乳腺と向き合う日々に

2022年11月

2022.11.24

センチネルリンパ節生検で、転移陽性と診断されたら

この記事は”センチネルリンパ節生検”の言葉が理解できる方向けの記事になります。

たとえば乳がん腫瘍が皮膚や筋肉には及んでおらず、術前の診断ではリンパ節転移はないと診断された患者さんでは、腋窩廓清を省略できる可能性があることから、最近ではセンチネルリンパ節生検(代表的なリンパ節を数個調べて陰性であればよしとする考え方)を施行し、陰性とされれば腋窩を廓清しない、という方法がとられます。

それでも結果として陽性である場合ももちろんあり得ます。ただもちろん術前には陰性と診断していたのですから、それほどひどい状況で転移しているとは考えにくい。転移があったのは調べたリンパ節だけかもしれない。そうした際に腋窩放射線療法 (ART) は、腋窩リンパ節郭清に取って代わることができるでしょうか? ちなみにリンパ節転移があれば、乳腺をたとえ全摘したとしてもどちらにしても放射線治療がなされることが多い。とすればこの考え方はどうせ放射線治療をするなら、もう腋窩に手術を加えなくてもいいのではないか、とする考え方です。Bartels先生らによって研究されました。

Bartels SAL. Radiotherapy or Surgery of the Axilla After a Positive Sentinel Node in Breast Cancer: 10-Year Results of the Randomized Controlled EORTC 10981-22023 AMAROS Trial. Journal of Clinical Oncology. 2022.

対象患者さんは 2001 年 2 月から 2010 年 4 月まで含まれていました。 本試験(AMAROS 試験)では 4,806 人の患者が センチネルリンパ節生検を受け、1,425 人がリンパ節陽性でした。腋窩リンパ節廓清群(ALND) (n = 744) または腋窩放射線治療群=手術は施行せず(ART) (n = 681) にランダムに割り当てられました。追跡期間の中央値は 10.0 年 (8.4 ~ 10.3 年) で、両治療群で同等でした。

腋窩再発率
腋窩の残ったリンパ節から再発する腋窩再発は、ALND 後の患者 744 人中 7 人 (0.9%)、ART 後の患者 681 人中 11 人 (1.6%) で発生しました。10 年間の累積発生率は、ALND 後 0.93% (95% CI 0.18 ~ 1.68)、ART 後 1.82% (95% CI 0.74 ~ 2.94) (HR 1.71; 95% CI 0.67 ~ 4.39) でした。それぞれ3人と5人の孤立した腋窩再発がありました。合計で、5 ~ 11 年の追跡調査の間に8人のイベントが発生しましたが、腋窩再発の数がそもそも少ないため、あまり統計的な意味はありません。
(筆者注:手術の方がわずかで再発が少なく出たのはそれでもうれしいです。ただ結局腋窩のリンパ節転移は、それ自体でその方の命を奪うのではなく、後に他の臓器から転移が見つかり、再発する、そのことによって生命に脅威になることがよくわかります。結局腋窩リンパ節は転移があったとしても、手術にせよ、放射線治療にせよ、ほぼすべて処置されているわけですから。)

全生存率および無(病)再発生存率
ALND グループでは 104 人 (14.0%) が死亡し、ART グループでは 112 人 (16.4%) が死亡しました。乳がんによる死亡は、ALND グループの 65 人 (8.7%) の患者と ART グループの 70 人 (10.3%) の患者で発生しました。10 年 OS 率は、ALND グループで 84.6% (95% CI、81.5 ~ 87.1)、ART グループで 81.4% (95% CI、77.9 ~ 84.4) でした (HR、1.17; 95% CI、0.89 ~ 1.52; P = .26;図 2)。10 年 無(病)再発生存率 率は、ALND グループで 75.0% (95% CI、71.5 ~ 78.2)、ART グループで 70.1% (95% CI、66.2 ~ 73.6) でした (HR、1.19; 95% CI、0.97 ~ 1.46; P = .11)。
(筆者注:これも手術の方がわずかでも再発が少なく、生存率が高く出たのは統計的な差がないとしてもうれしいです。)

