乳腺と向き合う日々に

本を出しました! 乳がん 自己チェックの始め方 ー母へ娘へー

日本人女性の死亡原因を見たとき、もちろん1位は悪性新生物、がんです。

30歳代女性ではあればもう悪性新生物は不慮の事故による死亡率を上回って1位です。
そしてそれを1位に押し上げているのは乳がんです。30歳から70歳まで、がんの部位別に見た日本人女性の死因の1位は乳がんです。乳がんは自己チェックで検診できる唯一のがんであると言われます。日常生活で乳がんの自己チェックを怠ることは、日常で車を運転しながら注意を怠っているよりもよほど死に直結する、と言えるでしょう。皆さんも娘さんが車に乗るようになれば運転を注意するように声掛けするのではありませんか? しかし若い女性の死因から見るならば、その何倍も乳がんに注意するよう声掛けしないといけない。がんに関心がある親世代が、関心のない娘に声掛けしないといけない、私はそう思います。

しかし特に若い女性は仕事、家事、子育てと忙しい。まさか自分が乳がんになるなどと思ってはいない。

皆さんは若い女性が乳がんに罹患すると助からない、そんなイメージがありませんか?
それは進行が速いから、ではありません。高齢の女性でもがんの進行は早い。60歳女性でも死因のトップは悪性新生物です。若い女性でも乳がんが早期発見されればがんはきちんと治ります。同じ早期がんで比べてみるならば、その治癒する確率に年齢による差はほとんどありません。若い女性の乳がんが多く致死的である理由、それは発見が遅れがちになるからです。

「日常生活の中で乳がんに注意して、自己チェックすることを習慣にしなさい。」

親なら娘にそうして欲しいですよね。しかし習慣づけほど難しいものはありません。
乳がんの自己チェック、それはどうやって教えればいいのだろう。どう教えたらしてくれるんだろう。

そしてその正しい方法ってどうやればいいんだろう。

そもそも肝心の母親がそれを知らなかったり、自身がしていなかったりします。というよりも医師や公的機関から、正式に習ったことはないのではないですか?

私は日常で乳がんの検診に従事する乳腺の専門医です。診療を通じてどう自己チェックを指導すればいいか、どうすれば皆さんが実践してくれるか、様々に工夫しながら何年も模索してきました。そして、これで最善ではないか、という指導方法を確立しました。今 1日に200人近くが検診に来てくださっている当クリニックで実際に行っている指導内容を詳細にまとめたもの、それがこの本になります。

isbn978-4-910135-12-0-a (1)

実はこの本には サイズにこだわって選んだビー玉が2個付属しています。

そうです。このビー玉が私たちが行なっている指導方法の鍵になります。

外来診療で様々な女性に自己チェックを勧めて行く中で、大きな問題点が二つあることに気づきました。

一つは習慣づけの難しさです。例えば歯磨きは医者が年に1回程度教えても身につきません。虫歯になって痛い目にあってだんだん身につく。それではガンの場合では遅いですよね。

朝起きたら顔を洗うように、寝る前に歯を磨くように、規則正しく、定期的に乳腺の自己チェックをする習慣を持っている、そんな娘さんになってほしくないですか?
しかし 習慣づけには親から娘への根気強い指導がなされる必要があります。できれば幼少期から、母親が自己チェックをしている姿を見せてほしい。そしてそれを年頃になったら指導してほしい。そうしなければなかなか習慣づけはできない。これは娘を持っておられる方にその話をすればすぐに理解していただけます。

こうして自己チェックを親子で始めるモチベーションが生まれたとして、最大の問題は、親がしたことのないものをどうやって子供に教えるのか、です。具体的な方法論が親にないのです。それが二つ目の問題であり、最大のものです。

そこでこの本が必要になりました。

この本には1.7cmのビー玉が2個付属しています。(もちろん本を買わなくても、同じサイズのビー玉を買っていただければ、とりあえず始められます。そして始めてください。)

これ、触診で気づいて欲しいギリギリ早期ガンで収まるサイズになります。つまり上限です。
今ほとんどの方が乳腺のしこりが危ないサインであることは知っています。時々自分でチェックしている方も多い。でもサイズを意識していません。検診だから早期で発見できなければ意味がない。だからこれ以上大きくなる前に病院に行かないといけない、それを触感として、手が認識している必要があります。

このビー玉を使って早期発見のために必要なサイズを触感で自覚してもらう。
そしてそのビー玉を、できればそのまま家族で使うお風呂場に置いてもらっています。そうすれば家族みんなの目に止まり、意識をするようになります。お互いに声掛けも行われるし、何より娘がいたなら家族みんなで指導することになります。こうして習慣づけがより容易になります。

試行錯誤するうち、こう指導すれば、自己チェックを始めて、そして継続してもらえる、と確信した現状での到達点です。これはそれを本にまとめたものになります。ビー玉法と呼んでいます。

マンモグラフィ検診をうけておられる女性でも自己チェックはされていなかったりします。そしてその対象年齢ではない娘さんを心配されていたりします。高齢になってマンモグラフィ検診を受けておられない母親を心配されていたりします。そうした娘に、母親に、全ての女性に自己チェックをするよう勧めていただくためにこの本はあります。ぜひ手に取って読んでみてください。そして今日から乳腺の自己チェックを実践してください。

この本は 現在Amazonや、書店では手に入りません。
下記 翔雲社から手に入りますので、良かったらご購入ください。

本紹介:https://www.shounsha.co.jp/list/isbn/isbn978-4-910135-12-0.html
Shop: https://shounsha.stores.jp/items/67a9711dadce6619361be983
定価1,650円(本体1,500円+税)

私の乳がんは完治しました、と言い切れることの難しさ

がんという病気の難しさは、怖さは、完治したかどうか、何年も経過してみないとわからない、いやそれどころか何年たっても完治したかどうかわからない、そのことにあります。
それはがんという疾患の本体は手術をして取り除いた腫瘍、ではなく、じつは ”微小転移”とよばれる、検査をしても現状の検査機器や技術では発見できない見えない転移、にあるからです。そしてどんなに小さく、早期で発見していても、がんである限りはその微小転移が潜んでいる可能性は0ではありません。むしろそれが0ではない腫瘍を”がん”と呼んでいるといっても過言ではないのです(注:ただし乳がんでは非浸潤がん=DCISと呼ばれるものがあります。これは微小転移の可能性が理論上は0です)。

