乳腺と向き合う日々に

2023.05.18

米国予防サービスタスクフォースが乳癌検診に関する新しい草案勧告を発表しました(続)

前回 米国予防サービスタスクフォースが提供する指針において14年ぶりに改正が行われ、米国におけるマンモグラフィ検診は50歳以上隔年、から40歳以上隔年での施行を勧める、となったことを報告しました。

ではわが国ではどうなっているのでしょうか。
日本乳がん学会が提案している指針を示します。
「乳がん検診は,「ブレスト・アウェアネス」の重要な1項目です。40歳から定期的にマンモグラフィによる乳がん検診(検診マンモグラフィ)を受けることが勧められますが,マンモグラフィには利益と不利益がありますので,ご自身が納得して乳がん検診を受けることが重要です。」

もしよかったら引用元のHPで全文を一度読んでいただければ幸いです。私もこのブログで何度もブレスト・アウェアネスに触れてきましたので、ここで少し引用しておきます。
自分の乳房の状態に日頃から関心をもち,乳房を意識して生活することを「ブレスト・アウェアネス」といい,これは乳がんの早期発見・診断・治療につながる,女性にとって非常に重要な生活習慣です。「ブレスト・アウェアネス」を身につけるために,以下の4つの項目を実践しましょう。
①自分の乳房の状態を知るために,日頃から自分の乳房を,見て,触って,感じる(乳房のセルフチェック)
②気をつけなければいけない乳房の変化を知る(しこりや血性の乳頭分泌など)
③乳房の変化を自覚したら,すぐに医療機関へ行く
④40歳になったら定期的に乳がん検診を受診する

ちなみになぜか日本乳がん学会の検診ガイドラインには「隔年」の記載がありません。
同じく学会には日本乳がん検診学会があるのですが、その記載には「隔年」の記載があります。

これで日本と米国の検診の指針が同じになりました。

ただ、ここで重要なのは、我が国ではもともと40歳以上の年齢の女性にマンモグラフィ検診を勧めており、米国があとから年齢を引き下げたという事実です。わが国では米国と比較して若い人から検診を勧めて(過去)いた、これはなぜなんでしょう。

同じHPに答えが書いてあります。
「乳がん検診の目的は乳がんで亡くなる人を減らすこと(死亡率減少効果)ですが,現在,この乳がん死亡率減少効果が明らかな検査方法は,検診マンモグラフィだけです。日本人女性の乳がんの好発年齢が45~49 歳と60~64歳ですので,日本では40歳以上の女性に対して検診マンモグラフィが推奨されています。」 つまり米国(じつは西洋諸国)では、乳がんも他の部位のがんと同じく高齢者に多い。でも日本では若年者に多いのです。なので検診開始の推奨年齢も低かった。

ただこの記載、何か引っかかりませんか?
そう日本人女性は45歳前後と、60歳前後の二つの乳がんになりやすい時期がある・・・なぜ?
実はこの記載、数年前まで「60~64歳」の部分がなかったのです。

各国の乳がん年齢別罹患率

これはWHO(世界保健機関)のデータを基にして作られた、乳がんの年齢別罹患率のグラフです。
ここで注目してほしいのはこのグラフは”率”であって、”人数”ではない。
何人乳癌になるかはその国の人口によって変わります。高齢者が多い国ではがんの罹患数も当然多くなる。そこで10万当たり何人が乳がんに罹患しているのか、その罹患率を年齢別に見たのがこのグラフです。
40歳までのカーブはどの国も横並びですよね。でもそこからほかの国と日本のグラフは離れていきます。
まるで高齢になると日本では乳がんに罹患しにくくなり、日本以外の国ではむしろ高齢者で乳がんは多い、でも日本では40-50歳頃にピークになりその後の罹患率は横ばいになる。

そう見えますし、そう思っておられる方が医師の中でも多いと思います。でもがんセンターが発表した最新のデータではそれはもはや正しくないのです。そうこのグラフのデータは少し古いのです。

