乳腺と向き合う日々に

2022.04.24

がん患者さんの食事 最新のASCOの記事から

今年もASCO(米国臨床腫瘍学会)が開催されます。
がん治療の歴史を変える、歴史を作る学会なので、がん治療にかかわっている医師は要注目です。ただ残念ながら英語なのでどうしても情報が遅れます。
いつも思うのですが、誰かの翻訳に頼っていれば、その誰かの影響を排除することはできない、ということです。どこかの企業のサイトを見れば、ASCOに限らず最新の海外の学会のトピックスが翻訳されて乗っているかもしれませんが、それはその企業にとって都合にいい記事であって、都合の悪い記事は乗っておらず、したがって情報を欲しがる患者さんにとって、本当に欲しい情報ではない、ということです。もちろんその意味において私のこのサイトも同様です。まして翻訳されていればなおさらです。皆さん自身で情報を取捨選択することは常に求められます。
こういう記事を見たら、Google翻訳などを使ってご自身でも目を通しておくことを勧めます。日本語は少しおかしいですが、そういったバイアスの侵入を防げます。

今年のASCO Daily NEWShttps://dailynews.ascopubs.org/do/10.1200/ADN.22.200900/full/?fbclid=IwAR0qt1bfiU8JHrvlPuC6SJf6Gja_Dqpu2nyYL45--eul1IxBX9YSGrzUeQ8)の記事に、がん患者さんの食事指導についての記事が出ました。

 今まで医師は患者さんの「食事にはどのように気を付けたらいいですか?」の質問にきちんと答えられていなかった、という題目です。面白いですね。

 ただこの記事はたとえばがんにならないために、とか、がんを治すために、という食事ではありません。がんの治療を受けられている方、とくに抗がん剤治療中の方に意味のある記事です。
 もともと食事の変更だけではがんは治らない、と考えてください。

英語の記事は最初にまず結論を提示してくれることが多いので、ここでもそれに倣います。

スペース
・栄養はがん患者の罹患率と死亡率に影響を及ぼしますが、がんの治療医はこの問題に適切に対処していません。

・地中海式ダイエットを含む抗炎症(抗アレルギー)ダイエットは、果物、野菜、全粒穀物、ナッツ、種子、ハーブ、スパイスの摂取を強く勧めます。(筆者注:ダイエットは日本ではどうしても制限の意味を持ちますが、本来食事内容とか食生活という意味です)

・がん患者のための過度に厳格な食事制限は避けてください。代わりに、がん治療中の一般的な課題である、味覚と好みの変化、吐き気、倦怠感、必要なカロリーへの取り組みに焦点を当てましょう。

この3つです。期待外れでしたか?

記事にはもうすこし具体的な抗アレルギーダイエットについて説明があります。表2とされている部分です。

食事には気を付けるようにしましょう(注意深い食事を実践しましょう)
一人で食事をせず、誰かと一緒に食事をしましょう
1日にからのコップで5から8杯ほどの水を飲みましょう
いわゆるソフトドリンク(ジュースや炭酸飲料など)は、たとえダイエット飲料であっても避けましょう
毎日 朝食を摂りましょう

できるだけたくさんの野菜や果物を摂りましょう。できるだけいろいろな色の野菜や果物を摂るように心がけるのがお勧めです

穀物は全粒粉がお勧めです
果物やナッツなどの健康的な間食を摂りましょう
動物性の脂肪やタンパク質は制限してください
トランス脂肪を避けましょう
いろいろなスパイスを使ってみてください(筆者注:化学治療中は好みや苦手が変化するので)
適量の摂取を心がけましょう

この文章の最後にもう一度この記事の重要なポイントが示されています。

新しく診断された患者さん、治療中の患者さん、がん治療を終え、サバイバーとなった患者さんの全てに言えることであるが、食事指導を行う際に最も重要なことは、あまりに厳格な食事制限を避けることである。

この記事の関連記事で、アルコールはできるだけ避けましょう、という項目があったことを追加しておきます。

時々ネットや週刊誌などで 食事でがんを治す、ような記事を見かけます。ここを訪れた方もそれを期待していたかもしれません。ただ根本的な視点に立てば、どのような食事であってもがんを治すことはできないことがわかります。この記事でもたとえば抗がん剤で食欲が落ちたり、好みが変わっていままでの食事が受け付けなくなった時の乗り切り方に焦点が置かれています。

その”根本的な視点”ですが、がん細胞は決して体の外から来たものではなく、自分の細胞そのものである、ということです。たとえば子供さんが3人おられるお母さんを想像してください。そのうち一人の息子が悪い、他の子をいじめます。お菓子もご飯も取り上げて食べてしまう。おかげで他の二人は栄養失調です。お母さんはその子だけを懲らしめてやりたい。そこでお母さんはその子だけが下痢してしまう献立を考えることにしました。さてどんな献立を考えればその子だけ下痢で凝りるような食事を作れるでしょうか?

難しいですよね。その子が勝手に食べすぎて下痢して懲りるのを待つくらいしかできません。
ましてがん細胞も、自分の正常な細胞ももともとは一つの受精卵、つまり先ほどのたとえの子供たちは三つ子です。年も背格好もほぼ同じ。なおさら難しい。食事の内容で懲らしめるのはほぼ不可能ですね。よく食べることを利用して、食べ過ぎたら下痢をする、そんな献立を考える。そうだとしても正常な細胞が万が一食べ過ぎたらやはり下痢してしまいます。つまり副作用です。
そもそも食べ物だけでがんを根絶すること自体ほぼ無理な相談なのです。
ですのであまり厳格な制限にこだわるのではなく、バランスよく栄養をとる、適量の栄養を摂取することを中心に考えましょう、と書かれているのです。