今乳がんに罹患される方は非常に多い。きちんと検診されておられる方も増えました。ですので早期発見で乳がんを見つけて治療をされている方も多い。しかしどんなに早期であってもそれが浸潤がんである限り、微小転移がある可能性が否定できない。だから術後何年にもわたってホルモン剤を飲んでおられるのです。しかし残念ながらその確率が1%だとしても、全体の母数が多くなれば、その1%の方の数も多くなります。

このため、米国における年間の乳がんによる死亡のほとんどは、実はステージ I または II のがんによるものである、という論説が出ていました。

ステージ IやIIの 乳がんの転移再発および死亡の個人リスクは低い (10% 未満) のですが、ステージ I・II と診断される患者さんの絶対数が圧倒的に多いため、この大規模な患者集団が経験する小さなリスクが積み重なって結果的に死亡される方の絶対数は大きくなります。

高リスクのステージ II および III の乳がん患者に対しては、ここ数年に進歩した抗がん剤やホルモン剤などの積極的な補助療法により、これらのがんによる死亡は減少しました。しかしこれを同じようにステージI・IIの低リスクの患者さんにも施行することはとても勧められません。こうした積極的な補助療法がそのほとんどの患者にとっては不必要な過剰治療になるからです。ですので低リスクのステージ I・II の乳がんによる死亡を減らすには、これら早期の低リスクとみられている患者さんの中に、わずかでも含まれている微小転移を有している患者さんを何としても見分ける技術の開発、そしてそれをターゲットにした治療技術の開発が不可避になります。

乳がんによる死亡率は過去 20 年間で 40% 以上減少したことが広く認識されています。これは主に、高リスクのステージ II・III の患者に対する抗がん剤やホルモン治療の術後補助療法の改善によるもので、これによって遠隔再発や転移性乳がんによる死亡のリスクが減少しました。

しかし、これらの改善にもかかわらず、2023 年に米国で浸潤性乳がんで死亡する人は推定 43,700 人です。最近発表された研究において、乳がんによる年間死亡者数のうちステージ I、II、III、IV の疾患による死亡者数の割合と、これらの割合が時間の経過とともに変化したかどうかを調べられました。
2000 年から 2017 年の間に毎年乳がんで死亡した患者のうち、最初に診断されたときにステージ I、II、III、または IV の疾患を呈していた患者の割合はどれくらいか、という調査をしました。乳がんによる死亡が臨床病期によってどれくらい異なっているのかを理解することは、集団レベルの乳がんによる死亡率をさらに低減するための治療戦略を設計する上で重要だからです。

この研究では、監視、疫学、最終結果プログラムのデータを使用し、972,763人の患者を対象としました。2000年から2017年の間に、年間の乳がん診断のうちステージ Iの診断が約49%から54%に統計的に有意に増加したのに対し、ステージ IIおよびステージ IIIのがんの診断は同じ期間に減少していることがわかりました。つまり早期発見される乳がんの比率は増加していました。

全体として、2017年に新たに診断された乳がんの85%はステージIまたはIIの病気でした。5年乳がん特異生存率は95%を超え、ステージ Iのがんでは良好な結果で安定していましたが、この期間中にステージ II、III、およびIVのがんの生存率も統計的に有意に改善しました。これらの観察結果から得られた時間の経過に伴う傾向は、高リスク乳がんに対する補助療法の有効性がどんどん改善していることと一致しています。

今回の研究で最も興味深い発見は、乳がんによる年間死亡率に寄与するステージ I / II のがんの割合が 2000 年から 2017 年にかけて大幅に増加した (ステージ I では 16% から 23%、ステージ II では 31% から 39%) ことです。一方、ステージ III / IV のがんの割合は減少していました (それぞれ 36% から 30%、17% から 7%) 。

つまり以前は乳がんで亡くなる方は進行して見つかった方がほとんどを占めていましたが、乳がんのほとんどが早期発見されるようになった現在、乳がんで亡くなっている方の大部分が、全体数で見たならば実は早期発見された方がほとんどである、ということになっているのです

2017 年には、乳がんで死亡した患者の 62% が、当初ステージ I・II と診断されていました。これらの時間的傾向は、すべてのサブタイプで同様であり、今後数年間も続く可能性があります。

高リスクのステージ II・III エストロゲン受容体陽性(HER2 陰性)乳がんに対しては補助的 CDK4/6 阻害剤(ベージニオ🄬など)の導入がなされました。

ステージ II・III トリプルネガティブ乳がんに対しては化学療法と併用した免疫療法(ペムブロリズマブなど)の導入により、これらの高リスク集団における転移再発率はさらに低下するでしょう。

しかしこれらの薬剤が適応とならない低リスク患者のがんによる死亡は現状のまま変わりません。その結果として、乳がんによる死亡のうちステージ I および低リスクのステージ II がんの占める割合は引き続き増加することになります。

これらの観察結果から、新たな課題、すなわち、一見リスクが低いステージ I および II の乳がんにおける死亡率をいかにして低下させるかという問題が浮上してきています。

単純に高リスクがんに使用される治療戦略をそのまま低リスクの乳がん患者さんにも適用すると、ほとんどの患者で大幅な過剰治療と不必要な毒性が生じることになり、これは現実的に実行可能な戦略ではありません。

補助ホルモン治療の遵守を改善することで、ステージ I・II のエストロゲン受容体陽性乳がんによる死亡率を低下させることができます。これは、低リスクであっても危険性を認識していただき、いままでの治療をより厳密に守るだけですので、今からでも改善可能でしょう。

新しい診断技術(ctDNA モニタリング)が期待されています。

ctDNA(circulating tumor DNA) とは、がん細胞が死滅する際に血液中に放出されるDNA断片のことを指します。近年、このctDNAを血液検査(リキッドバイオプシー)で解析することで、がんの診断・モニタリング・治療効果の評価・再発リスクの予測などに活用する技術が注目されています。

ctDNA モニタリングの目的と活用方法

  1. 早期診断:一部のがんでは、ctDNAを検出することで早期発見が可能とされています。例えば、肺がんや大腸がんなどで研究が進んでいます。

  2. 治療効果の評価:治療前後のctDNA量の変化 を測定することで、治療が効果を発揮しているか判断できます。例えば、化学療法・免疫療法・分子標的治療の効果をモニタリング可能です。

