乳腺と向き合う日々に

2024.05.09

米国予防サービスタスクフォース(USPSTF)による最新の乳がん検診の勧め

以前にも ”米国予防サービスタスクフォース(USPSTF)が乳癌検診に関する新しい草案勧告を発表しました” という記事で、その内容を紹介しました。今回その総まとめのような形で患者さん向けのガイドラインが出ていましたので、私なりの考察を交えて(その部分はカッコで包みます)紹介します。

なおこの記事は、以前速報の形でこのブログで触れています。できたらそれも読んでいただけると幸いです。その時は論文でしたが、今回は一般向けに書き直されて出てきました。改めて紹介するのとともに、少し私の考察も加えたいと思います。

スペース

ではこの話を始めましょう!

誰もが乳がんを早期に発見し、この病気で死なないためのより良い方法の出現を望んでいます。乳がん検診は、最も治癒が可能な時期、つまり早期にがんを発見できます。このガイドは、あなたとあなたの医療専門家が、検診を開始する年齢や検診の頻度など、乳がん検診の利点とリスクを理解するのに役立つことを目的としています。

このガイドは、BRCA遺伝子変異、胸部放射線治療歴、または乳がんの個人歴を持つ女性を対象としたものではありません。このような女性は、健康を維持する最善の方法について医療専門家に相談する必要があります。

乳がんとその影響

乳がんは、米国女性のがんによる死亡原因の中で 2 番目に多いものです。毎年、約24万人が乳がんと診断され、約4万3千人の女性が乳がんにより死亡しています。

注目すべきことに、黒人女性は乳がんにかかる確率がほぼ同じであるにもかかわらず、白人女性よりも乳がんにより死亡する可能性が40%高い。黒人女性は若い年齢で悪性度の高いがんにかかることが多くなります。(筆者注:これは黒人という遺伝子的に異なる人種の問題が原因のように見えますが、実は白人の間でも、社会的弱者、つまり貧しい人であれば同じデータが出てきます。なぜ貧しいと同じように検診を受けていても死亡率が上がるのか、それも1.5倍近くまで。それは後で考察してみたいと考えています。)

貴方が乳がん検診において知っておくべきことについて

・乳がん検診を受けることによって、乳がんをより治療が容易な段階で発見することが可能となり、クオリティオブライフ(生活の質)を落とすことなく、乳がんで死亡することから救うことができるようになります。

・マンモグラフィ検診は、デジタルマンモグラフィ、あるいはトモシンセシス(3Dマンモグラフィ)の形で行われます。両方とも乳がんの発見に有効です。

・乳がん検診は ”隔年”で受けることで、そのメリットを最大にし、デメリットを最小にすることができます。このデメリットとは、あなたが乳がんでもないのに乳がんの疑いがあるとされる、あるいは乳がんがあるのに、ないとされることを含みます。それによって不必要な治療を受けるデメリットも含みます。

・現代まで引き継がれている不平等によって、ある種の人種、そして社会的な弱者、貧しい人、そして田舎に住んでおられる方は、健康問題において比較的悪い結果が出て、乳がんでなくなる可能性がより高いことがわかっています。

・平等かつ適切な継続したケアと、乳がんと診断された女性の効果的な治療は、乳がん検診の命を救う目的におけるもっとも重要な必要事項であることを知る必要があるでしょう。

貴方が検診を受けた際に医療従事者に聞いておくべきこと

・どの検診方法が私に向いていますか? 

・もしマンモグラフィで異常があった時にはなにが私に起こりますか?(その後どうすればいいでしょうか?)

・乳がん検診は何歳まで受けた方がいいですか?

・乳がんによる死亡を防ぐために、検診以外に何か気を付けることがありますか?

・私の家族歴や、他のリスク要因は、乳がん検診を受ける際にどのように影響しますか?

マンモグラフィによる乳がん検診を、隔年で受けることで、乳がんによる死亡リスクを軽減できるということは確実で、それは大変良いニュースでしょう

このガイダンスは、女性、および出生時に女性と割り当てられた人々を対象としています。(遺伝子的にXX染色体をもつ方と言ってもいいかもしれません)

そして、乳がんの兆候や症状がない、40歳から74歳までの方、乳がんを発症するリスクが平均とされる方が対象のガイドラインになります。

乳がんの家族歴がある、高濃度乳房を持っている、または歴史的に疎外された人種および民族グループの出身であるかたは、それぞれに応じた検診を検討する必要があるでしょう。

一部の女性にとって、さらに考慮すべきことはありますか?

