる機能を意味しています。
2013年の厚生労働省「国民生活基礎調査」によれば、要支援・要介護認定の原因疾患は、脳血管障害21.5%、認知症15.3%、転倒骨折11.8%、関節疾患10.9%、脊髄損傷2.3%です。運動器の障害の原因を合わせると25%となります。これは脳血管障害、認知症を上回る計算になります。脳血管障害、認知症は予測も予防も難しいため、特に転倒、骨折を予防することは介護予防のキーになります。
骨粗しょう症が骨折の最大の危険因子であることは広く知られています。
骨粗鬆によって引き起こされる骨折の中でも、大腿骨近位部骨折は単に移動能力や生活機能を著しく低下させることはよく知られています。ただ低下させるだけではありません。実は死亡率も上昇させるのです。骨粗しょう症は生命予後に対しても著明な影響を呼ぼしていることはすでに明らかになっています。
低骨密度で椎体に変形のある高齢女性では死亡リスクがハザード比で1.49になることがわかっています。これは逆に骨密度を高く保ち、椎体の変形がないようにすれば死亡リスクをハザード比で0.67まで抑えるということになります。
タモキシフェンをAIに変更することでの死亡抑制効果は0.8なので、それによって骨粗鬆を招き、椎体変形まで至ってしまうとその効果は下手をすると帳消しになるよりも悪いことになるとも言えますよね。
前回もお話ししたことをここでもう一度提示します。
「いやいや、効果は差がなかったとしても、副作用がダメだよ。子宮体がんの方が、骨粗鬆より恐ろしいからね。だって命がかかっている。やはりAIの方がいいね。」
子宮体がんは命に直結する。骨粗鬆症は命にはかかわらない、だから副作用の観点から見てもAIの方が安全だ。
少なくとも単純にそれを言い切ってしまうことはできません。少なくとも10年間飲用し、その間も、そしてその後も加齢を重ねていくことを考えるならば、上記のことを考慮に入れず、断定してしまうことは明らかに間違いなのです。
わかった、わかった。確かに骨粗鬆症も怖いことはわかったよ。
でも私は幸いなことに主治医から骨粗鬆のお薬をもらっている。だから大丈夫じゃないかな。
次回はこの薬についてさらに話をしていきたいと考えています。
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