  3. 低残存病変(MRD:Minimal Residual Disease)の検出:手術や治療後にctDNAが残っていると、がんの再発リスクが高い と考えられます。早期にctDNAを検出し、再発リスクを予測することで、追加治療を検討できます。

  4. 再発・転移の早期発見:血液中のctDNAを定期的に測定することで、がんが再発または転移した兆候を早期に発見可能です。従来の画像診断(CTやMRI)よりも早期に検出できる可能性があります。

  5. 遺伝子変異に基づく治療選択:ctDNAを解析することで、がん細胞のドライバー遺伝子変異(がんを成長させる変異)を特定できます。これにより、個別化医療(プレシジョン・メディシン) を実施できます。EGFR変異(肺がん)やKRAS変異(大腸がん)などを特定し、適切な分子標的薬を選択できます。

今回の話題では、ctDNAに関する3・4の技術の応用によって、一見早期がんに思われる乳がんの微小転移を見つけることができないか、と開発が進んでいる、と述べているわけです。

これによって、早期乳がんであったがじつは再発寸前である、あるいは微小転移性疾患がある、こうした患者を特定できるという希望を与えてくれます。

その場合、早期介入によって転移再発を回避できる可能性があります。しかし、転移再発の予測因子としての血漿 ctDNA の上昇の分析的妥当性および予後妥当性は広く受け入れられていますが、追跡中の ctDNA 陽性に基づく早期介入によって生存率を改善できるかどうかは不明のままです。つまりctDNAは有効だが、それを踏まえてどう対応すればいいかがわかっていない、ということになります。

ctDNA検査は現在まだまだ高額ですが、現在進行中および将来の臨床試験で、こうした早期介入により再発率が低下することが証明されれば、転移性乳がん治療の高額かつ継続的なコスト増加を考慮すると、低リスクのステージ I および II 乳がんの ctDNA モニタリングは費用対​​効果が高くなる可能性があります。そうなれば一般的に施行できるレベルになる可能性が出てくることでしょう。

2025.02.04

転移性HER2陽性乳がんにおける脳病変のより詳細な観察

ここ最近も脳転移について記事を書きました。
乳がんが転移し、ステージIVとなった時、その方の生命予後を決定しているのが脳転移の進展による、そういう状況が次第に増えています。抗がん剤やホルモン剤の進歩によって脳転移以外の転移巣はなんとかコントロールできているのに、脳転移だけはコントロールできず進展する、そして生命を脅かす、乳がんの脳転移のコントロールは大きな課題になっているのです。
特にHER2陽性乳がんは、抗HER2療法と呼ばれる薬剤が近年素晴らしい進歩を遂げました。ハーセプチン🄬の開発をきっかけにパージェタ🄬や、エンハーツ🄬など、素晴らしい薬剤が次々登場し、たとえ遠隔転移があるステージIVとして見つかっても、治癒する可能性が十分ある、そんな時代になっています。そしてだからこそ逆に、こうした分子標的薬剤の効きにくい部位である中枢神経系への転移が残された課題として問題になってきているのです。

そして脳病変を伴う転移性 HER2 陽性乳がんの生存率は、その病変の位置によって異なることが、大規模なデータの解析で示されています。前回も述べた播種性転移と血行性転移の違いです。
診断時に髄膜播種を患っていた患者の全生存期間(OS)の中央値は1.24年であったのに対し、実質または硬膜病変を患っていた患者(血行性転移での脳転移と考えてください)では3.57年でした。
中枢神経系に限定された転移性乳がんの患者さんでは、やはり中枢神経系関連での死亡のリスクが高く、3年後の死亡率は33.98%であったのに対し、他の原因による死亡率は6.07%でした。
ニューヨーク市のメモリアル・スローン・ケタリングがんセンター(MSKCC)のネルソン・モス医師と共著者らは、274人の患者集団全体の死亡の半数以上が中枢神経系関連の原因によるものだとJAMAネットワークオープンで報告しました。
「中枢神経系の進行が最も一般的な死亡原因であった」と結論付けています。

「中枢神経系のみに転移を有する患者さんは、頭蓋外に転移を同時に起こした患者さんよりも生存期間が長かったが、中枢神経系にしっかり局所療法をされている患者さんの割合が高いにもかかわらず、それでも中枢神経系関連での死亡率は高かった」と研究者らは述べました。

「より効果的な中枢神経系にきちんと浸透して効果を発揮する全身療法が緊急に必要とされています。」

脳や延髄、脊髄などの中枢神経系はたいへん重要な部位になります。そのため、血液の中に入り込んだウィルス、細菌、そして寄生虫などが脳や脊髄に入り込まないように、Blood-Brain-Bareer(通称BBB)と呼ばれる特殊な構造があり、血液中の比較的大きな分子が染み出してこれないように守られています。酸素や栄養だけ送れ、それ以外は決して通さない!という門番がしっかりいるのです。

ただ近年開発され、がん治療で大成功を収めた分子標的薬剤と呼ばれるハーセプチン🄬やパージェタ🄬などは、比較的分子量が大きく抗がん剤の中でも大きな物質になります。このためBBBを突破できず、脳や脊髄への移行が期待できないため、脳転移巣に限って”効きが悪い”ことになるのです。そしてそれが今非常に問題になっているのです。
BBBを突破して、浸透し、ハーセプチンやパージェタ同様にしっかりとがんに効く薬の開発が緊急かつ重要な課題となっています

「新しい抗HER2やその他の抗がん剤が登場するにつれ、臨床試験では薬剤開発の初期段階から頭蓋内効果を評価するためにCNS疾患の患者も対象にすべきです」と研究者らはのべました。「さらに、試験設計にはCNS関連死亡率など、CNSの結果に特に対処したエンドポイントを組み込むべきです。」

「今回の結果は、HER2陽性転移性乳がんにおける中枢神経系への影響の大きさの評価に根本的な変化をもたらします。今回の研究により、中枢神経系に転移した乳がんは、もはやどうしようもないあきらめにいたる前兆などではなく、治療の可能性に満ちたダイナミックな状況、つまりチャンスの場として再定義するべきだと考えます」と、ミラノ大学のダリオ・トラパニ医学博士と共著者らは主張しました。「中枢神経系に転移をきたしたHER2陽性乳がんの治療における変革への道筋を示しました。分析から得られたことは、脳転移はもはやどうにもならない終着駅だ、という考え方を否定し、中枢神経系への治療の挑戦こそが変革的な結果をもたらす最前線であるという議論を提示していると思います。」