40歳から74歳までのすべての女性が隔年でマンモグラフィーを受けるべきであるという証拠は明らかです。ただ十分に研究結果が出ているといえる分野が限られており、臨床における判断や、患者さんの病歴、価値観や好みも、意思決定においては無視できません。

高密度の乳房を持つ女性

高濃度の乳房があるということは、マンモグラフィーがうまく機能しない可能性があることを意味しますが、それでも検査を受けることが重要です。また、乳房の密度が高い女性は乳がんになる可能性が高く、乳房の密度が高いほど乳がんに罹患するリスクは高くなります。しかし、今回の検討からは、これらの問題の超音波、磁気共鳴画像法 (MRI) スキャン、または完全に別のものを追加することで解決するものであるかどうかは示されていません。

では何ができるでしょうか?それは医療専門家に相談するべきです。高濃度乳房を持つ女性が自分にとって何が最適かを判断できるように、追加のスクリーニング方法のメリットとデメリットについて情報を共有できます。

75歳以上の女性

研究には75歳以上の女性が含まれることはほとんどないため、スクリーニングを継続すべきか中止すべきかについての証拠は明確ではありません。

何ができるでしょうか?医療専門家や 75 歳以上の女性は、スクリーニングをいつ中止するかを決定する際に、全体的な健康状態や過去のスクリーニング歴などの要素を考慮することがあります。どちらにせよ相談してみましょう。(そこに”好み”という要素が入ると思います。自分はまだまだ死ねない、元気で90まで頑張ると言われている方に、検診をやめろ、とは言わないし、言えないのです。)

米国予防サービス特別委員会 (USPSTF) の勧告のまとめ

USPSTF は、40 歳から 74 歳までの女性に 2 年に一度のマンモグラフィ検査を推奨しています。

USPSTFは、75歳以上の女性におけるマンモグラフィー検査の利益と害のバランスを評価するには研究が不十分であると結論付けています。

USPSTFは、マンモグラフィ検診で陰性であったとされた女性に対する乳房超音波検査またはMRIを用いた乳がんの追加スクリーニングのメリットとデメリットのバランスを評価するには研究が不十分であると結論付けています。

USPSTF はまた、BRCA関連(乳がんの発生リスクが高いとされる遺伝子変異)のある方のがん予防と乳がんのリスクを軽減するための薬物使用についても推奨しています。

筆者から 

この勧告を読むと、マンモグラフィ検診は たとえば遺伝的にリスクがある、高濃度乳腺である、こうした方を除けば ”隔年”で受けるべきであって、毎年受けることは推奨していない、ことになります。

ただこれはマンモグラフィ単独で検診するのであれば、毎年受けても、隔年で受けても、死亡率の減少につながらなかったことに起因します。つまり真の早期発見につながらなかったということです。実は3年に1回でも差が出ない、とする研究もあるのです。
Parvinen  I, Chiu  S, Pylkkänen  L,  et al.  Effects of annual vs triennial mammography interval on breast cancer incidence and mortality in ages 40-49 in Finland.   Br J Cancer. 2011;105(9):1388-1391. doi:10.1038/bjc.2011.372

マンモグラフィ単独での検診の場合、一定の確率で偽陽性、つまりがんはないのに、がんがある可能性がある、と誤って診断してしまうことは起こりえます。これは1年おきでも2年おきでもマンもグラフィ検査を受けるたびに起こります。
患者さんはそのたびに不要な検査をさらにうけることになり、何より心配になり不安になります。そして結果として異常がなければ検診そのものを信用しなくなり、検診を以降は受けなくなる恐れもあります。
これが検診による”害”です。
そしてその害は2年に1回よりも1年に1回の方が確実に起こりやすくなります。
2年に1回でも1年に1回でも、早期発見率にほぼ差が出ない。しかし害だけは増える。だから隔年で検診は受ける方がいい、USPSTFはそう推奨しました。

しかしこれは大変奇妙なことです。害が及ぶ確率が増える、これはいいでしょう。ただ一定の頻度で乳がんが発生し、ある程度一定の速度で大きくなり、進行していくのであれば、3年に1度よりも2年に1度、2年に1度よりも1年に1度の方が早期発見されるかたはそれだけ多くならないといけない。なぜそうならないのか?

