乳腺と向き合う日々に

2024.10.09

なぜ乳がんは増えているか・・・さらに

以前もこの話題に触れました。乳がんはなぜ増えているのか。その理由は少子化です。皆さんが思われている食生活の変化、炭水化物からタンパク質へ、が影響しているかは実際には証明されていません。

授乳経験の現象、これが乳がんの発生をもたらす、この理由について京都大学の研究結果をもとに説明しています。よかったらもう一度読んでみてください。

皆さんの周囲でも実感的に乳がんの患者さんは増えていると思います。実際どれくらい増えているのか。乳がんの罹患率、たとえば10万人の女性の方で何人がその生涯で乳がんに罹患するか、その率で見てみると、この半世紀で20年ごとに倍になっています。つまり一世代、母から娘の代に変われば倍になる、ということになります。ウソではありません。

乳がん罹患率の推移

上記はWHOのデータから作ったグラフです。

これでわかるとおり、米国やヨーロッパ諸国に比べ、わが国(Japan オレンジ)だけではなく、韓国、中国の乳がん罹患率の急激な増加が見て取れます。

そして次に示すのがおなじくWHOのデータベースから作成した出生率のグラフです。米国やヨーロッパの国々と比較して、アジアでは出生率の低下が急激です。特に中国では一人っ子政策の影響で突然低下しました。そのまま横ばいですが、回復はしていません。そしてそのつもりで乳がん罹患率のグラフを見ると、少子化こそ乳癌増加の原因である。授乳経験の現象が原因である、ということが直感的に理解できます。

特殊出生率の推移

少しややこしいことを言いますが、授乳経験の過多には栄養状態も加味して考える必要があります。なんだ、結局食生活が影響するのか、とはなりますが、授乳は母体が栄養状態が良好でなければできません。つまり栄養状態が良好なのに、子供を産まない、授乳しないという矛盾した行動が、結果として乳がんを増やします。栄養状態が悪い国では少子化の影響はあまり出ません。

乳がんはなぜ増えているのか。その理由は明らかに少子化です。

そして最近それの根拠となる論文がまた出ました。

Jessica O’Driscoll先生らによる「Reproductive factors and mammographic density within the International Consortium of Mammographic Density: A cross-sectional study」です。

彼らは出産数・初産年齢とマンモグラフィ濃度の関連を22ヵ国1万1千人のデータから証明して見せたのです。ちなみにマンモグラフィにおける乳腺濃度が乳がんのリスクと関連する話はこのブログでも何度も触れてきました。よければまずこの記事を読んでみてください。

一部 表を抜粋して示しました。



今後5年間で1000人当たり
何人の方が乳がんに罹患すると
予想されるか 
65歳から74歳までの女性

今後5年間で1000人当たり
何人の方が乳がんに罹患すると
予想されるか
75歳以上の女性

脂肪性乳腺11.3名13.5名
散在性乳腺17.2名18.4名

不均一高濃度から
高濃度乳腺

23.7名22.5名

乳腺濃度は子供を産んでおられない20代から30代前半の女性では高くて当たり前なので、この記事の中では65歳以上の女性について、乳腺濃度と乳がんリスクを比較しながら述べています。
表でも示した通り、濃度の高い女性では脂肪性乳腺の方と比較して乳がん発生のリスクは2倍にもなります。

授乳経験が少ない → 乳腺の濃度が高い → (閉経しても)乳腺が多い(ままである) → 乳がんが発生する母地が多い → 乳がんのリスクは高い

こうした理屈です。

これも以前述べましたが、年齢や肥満指数(BMI)、つまり栄養状態は、マンモグラフィにおける乳腺濃度に強く影響すると同時に、乳がん発症リスクとも関連することはこのように確立されています。

ただびっくりなのですが、出産数、初産年齢、授乳歴と乳腺濃度との関連は明らかになってはいませんでした。

彼らは、乳がんではない35~85歳の、11,755人の女性の乳腺の濃度を記載したデータをプールしている22ヵ国27研究を集めて共同研究を行うために、40の国・民族の集団を網羅しました。(これだけで膨大な手間と時間がかかるでしょう。)

彼らは統計学的な手法を用いて、乳腺の濃度と、出産数、初産年齢、授乳歴の有無、生涯授乳期間との線関連を検討しました。最終的に解析対象となった1万988人の女性のうち、90.1%(9,895人)が出産経験があり、うち13%(1,286人)が5回以上経験していました。初産時の平均年齢は24.3歳でした。

結果です

出産数(1回増加当たり)は、乳腺の濃度が高い女性の比率、そして乳腺の濃度が高い面積と逆相関していました。つまり出産経験のある女性では濃度が下がっている確率が高く、そして濃度の高い面積も減少します。この傾向は少なくとも出産が9回まで明らかでした。

初産年齢(5歳増加当たり)は、乳腺の濃度が高い女性の比率、そして乳腺の濃度が高い面積と正の相関していました。つまり若く出産すればするほど、濃度が下がっている確率が高く、そして濃度の高い面積も減少します。そして同時に濃度が低い面積が増加していました。

出産経験のある女性においては、授乳歴の有無や生涯授乳期間は乳腺濃度と関連は認められませんでした。これは私が今まで書いてきた記事と矛盾しています。私は出産されても授乳をしなければ乳腺濃度は下がらないと考えてきましたが、そうではないようで、出産することそのもので濃度は下がるようです。

今回の結果からは

授乳経験が少ない → 乳腺の濃度が高い → (閉経しても)乳腺が多い(ままである) → 乳がんが発生する母地が多い → 乳がんのリスクは高い

となるのではなくて、単純に

出産経験が少ない → 乳腺の濃度が高い → (閉経しても)乳腺が多い(ままである) → 乳がんが発生する母地が多い → 乳がんのリスクは高い

となることが示されました。論文を見ると、授乳期間の長さは乳腺の濃度と関係しているように見えるのですが有意ではなかったようです(統計学的にはそうは言えなかった)。

ただどちらにしても少子化こそ乳がんの罹患率の増加につながる原因なのだ、ということは揺るぎません。そして我が国では少子化は止まるどころか悪化し、そしてすでに最新のデータでは米国やヨーロッパ諸国を抜いています。それは裏返しに言えばいずれ乳がんの罹患率は米国やヨーロッパを追い抜くということになります。おそらく現在の9人に1人から、5−6人に1人まで増えるのではないでしょうか。

恐ろしいことです。