進行性HER2陽性乳がん患者の約3分の1に脳転移は起こります。転移性HER2陽性乳がんの生存率は、より新しく効果的な治療法の登場により過去10年間で大きく改善しましたが、これら多くの薬剤の有効性は中枢神経系ではなく頭蓋外の転移巣への効果によってもたらされています。
中枢神経への転移はこれからの治療上の重要な課題となっています。手術や放射線治療などの脳への局所療法は局所の病気のコントロールと症状の緩和に有効ですが、潜在的な副作用のリスクも伴っており、いまだに全生存率と 中枢神経系転移関連死亡率への影響は不明なままになっています。これらの患者の死亡原因に関するデータをきちんと回収し、中枢神経系転移関連死亡とその潜在的な相関関係をより深く理解することで、積極的な局所療法の選択に役立つ可能性があります。

この研究では、研究者らは、2010年8月から2022年4月までに施設で治療を受けた転移性HER2陽性乳がんおよび中枢神経系転移疾患のすべての患者の記録を解析しました。主要評価項目は全生存率と中枢神経系転移関連死亡率でした。
こうして追跡した患者さん274 人の平均年齢は 53.7 歳でした。中枢神経系転移の診断時に、患者の 26.6% が 中枢神経系転移のみ患っていました。生存患者におけるコホートの平均追跡期間は、中枢神経系転移の診断から 3.7 年でした。
全死亡率と中枢神経系転移関連死亡は、診断時の中枢神経系転移のパターンと有意な相関関係がありました。全死亡率は播種性転移患者で最も悪く、頭蓋外にも転移を有している患者さんでは中程度 (2.16 年)、そして実質または硬膜病変のみの患者(血行性転移のみ)の患者さんでは最も良好でした。
追跡期間中に死亡した 192 人の患者さんのうち、55.2% が中枢神経系転移関連の原因で死亡しました。中枢神経系転移関連死亡の統計では、播種性転移の有無と全脳放射線療法の有無が 中枢神経系転移関連死亡の独立した予測因子であることが示されました (それぞれ HR 1.87、95% CI 1.19-2.93、P =0.007、および HR 1.71、95% CI 1.13-2.58、P =0.01)。

2025.02.03

薬で楽をすると・・・

皆さんはGLP-1という一種のホルモンを利用したお薬を知っていますか? これやせ薬です。

GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)は、腸管ホルモン(インクレチン)の一種で、食事の後に小腸から分泌され、血糖値の調節に重要な役割を果たします。以下のような働きがあります:

  1. インスリン分泌の促進:血糖値が上昇すると、膵臓のβ細胞からインスリンの分泌を促進します。これにより血糖値を下げる効果があります。

  2. グルカゴン分泌の抑制:膵臓のα細胞から分泌されるグルカゴン(血糖値を上げるホルモン)の分泌を抑えます。

  3. 胃の排出遅延:胃の内容物の排出を遅らせることで、食後の血糖値上昇を緩やかにします。

  4. 食欲抑制:中枢神経系に作用して食欲を抑える効果もあります。

GLP-1受容体作動薬(GLP-1アゴニスト)と呼ばれるGLP-1の作用を利用した糖尿病治療薬や肥満治療薬が開発されています。これらの薬は、GLP-1の働きを模倣または強化することで血糖値をコントロールし、体重減少にも効果を発揮します。有名な薬剤には以下があります:リラグルチド(ビクトーザ、サクセンダ) セマグルチド(オゼンピック、ウゴービ)これらは特に2型糖尿病(インシュリン使用にまで至らない糖尿病)や肥満治療に使われることが多いです。

私のブログを読んでいる方、私の患者さんではもう耳にタコができるか、きくのも嫌になっていると思いますが、乳がんに罹患された後、もし再発を防ぐために”皆さんが”できることで、確かに効果ありと証明されていることは一つしかありません。(ホルモン剤をきちんと飲むとか、抗がん剤をするなど、医者がすることを別にして)

それは規則正しい運動を心がけて、太らないこと、です。

しかし乳がんのような大きな病気を経験されると、それをきっかけに今まで通っていたジムをやめてしまったり、趣味の山登りやマラソンをやめてしまったり・・・なにより年齢は嫌がおうでも拾いますから、じわじわと太ってしまわれている方は多いのが現状です。

先生、ホルモン剤のせいじゃないですか?

「ホルモン剤は0カロリーです。食べなければ太りません。」

なんて会話を私としたことのある患者さんは多いですよね(笑)。

なんか、痩せる薬とかないですかね? とそうなりますよね。
あることはあるんです。それがGLP-1です。
もちろんその目的で保険が通ることは考えにくいですから、わが国ではほとんど普及していません。ただ米国では現状積極的に使われているようです。そしてそれを実際に臨床で使用されている、そして全国で講演までされている先生のコラムがありましたので紹介したいと思います。示唆に富む、そして非常に興味深い話になっています。

スペース
GLP-1が解決策だとはもう思わない

クリストファー・マクゴーワン医学博士:肥満医学の専門医、消化器科医であり、減量のためのさまざまな非外科的処置を提供する True You Weight Loss の創設者です。

GLP-1をベースとした肥満治療薬であるセマグルチド(オゼンピック、ウィーゴビー)とチルゼパチド(ゼップバウンド)ほど急速に人気が高まった薬はほとんどありません。これらの薬によって肥満治療薬は大きな進歩をしましたが、そう考えられる十分な理由があります。セマグルチドが2021年にFDA(米国における厚労省、保険適応を決めている)に承認されるまで慢性的な体重管理に最も効果的な薬は、おそらく1959年に初めて承認されたフェンテルミン(アディペックス)だけでした。60 年以上も効果が疑問視され、進歩が止まったままであった中で、患者や医師が 新しく登場したGLP-1 を待望の画期的成果とみなしたのは驚くことではありません。

私も最近まで、そのような医師の一人でした。

肥満医学の専門医として、私は早くから声高にこの画期的な薬の使用を主張してきました。GLP-1 療法の臨床試験に参加し、肥満に対する前例のない有効性について公に頻繁に講演しました。私はこれらの薬に対する期待を皆さんとともに共有し、高額な費用、限られた保険適用、早期に終了したクーポン プログラム、供給不足など、皆さんもご存じのさまざまな障壁にもかかわらず、患者とともにこの薬を保険適応とし、安価に入手するために戦いました。