これを説明する一つの仮説があります。

一般にがんは大きくなるほど、時間が経過しており、転移をきたしている可能性が高くなります。
がんが助けられないのは、転移するから、です。がんが乳腺にとどまっていれば手術や放射線で見つかったがんを切除してしまえば治癒します。助けられないのは、見つかった時にすでに全身に見えない微小ながんが転移している場合です。つまり転移する前に見つけることこそ重要で治癒につなげることができる、それが早期発見です。現状の検査では微小転移があるかどうかはわかりませんから、できるだけ小さく見つけて、転移を起こしている確率を下げることを目指すわけです。

そこでその仮説とは

「乳がんは、大きさに関係なく、見つかった時には、つまり見つかる大きさにまでなっていれば、転移するがんはすでに転移しており、逆に転移しないがんは大きくなったからと言って転移しない」というものです。一時期 近藤誠先生がこの立場をとって話題になっていました。
見つかった段階で大きさは関係なく、その乳がんのタイプによってするものはすでに転移しており、しないものは大きくても転移していない。そうであれば結局真の早期発見は検診を1年おきでも2年おきでも関係なくなります。つまりうまく説明できるのです。

一部では正しいかもしれません。ただそれだと乳がん検診を受けることで死亡抑制効果があること自体が説明できなくなってしまいます。
先にも触れましたが、USPSTFでも「乳がん検診を受けることによって、乳がんをより治療が容易な段階で発見することが可能となり、クオリティオブライフ(生活の質)を落とすことなく、乳がんで死亡することから救うことができるようになります。」と宣言しているのですから。
検診で乳がん死を抑制できることは確実です。でもその間隔はあまり影響しない、それはなぜなのでしょう。まだなぞは残ります。

これは私の考えですが、

「乳がんは、大きさに関係なく、見つかった時には、つまり見つかる大きさにまでなっていれば、転移するがんはすでに転移しており、逆に転移しないがんは大きくなったからと言って転移しない」

のではなく、

「乳がんは、大きさに関係なく、マンモグラフィで発見された時に、その方の乳腺の濃度が高ければ進行がんであることが多く、濃度が低い方では見つかった際に早期であることが多い」からではないか、と思っています。

つまり見つかった段階で早期かどうかはその方の乳がんのタイプで決まっているのではなく、その方の乳腺濃度によるから、なのではないか、と思うのです。

これに関してはこのブログでも何度も触れてきました。特に1はぜひ見ておいてください。
1 高濃度乳腺とは ーAre You Dense?ー
2 高濃度乳腺の乳がんリスクについて
3 ”高濃度乳腺は乳がんリスクが高い”ことを知っていますか?

”見つかった段階で早期かどうかはその方の乳がんのタイプで決まっているのではなく、その方の乳腺濃度によるから”とはいっても、もちろんそれは必ず言い切れるものではありません。濃度は1か100かではなく、その方によって程度に差があるからです。ですので一部の方にはそう言えるし、一部ではそういえない。だからある程度まではマンモグラフィ検診を施行しておけばきちんと差が出ます。ただそれでは100には決してならない。それは乳腺濃度の高い方ではマンモグラフィ検診を定期的に受診していても、発見された際に早期とは限らない、からです。つまり”見つかった段階で早期かどうかはその方の乳がんのタイプで決まっているのではなく、その方の乳腺濃度によるから”です。

この勧告でも 高濃度乳腺を持つ方 は別に議論されていることに注意してください。

つまり2年おきのマンモグラフィ検診がベストと言えるのは、乳腺濃度が低く、家族歴に乳がんの方がおられない、リスクの低い方に限定した話なのです。濃度の高い、リスクの高い方はどのように検診を受けていけばいいか、はまだ”研究が不十分”なのです。米国ではMRIの役割に注目が集まっていますが、これをどの間隔でどのように運用するかはまだわかっていません。また一度でもMRI検査を受けられた方はご存じですが、定期健診で受けるには受診者、医療側双方の負担が重い検査です。

この勧告がでたことで、”マンモグラフィ検診は隔年がいい” ”毎年はよくないらしいよ” と言われる方も友人におられるかもしれません。ただ我が国ではすでに隔年で地域ぐるみ検診が行われてはいますが、お住まいの地域によっては60歳までで74歳まで網羅していない自治体も多く存在します。このようにガイドラインの一部は採用するけれど、一部は無視するのではあれば、それはガイドラインに準拠するとは言えません。ガイドラインやルールは、そのすべてを守ってこそ役に立つものなのです。都合のいいところだけを抜き出して他人に強要することが間違いなのは感覚的にもわかります。

”隔年がいい”のその一部だけを抜き出して全員に強調することは間違いなのです。

それを付け加えておきます。