罹患率とQOL
すべての測定時点で ART 後よりも ALND 後の方がリンパ浮腫が観察されました。
リンパ浮腫の治療される頻度が有意に高く、術後1年での発生率が最も高い。全体として、ALND 後患者の 44.2% が、ART 後の患者の 28.6% と比較してリンパ浮腫を報告しました。少なくとも 10%以上の腕周囲の測定値の増加が、ALND 後により頻繁に測定されました。肩の可動性は2つの治療群で同様でした。QoL については、治療後 1 年、3 年、および 5 年で、選択されたスケール (腕の症状、痛み、または身体イメージ) のいずれの間にも統計的差異は観察されませんでした。腕の症状スケールの2つの項目で、統計的に有意な差が観察されました。ALND 後には腕/手の腫れがより多く報告され、ART 後には腕を動かすのがより困難になったと報告されました。これらの値は臨床的有意性に達しませんでした。
(筆者注:結局アンケートをすれば、それほど差がないものの、測定値も治療になる方も、手術を受けた方の方で、リンパ浮腫が多くなることは明らかになっています。ほぼ倍であることはショックです。)

探索的分析(から抜粋)
二次原発がんは、ALND (57 件) と比較して、ART (75 件) 後に有意に多く発生しました。10 年累積発生率は、ART 後 12.1% (95% CI 9.6 ~ 14.9)、ALND 後 8.3% (95% CI 6.3 ~ 10.7) (HR 1.45; 95% CI 1.03 ~ 2.04; P =0.035) )。これらのイベントのうち、21 件 (28%) は ART 後の対側性乳がんまたは上皮内乳管がんでしたが、ALND 後の 11 件 (19%) でした。二次原発がんは、ART 後の 22 人の患者と ALND 後の 16 人の患者の死因でした(データ補足)。
(筆者注:外科の見方の筆者にすれば、よかった、となりますが、不思議なデータです。放射線治療をしている方が、二次、つまり異時性に発生する乳がんは少ないかも、と考えていたのです。ちょっとでも対側にも放射線治療が当たりそう?そんなことはないですが・・・むしろそのためにがんが引き起こされた、この論文の筆者も少し考察されていました。しかしこれは偶然と考えます。ただこの結果を除けば、わずかに手術群でよかった生存率も差がないという結果になりそうです。)

AMAROSから導かれる結論

術前に様々な検査で腋窩リンパ節転移はないとした症例は、たとえ術中に陽性と診断されても、それ以上方針を変更して手術を大きく腋窩にまで広げることは必要ない、となりました。ただリンパ浮腫を起こすだけだ、となります。

ただこの論文にはいくつか疑問があります。まずリンパ浮腫の頻度です。どの程度でそう診断するかにもよると思いますが、術後の44.2%は“高すぎ”です。ほぼ半数がリンパ浮腫になる、どんな手術をしているのか、と思います。リンパ浮腫が2倍なのにもかかわらず患者さんへのQOL調査では差がなかった。つまり検査してはじめてわかるようなリンパ浮腫まですべて含めたのでしょう。原則患者さんが気づきもしないようなリンパ浮腫を見つけることにあまり意味はないように思うのですが。

ただこの論文で気になるところはセンチネルリンパ節生検では1-2個しかリンパ節を検査しません。転移があっても、それ以上手術を拡大しないとなれば、たとえば転移したリンパ節が1個見つかった、しかしもしかすると2個3個とそれ以上あるかもしれない。それはわからなくなる、ということです。

今 日本のガイドラインでは腋窩にリンパ節転移が4個以上あれば、乳房をたとえ全摘していても放射線治療を行うことを標準とする、1個から3個であっても放射線治療を行うことを“弱く”勧める、とされています。転移個数で違うのです。
また乳房温存手術後は、センチネルがどうであれ、放射線治療を行うことが標準とされます。ややこしいですね。

だから私はこのように応用すればいいのではないか、と考えます。

まず術前検査でリンパ節転移がないと診断される症例がセンチネルリンパ節生検の適応となるのであり、腋窩リンパ節転移がたとえ陽性であっても、そこに転移範囲がとどまる可能性の高い症例が対象となることを前提に、
・温存切除で、センチネルリンパ節が陽性であればそれ以上廓清しない、ただし腋窩も放射線治療範囲に含める。
・乳房全摘で、センチネルリンパ節が陽性であれば、放射線治療になることを考慮して、少なくともリンパ浮腫に配慮して周囲リンパ節を最低5個程度までサンプリングしておき、後の治療の参考とする。ただ手術で根治を目指すような、いわゆる根こそぎ切除は必要ではない。転移があれば放射線治療になり、追加廓清に意味はない。逆に転移がなければ追加廓清する必要はない。