しかし、数年経って、現実世界での経験に基づいて私の見方は変わり、今では GLP-1 薬の使用について深い懸念を抱いています。

ただし誤解しないでください。効能の観点から言えば、これらの薬は「効きます」。GLP-1 を服用できる余裕があり、我慢でき、継続できる人は、確実に体重を減らします。私は、空腹感を減らし、食べ物の音を静め、満腹感を高めることで、体重を減らす能力がどのように変化するかを直接見てきました。そして、そのメリットは体重減少だけにとどまりません。研究では、心血管イベントの減少が確認されています。うっ血性心不全などの症状の改善、腎臓病、閉塞性睡眠時無呼吸、および変形性関節症が改善することも明らかになっています。

これらの薬が意図されたとおりに、つまり無期限に服用される限り、その効能は否定できません。しかし、これらの薬の服用を中止すると、身体と精神に何が起こるのでしょうか。ここに問題があります。

実のところ、ほとんどの患者は抗肥満薬を服用し続けません。私は毎日診療でそれを目にしています。研究によると、患者の4分の3は2年以内にGLP-1薬の服用を中止しています。多くは数か月以内に中止しています。中止の理由には、費用、副作用、供給不足などがあります。しかし、最も一般的な理由の 1 つは、患者が単に減量薬を無期限に服用したくないということです。多くの人は、「システムを打ち負かす」ことができると信じており、短期間服用し、ライフスタイルを変え、体重が戻らずに服用をやめることができる、と信じて服用をやめてしまうのです。

しかし残念ながら、それは不可能です。セマグルチドとチルゼパチドの臨床試験では、平均的な患者は3分の2のリバウンドが見られました。減量した体重の約半分(および心臓代謝変数の同様の変化)は、中止後 1 年以内に元に戻ります。人によっては、体重がほぼ瞬時に元に戻ったように感じ、最初に減った体重よりもむしろ超えて戻ってしまうことがよくあります。私の患者は、食べ物の誘惑が再び現れて、空腹感と敗北感を覚えると言います。

GLP-1薬の科学的な作用のしくみは、これらの薬が永久的な変化を引き起こさない理由を説明しています。これらの薬は、グルカゴン様ペプチド-1受容体の外因性合成アゴニストです。使用中、これらの薬は特に脳と胃の受容体を飽和させ、非常に高い持続レベルで内因性GLP-1の効果を模倣します。しかし薬の使用を中止すると、その効果は2~4週間以内に消えます。受容体はもはや空腹を鎮めるペプチドで満たされておらず、空腹感が猛烈に戻ってくる。そして体重もすぐに増える。

その結果、多くの患者が治療と中止を繰り返し、最終的に失うのは年間12,000ドル以上のお金だけになります。(ほとんどの場合、米国でも保険が使えません)

この悪循環は、我が国の身体的、精神的、経済的健康、そして肥満に苦しむ何百万もの人々にとって、長期的には重大な影響を及ぼす可能性があります。何百万もの人々に GLP-1 の短期使用を強いると、社会に何が起こるのでしょうか。結局、痩せることに失敗し、たくさんお金を使ったことだけが残る。私たちは結局、医学の最も基本的なルールである「害を与えない」に違反しているのでしょうか。

これらの薬をやめることによる悪影響は体重の増加だけにとどまらず、体重の増減には一定のリスクが伴うこともまたわかっています。体組成を測ると、GLP-1による治療中、患者は筋肉量を失うことがわかっています。脂肪とともに、筋肉の損失の多くは回復しないという研究結果が出ています。中止してその後体重が元に戻った場合、戻った体重は主に脂肪であり、筋肉ではありません。これにより、筋肉量が減り、基礎代謝率が低下し、将来の減量が困難になるなど、むしろ治療前より状態が悪化する可能性があります。健康への影響としては、筋力の低下、骨密度の低下、骨折リスクの上昇などがあります。

心理的には、体重が元に戻ると肥満に関する誤解や偏見が強まります。患者はまたしても「失敗した」試みに対して自責の念と恥を感じ、それがうつ病や自信の低下につながることも少なくありません。

最後に、何百万人もの人々がこれらの薬を服用したり中止したりすることで生じる経済的損失は計り知れません。人々はこれらの薬に毎年何千ドルも費やして大きな犠牲を払っているが、結局は体重が元に戻ってしまう。医療経済はこれ以上膨れ上がる費用に耐えられない。全国の州ではすでに、維持不可能な費用を理由に保険の適用を停止している企業もあります。

患者が何万ドルも費やし、不快で時には深刻な副作用に耐えた後、私たちはこの時代を振り返ることになるのではないかと私は恐れています。そして体重増加の繰り返しと食事に関する不満の復活を経験した後、こう自問するのです。

「これらの薬が「効く」としても、本当に効いたのだろうか?それとも、最終的に患者、社会、経済に害を及ぼしたのだろうか?」

まとめ
たとえは悪いですが、まるで覚せい剤ですね。
疲れが取れない、何も手につかない、でも覚せい剤を使うと超人になったように眠ることなく、どんどん仕事がはかどる。なんでもできるような気がする。
でも薬が切れた途端に、前にもまして恐ろしい疲労感と、無力感にさいなまれる。仕方なく、また覚せい剤を使う。もはやお金をいくら使ったかもわからないが、もうやめられない。

やはり楽して、というか薬でなにかを得ようとしても、必ず何かを同時に失う、ということですよね。生活習慣に伴う病気は生活習慣を先ずは正す。それ以外の解決方法はそれがまずできてから、そう思います。

2025.01.31

転移 進行乳がん患者さんの脳転移について

最近、転移を有しているステージIVの乳がん患者さんから、もし乳がんが再発したら、症状がなくても定期的に脳転移のスクリーニング検査をするべきかどうか、相談がありました。それについてタイムリーな記事が米国でありましたので、紹介してみたいと思います。
ただ最初に述べておきますが、現状では”症状がなければ定期的な検査はしない”ことがガイドライン上は正しいとされます。不安だから、興味があるから、調べておきたいから、という理由だけでは脳の検査に限らず検査は行われないのが普通です。それにより延命や、QOLの改善などメリットが得られなければ、検査は行われません。脳転移の定期的なスクリーニング検査にはメリットが証明されていないのです。