年齢別罹患率

上記が最新の統計結果です。現在日本ではこれ以上新しい統計結果はありません。
御覧の通り、すでに65歳から75歳が罹患率のピークになっています。40-50歳代の女性の罹患率をすでに抜いているのです。
これは大変不気味な現象です。なぜグラフの形が変化しているのでしょう。

年齢別罹患率2

この図は日本乳がん検診精度管理中央機構が公開しているデータです。
こうして経過に沿ってグラフを見てみると、ここ50年ほどで乳がんの罹患率は増えていても減っている年齢層はないことがわかります。1995年(黄色)の時は明らかに45-50歳前後にピークがあります。この年齢層で乳がん罹患率は高く、高齢者では高くありません。
ただこれは2005年にはすでに横ばいになっており、そのまますべての年齢層で罹患率は2.5倍にまで上昇し続けています。そして日本乳がん学会がいうように、ピンクのグラフでは確かに45-49歳、そして60-64歳の二つの地点にピークがあります。そして先に述べたように最新の2018年には65歳から75歳の乳がん罹患率が50歳前後の方の罹患率を抜いてしまった。
同時にこの50年間すべての年齢層で乳がんの罹患率は上昇し続けており、下がった年齢層も、下がった年代もないということも恐ろしい事実です。45-49歳の年齢層に限ってみれば1975年から2015年まで40年間で10万人当たり50から250人とほぼ5倍の罹患率まで上昇しています

2005年の結果を受けて乳がん学会のHPの記載の変更がなされたと考えられます。
しかし2018年の統計結果を受ければその記載は変更しないといけません。

「日本人女性の乳がんの好発年齢が45~49 歳と60~64歳です」という記載はまるで二峰性の形のように聞こえます。ある意味正しいですが、もはや2018年のデータでそう見える人はいないはずです。
日本人女性の乳癌の好発年齢は、45から49歳で急激に上昇し、65歳から75歳にピークとなります」が、現状の正しい記載です。

ちなみに日本と西洋諸国を比べるのではなく、日本と中国ではどうなのでしょう。

私は同じくWHOのサイトでこれを調べてみることにしました。

graphic-rates-inc-females-in-2010-breast 2

これで見ると、中国も日本と同じように40歳である程度頂上に到達して横ばいの形をしています。
そして西洋諸国として出しているデータ、これは先に述べたように高齢になるほど乳がん罹患率は上昇していますが、ここでいう西洋諸国とはほぼG7と呼ばれる”先進国”のデータになります。

注意が必要なのは西洋諸国でも先進国と呼ばれる豊かな国でなければこんな統計データを出せません。
貧しい国のデータは出てこないのです。

つまり西洋先進諸国(白人の国)のデータでは、乳がん罹患率は高齢者ほど高い。
そしてアジア、日本や中国は45-49歳の若年者で高い、あるいは高かったという方が正確です。

しかし日本ではグラフの形は変わりつつある。
西洋諸国のそれに近づいているのです。これは形を変えているというよりも、高齢者の乳がん罹患率が増えるとで同じ状況に近づいている、ということです。このままいけばおそらくむしろ50歳以上の高齢女性での乳がんの罹患率は西洋先進諸国と同じ、つまり今の2倍まで上昇し続けることになります。

しかし、なぜこんなことが起こっているのでしょう。

皆さんはがんが増えている、といえばすぐに”食生活の変化”が原因ですか、と考えます。
でも皆さんの人生の中の40年間で乳がん罹患率が5倍に増える、それを食生活の変化で説明できますか?皆さんの子供はみなさんと一緒にご飯を食べているはずです。そんなに変わりましたか?どう考えても食生活だけでは説明できないでしょう。

その理由がわかれば、今後、日本や中国のグラフがどうなっていくかも予想できます。

それはこう考えればわかるのです。
なぜ、日本や中国では、西洋先進諸国よりも”高齢者の乳がん罹患率が低かった”のでしょうか。