2024.10.18
(IUS:子宮内避妊システム)は、子宮内に装着することで避妊の効果を得る避妊具です。一般に、「避妊リング」とも呼ばれています。
避妊リングには種類があり、銅の働きで着床を防ぐものと、レボノルゲストレルという黄体ホルモンを継続的に放出し、子宮内膜を薄い状態で維持することで、受精卵の着床を防ぐものがあります。ご自身の使用されているIUSの種類は、薬剤添付情報や、お薬手帳で確認ください。
黄体ホルモンを継続的に放出し、子宮内膜を薄い状態で維持するIUS(これ以降LNG-IUSと略します) は、このメカニズムによって月経困難症や過多月経の改善にも有効性が認められています。2014年には、子宮内膜症・子宮筋腫・子宮腺筋症等に伴う月経困難症と過多月経に対する治療として保険適用となっています。そしてこれらの効果が最長で5年ほど継続します。
低用量ピルが体に合わなくて、これをつかわれておられる女性も多いと思います。
定期的に引用しなければならない飲み薬と違い、忘れることがなく、便利なので、このLNG-IUSの使用は近年増加しています。30歳以上のデンマークの閉経前女性の間で好まれるホルモン避妊法なのだそうです。しかし、LNG-IUSの使用が乳がんリスクと関連しているかどうかは不明です。
私の日常の外来では、乳腺が張って痛む、と訴えて来院される方が大変多い。そうした方で問診をしてみるとこのLNG-IUSを使用されておられる方が珍しくありません。LNG-IUSの使用開始とともに乳腺の症状が出たりしているのでなんらかの関係はあるのだろうな、とは思っていましたが、衣料品医薬品情報、いわゆる添付文章(薬を購入すると入っている、詳しい情報が記載している細長い白い紙)を読んでも乳がんとの関連を示唆する部分はいままでありませんでした。
そこで私は乳腺に痛みがあっても、乳がんと直接関係している報告はないので安心してください、と説明してきました。ただ最近出た論文によると、それはいままできちんと調査がされていなかっただけのようです。リナ・スタインルード・モルヒ博士らはデンマークでLNG-IUSの継続使用による乳がんリスクを評価しました。(Mørch LS, Meaidi A, Corn G, Hargreave M, Wessel Skovlund C: Breast Cancer in Users of Levonorgestrel-Releasing Intrauterine Systems. JAMA 2024.)
方法としてはデンマーク全国登録簿を使用して、2000年から2019年に15歳から49歳までの初めてLNG-IUS(用量52 mg、19.5 mg、13.5 mg)を開始したすべての人を特定し、開始日(インデックス日)にホルモン避妊薬を使用していなかった人と出生年を1:1で一致させました。
参加者は、インデックス日から後に発生した乳がんの診断、その他のがんの診断、妊娠、閉経後ホルモン療法の開始、移住や死亡について、追跡調査されました。LNG-IUSには種類がありますが、使用されている95%が6年間有効とされるものでした。
Cox比例ハザードモデルという統計の方法を用いて、年齢、暦期間、以前のホルモン避妊期間、排卵誘発剤、出産回数、初回出産年齢、多嚢胞性卵巣症候群、子宮内膜症、およびインデックス日時点の教育水準を調整したLNG-IUSの継続使用と乳がんとの関連性を分析しています。
この研究では合計78,595人の新規LNG-IUS使用者と、78,595人のホルモン避妊薬非使用者が特定されました。
この女性たちの平均6.8年の追跡期間中に、1,617人の参加者が乳がんと診断されました。そのうち720人がLNG-IUS使用者、897人が非使用者でした。参加者の平均(SD)年齢は38(7.7)歳でした。これだけを見るとLNG-IUS使用者の方が発生率が低く見えるのですが、これは調査上そう見えるだけで実際にはLNG-IUS使用者の方が乳がん発生率が高いという結果になりました。
ホルモン避妊薬を使用しない場合と比較した、LNG-IUS 使用時の乳がんのハザード比(HR)は 1.4(95% 信頼区間 1.2-1.5)でした。つまり1.4倍乳がんの罹患リスクがある、ということになりました。
使用期間が 0~5 年、5 年以上 10 年、10 年以上 15 年の場合、対応する不使用期間と比較した HR はそれぞれ 1.3(95% 信頼区間 1.1-1.5)、1.4(95% 信頼区間 1.1-1.7)、1.8(95% 信頼区間 1.2-2.6)でした。
このデンマーク全国調査では、LNG-IUS の使用と、使用しない女性と比較して 15 歳から 49 歳の女性の乳がんリスク増加との間に関連性があることが判明しました。若い女性の乳がんの絶対リスクは低いものの、この調査では 10,000 人の女性のうち 14 人の過剰リスクが判明しました。リスクは使用期間とともに増加しませんでした。
乳がんリスクのある年齢の女性における LNG-IUS の使用が増加していること、また長期使用の可能性もあることを考慮すると、利点とリスクについての議論には乳がんリスクに関する情報も添えるべきです、とモルヒ先生は述べています。ただLNG-IUS の短期使用による HR は、避妊薬のリスクと同等でした(使用によって乳がんの罹患リスクが1.2倍になる)。
まとめ
この論文一つでLNG-IUS使用に、乳がんリスクがあると結論付けるのは早計ですが、いままで十分な調査がなされていなかったことを考えれば、無視することもできません。少なくとも注意喚起、つまり使用するのであれば乳がん検診の受診や、定期的な自己チェックを指導することは必要であるように思います。
もし皆さんの中に、使用されておられる方がおられましたら、ぜひ乳がんの定期検診をご検討ください。
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