以前も乳がんの脳転移について記事を書きました。

乳がんは全身のどこにでも転移をしますが、特によく転移を起こすのが骨です。肝臓、肺にも転移をします。骨転移、特に背骨や腰椎など、脊椎に転移をきたすと、骨髄にがん細胞が常に供給されるようになります。髄液中に浸潤し、がん細胞がその液体に乗って、”播種性”に脊髄、脳に転移をします。脊髄液にがんの種を混ぜて撒いているような感じです。ですので、播種と言ってばらばらと小さく広く転移をきたします。それ以外に血流から脳転移をきたすこともありますが、そういった場合には小さな結節で脳の実質の中に転移巣を形成します。

脳転移

播種性転移:髄液は脊髄から脳の周辺を循環しており、これに乗って骨の転移巣からがん細胞が運ばれると、種をまくように小さな腫瘤が表面にばらばらと形成される形態をとって転移する

血行性転移:血流にのってがん細胞が運ばれてきて、脳に転移巣を形成すると、脳の実質の中に孤立性に腫瘤を形成する形態をとる。
ただ多くの場合、この両者は混在している。

脳は体のパーツの中でも特別大切な臓器なので、転移があるからと言って全部切除する、という治療方法はとれません。部分的に切り取ることも非常に難しい臓器です。

もし乳がんの脳転移が、孤立性に腫瘤を形成する後者の形態で発生したなら、極端に言えばそこを手術で切除する、ガンマナイフや重粒子線を使って焼く、という治療方法が取れる可能性があります。

しかし前者のように小さいながらもばらばらと脳や脊髄の表面全体に広く”播種”してしまうと、そこだけを治療することはできません。
そこで全脳照射という方法をとることになります。脳全体を放射線治療で焼くという方法であり、やはりそれなりの大きな副作用を覚悟しなければいけなくなります。

そのことを踏まえた上で下記の考え方が出てきます。
定期的に脳転移をチェックしておき、播種をきたす前に、孤立性の転移で済んでいるうちに転移を発見できれば、全脳照射を避けることができ、そこだけを焼くような治療ができるのではないか。大きな副作用を覚悟せずとも延命できるのではないか。

現代の乳がん治療では免疫療法、抗がん剤治療、ホルモン治療の進歩によって、がんの進行を抑制し、全身に転移をきたした状態でも何年も延命できるようになりました。がんを完全に根絶できなくても、共存しながら何年も粘っていけるようになっています。しかし様々な理由があって薬物治療は脳転移には効きにくいのです。ですので、近年、せっかく肝臓や骨の転移は薬で抑え込めているのに、脳転移だけがじわじわ進展してきている、という患者さんが大変多くなってきているのです。
乳がん治療において、脳転移のコントロールは、現代医療においても最後に立ちふさがっている大きな壁なのです。

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定期的に脳転移のチェックをする。それはCTやMRIの力を借りなければなりませんが、決して不可能ではありません。ただ、現在の米国立総合がんネットワーク(NCCN)のガイドラインにおいて「乳がん患者の脳MRI検査は、症状がある場合にのみ行うべきである」と明記されています。

それは、かならずしも血行性の転移(後者)が先に起こり、それから播種性の転移(前者)が順番通り怒るとは限らないからです。前述しましたが、乳がんはよく骨転移します。そこから髄液にがん細胞が落ち、播種するのであればむしろ播種が先に起こることも珍しくはありません。ですので、定期的に脳のチェックをして、播種する前に孤立性の転移で見つける、ということは難しいと考えられているのです。

ただ最近になって、フロリダ州タンパのモフィットがんセンターのカムラン・アーメド医師らは、そうとも言えないのではないか、という論文をNeuro-Oncology誌に発表しました。

彼らは、症状のない乳がん脳転移に関する前向きのデータを収集するため、ステージ IV 乳がん患者を対象に単群非ランダム化第 II 相試験(数を集めて観察する)を実施しました。

HR 陽性/HER2 陰性乳がん患者は、転移性疾患に対する治療を少なくとも 1 回受けている人が選ばれました。トリプルネガティブ乳がん(TNBC) または HER2 陽性乳がんの患者さんは、以前の治療回数に関係なく今回の観察に参加しました。脳転移の症状がすでにある患者は除外されました。

研究対象患者 101 名の内訳は、HR 陽性/HER2 陰性乳がん患者 40 名、HER2 陽性疾患患者 33 名、TNBC 患者 28 名でした。うけた治療回数の中央値は、それぞれ 4 回、2 回、2 回でした。

観察開始時、つまり全く脳転移の症状がなかった最初の段階で施行した MRI スキャンにおいて、患者さんの 14% に脳病変がすでに検出され、TNBC 患者では 18%、HER2 陽性患者では 15%、HR 陽性/HER2 陰性患者では 10% でした。

その後 6 か月後のフォローアップ MRI の対象となる 87 人の患者のうち、66 人がフォローアップ評価に参加しました。フォローアップ MRI の完了後、脳転移の累積発生率は、TNBC で 25%、HER2 陽性で 24%、HR 陽性/HER2 陰性疾患で 23% でした。

最初の MRI スキャンが陰性であった 乳がん患者さんのうち、10 人の患者さんが、スキャン間の 6 か月の間隔中に脳転移を発症しました。

転移を有する乳がん患者さんではその4分の1が、MRIによる観察研究に参加してから6か月以内に無症状の脳転移が検出されました。観察開始の脳MRIの結果においても、101人の患者のうち14%にすでに無症候性の脳病変があり、トリプルネガティブ(TNBC)およびHER2陽性の腫瘍を持つ患者では、ホルモン受容体(HR)陽性/HER2陰性の腫瘍を持つ患者よりもその割合が高いという結果でした。6か月後の追跡MRI評価後、総発生率は24%に増加し、それは乳がんのサブタイプ間で同様であり、これまで認識されていたよりも高いものでした。

MRI で脳転移が検出された患者のうち、16 人 (67%) が局所定位放射線治療 (SRS) を受け、1 人が術前 SRS 後に外科的切除を受け、3 人が海馬回避型全脳照射( WBRT) を受け、2 人が従来の WBRT を受けました。9 人 (38%) の患者は脳転移の診断後に全身療法が変更になりました。

この結果をWBRTにならずに済んだ方が多い、とみるか、結局WBRTが必要になる方では必要になる、とみるかは、今後、定期的に脳転移をチェックした群と、しなかった群を比較しないと結論は出せない、と言えます。ただ今回の試験に参加しなかったらこれらの患者さんは皆さん脳転移が発見されるのは症状が出現するまであり得ないので、もっと遅くなったはずです。そうなればWBRTの必要になった方はもっと多くなった可能性もあるといえます。

カムラン・アーメド医師らは、MRI検査を定期的に行わなければ、症状が出て初めて脳転移が発見されます。しかし乳がん患者が脳転移の症状を呈したときには、その病状がより進行している傾向があることは間違いありません。そうした患者さんでは全脳放射線療法(WBRT)を必要とすることが多くなります。

今回の研究結果は、症状のある脳病変にのみMRI検査を支持する現在の臨床ガイドラインの再検討が必要なのではないか、ということを示唆していると、カムラン・アーメド医師らは報告しています。

まとめ

乳がんが肺、肝臓、骨などに転移再発した際、たとえ症状がなくてもすでに10%以上の方で脳転移も同時に伴っている可能性があります。それはさらに6か月経過することで20%以上に増加します。定期的に脳の検査をすれば、症状がないうちからその転移を発見することができ、全脳照射を避けることができる可能性があります。

しかし、定期的に脳の検査をすることで全脳照射を避けることができたとしても、現段階ではそのことが最終的な延命につながるという結果は出ておらず、QOLを改善できることも証明されていません。

現状、乳がんの転移があれば定期的な脳の検査をするべきである、という結論までには至っていません。

2025.01.28

COVID、インフルエンザ、RSウイルス:どのウイルスが最も悪い結果をもたらすのでしょうか?

米国では退役軍人が医療保険において一つの集団として観察対象とされており、データがきちんと取られています。そこでその多くが高齢者である退役軍人を対象としたCOVID、インフルエンザ、さらに代表的な風邪症状を引き起こすRSウィルス感染に関する遡及的コホート研究が行われました。

それによると、2022~2023年の呼吸器疾患シーズン中、新型コロナであるSARS-CoV-2感染はインフルエンザやRSウイルス(RSV)よりも重篤な疾患結果と関連していましたが、2023~2024年のシーズンではその差はそれほど顕著ではなかったことがわかりました。

オレゴン州退役軍人局ポートランド医療システムのクリスティーナ・L・バジェマ医学博士らは、2022~2023年シーズンの30日間の死亡リスクは、COVID-19では1.0%、インフルエンザとRSウイルス感染症ではともに0.7%であったのに対して、2023~2024年シーズンはCOVID-19では0.9%、インフルエンザとRSウイルス感染症ではともに0.7%だったと報告しました。

JAMA内科医学誌で、2022~2023年シーズンの30日間以上の入院リスクは、COVID、インフルエンザ、RSウイルスでそれぞれ17.5%、15.9%、14.4%、2023~2024年シーズンではそれぞれ16.2%、16.3%、14.3%だったと指摘しました。

一方、2022~2023シーズンの30日間の集中治療室(ICU)入院のリスクは、インフルエンザとRSウイルスを比較した場合は同程度(リスク差-0.3%)でしたが、COVIDをインフルエンザまたはRSウイルスと比較した場合にはリスクが高いという結果でした(リスク差はそれぞれ2.2%と1.9%)。
2023~2024シーズンのリスクパターンも同様でした。

注目すべきは、180日経過した時点での死亡リスクは両シーズンを通じてCOVIDの方が高かったことです。2022~2023シーズン中、COVIDとインフルエンザおよびRSウイルス感染症との間で、180日時点での推定リスク差は1.1%でした。2023~2024シーズン中、180日時点での死亡リスク差は、COVIDとインフルエンザの間で0.8%、COVIDとRSウイルス感染症の間で0.6%、高いという結果でした。

退役軍人が、ワクチン接種を受けていない場合、インフルエンザで死亡するよりも、COVIDで死亡する可能性は高いという結果が出ました。
しかし罹患した病気に対するワクチン接種を受けていた場合の死亡率は同程度でした。

「ワクチン接種は、(呼吸器ウイルス性疾患)、特にオミクロン変異株の影響を最小限に抑えるための重要な戦略であり続けている」とバジェマ氏と研究チームは結論付けました。

テネシー州ナッシュビルのヴァンダービルト大学医療センターのウィリアム・シャフナー医学博士は、この研究は「退役軍人の集団にとってCOVIDが引き続き深刻な感染症であり、インフルエンザやRSウイルスによる感染症よりも深刻な病気や死亡を引き起こしていることを示している」と語りました。
「重要なのは、ワクチン接種によって重篤で命に関わる病気のリスクが軽減されることも示されたことだ」と同氏は付け加えた。「これは、COVID、インフルエンザ、RSウイルスなど、呼吸器系ウイルスのワクチン接種が病気を予防し、命を救うことができることをタイムリーに思い出させてくれるものだ」

この研究で、バジェマ氏らは、2022年8月から2023年3月まで、または2023年8月から2024年3月までの間にSARS-CoV-2、インフルエンザ、RSウイルスの即日検査を受け、感染と診断された入院していない退役軍人の国立退役軍人保健局の電子健康記録データを使用しました。年齢の中央値は66歳で、87%が男性でした。

更新されたCOVIDワクチン接種は、2022-2023シーズン中は2022年9月1日から検査日の7日前までに二価ワクチンを接種し、2023-2024シーズン中は2023年9月12日から検査日の7日前までに一価XBB.1.5ワクチンを接種したものと定義されました。
インフルエンザの場合、ワクチン接種は、8月1日からインデックス日の14日前までに同じシーズンのインフルエンザワクチンを接種したものと定義されました。
RSウイルスのワクチン接種はまれであったため、ワクチン接種サブグループ分析には含まれませんでした。

2022~2023年シーズンに呼吸器疾患を患った退役軍人6万8581人のうち、9.1%がRSウイルス感染症、24.7%がインフルエンザ、66.2%がCOVID-19でした。
2023~2024年シーズンでは、退役軍人7万2939人のうち、13.4%がRSウイルス感染症、26.4%がインフルエンザ、60.3%がCOVID-19だった。

研究者らは、陽性反応が出た初日から、30日間の入院、ICU入院、30日後、90日後、180日後の死亡を全原因で追跡しました。

まとめ

米国では 高齢者の呼吸器感染症の6割以上がいまだCOVID感染によるものであることは脅威と言えます。昨年に比較すれば重症度は落ちているようですが、ワクチンを接種していない場合は、やはりインフルエンザと比較しても、集中治療が必要となるなど重症化しやすく、また死亡する確率も高いようです。
ただそれはワクチン接種をしていない場合であり、接種していればインフルエンザと比較しても差がないという結果になったようです。副作用が判然としないなど、話題が尽きないワクチンではありますが、ワクチン接種は少なくともCOVIDの重症化を抑えることには有効であることは間違いない、という結論になりました。

非浸潤性乳管がん(DCIS)の術後の治療について

「5年間のタモキシフェンと5週間の放射線治療について患者とどのように話せばいいのかいつも悩んでいます」2024年サンアントニオ乳癌シンポジウム(以降SABCS)の共同ディレクターであり、UTヘルス・サンアントニオMDアンダーソンがんセンターの乳がんプログラムのリーダーである司会者のバージニア・カクラマニ医師はそう述べました。

つい最近も非浸潤性乳管がん(以降DCIS)の治療について、このブログでも触れました
その記事の中でも触れていますが、DCISは未だ皆さんが認識しているがんと呼べる状況にまで至っていない、前がん病変、未病です。ならばがんになるまで待っていても問題ないはず。つまり厳重経過観察していれば、DCISの段階でとどまっている限り、手術や、ましてホルモン剤、抗がん剤をしなくてもいいのではないか?と考えるのは当然です。

実際 今年のSABCSでは、 低リスクのDCISに対しては、厳重経過観察(これを積極的モニタリングと呼んでいます)でいい、いままでガイドラインで推奨されていた治療、つまり手術で切除する、必要なら放射線治療を加える、と比較しても、その後に本来の乳がん、つまり同側の浸潤がん(これこそがStage 1から4までに分類される乳がん)の発生率を高めることにはつながらなかったことが示されました。

それならばまして手術をきちんと受けて、DCISをしっかり切除された患者さんに、さらに放射線治療を加える必要があるのか(ガイドラインではYESとされていますが・・・)、まして術後に再発予防でホルモン剤を追加する必要があるのか、疑問に思って当然です。

乳がん治療においての世界的な権威であり、その最前線でガイドラインを”作成”している立場の先生ですら、ご自身の患者さんにどう説明していいか悩む、そう述べたのです。

今年のSABCSではDCISに関して、カクラマニ先生にそれを言わせた発表がありました。

低リスクのDCISでは、放射線療法を省略しても、タモキシフェンの補助療法によって少なくとも15年間の再発リスクを軽減できます

乳房温存手術後に放射線療法を省略した「低リスク」(DCIS)患者においては、術後タモキシフェンの投与は、 15年間の同側乳がん再発および浸潤性同側乳がん再発のリスク低下と関連していることが、第3相NRG Oncology/RTOG 9804試験と第2相ECOG-ACRIN E5194試験の複合解析で明らかになったことが、今年のSABCSで発表になっています。

ここで注釈しますが、DCISは浸潤性乳管がんです。通常の乳がんは浸潤性乳管がんです。
がんは浸潤します。浸潤する、それは多くの場合は乳腺から発生したがんがミクロの環境で血管や、リンパ管に”浸潤する”ことを意味します。ミクロの環境下では乳腺は乳腺であって、血管やリンパ管は乳腺ではありません。つまり浸潤がんは乳腺から発生した乳がん細胞が、乳腺以外の臓器に”浸潤”できることを意味します。そしてそれはつまりそのがん細胞は”転移できる”ことを意味します。
逆にDCISは浸潤できない、つまり転移できない。だとすれば切除さえしてしまえばまず治癒することになります。最近では浸潤できないのであれば、浸潤できないままでいる限り、手術せずに放置していてもいいのではないか、という考え方さえ出てきているのです。

英国キングス・カレッジ・ロンドンのコンサルタント臨床腫瘍医であるエリノア・ソーヤー博士はこの研究の協力者ですが、こう述べています。
「タモキシフェンによる同側浸潤性再発の減少は非常に重要です。なぜなら、DCIS後の浸潤性再発の発症は、純粋なDCIS再発よりも予後が悪いことを示す研究があるからです」

これについても以前触れました
たとえ最初の手術でDCISである、と診断されても、その後にその同側の乳腺に再発が発生し、それが浸潤がんであった際には予後が悪いことが研究結果で示されているのです。

今回の発表では以下のことが示されました。
15年時点で、タモキシフェンを投与された患者は、投与されなかった患者と比較して同側乳房の再発が統計学的に有意に減少し(11.4% vs 19.0%)、同側乳がんの再発リスクが48%減少したことを示しました(P = .001)。
またタモキシフェンは浸潤性同側乳がんの発生に有意な影響を及ぼしており、15年再発率は、タモキシフェンを投与されなかった患者では6.0% vs 11.5%でした(P = .005)。

しかし、補助タモキシフェンは、タモキシフェンを投与されなかった患者と比較して、DCIS同側乳がんの15年再発リスクを有意に減少させませんでした(それぞれ5.5% vs 8.1% 注釈:減少はしていますが、統計的に有意とは言えなかったということです)。タモキシフェンは対側乳がんの発生率も減少させませんでした。

これらの結果から、この選択された患者群(すなわち、試験で定義された良好なリスク群)の場合、ホルモン治療の全過程を順守することを前提として、手術後の放射線治療を控えることが許容される可能性があることを示唆しています。

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研究の詳細

NRG Oncology/RTOG 9804 試験および ECOG-ACRIN E5194 試験には、乳房温存手術後に「良好リスク」DCIS と判断された患者が含まれました。この研究での「良好リスク」とは、腫瘍サイズが最大 2.5 cm、グレード 1 または 2、手術マージンの最低 3 mm の低または中グレード DCIS と定義されました。NRG Oncology/RTOG 9804 試験では、317 人の患者が良好リスクの定義を満たし、放射線療法を受けませんでした。ECOG-ACRIN E5194 試験では、561 人の患者が定義を満たし、解析には合計 878 人の患者が含まれていました。

タモキシフェンの使用は任意でした。
NRG Oncology/RTOG 9804 試験では、患者の 66% がタモキシフェンを使用し、34% が使用しませんでした。ECOG/ACRIN E5194 試験では、それぞれ 30% と 70% でした。
2 つの研究間でタモキシフェンの使用にこのようなばらつきがあるのは、DCIS に対するタモキシフェンの使用が標準化されていないことを反映しています。

患者の大多数は、処方された 5 年間のタモキシフェン投与コースを遵守しました。両方の試験を通じて、患者の平均年齢は 59 歳で、患者の 80% が 50 歳以上でした。また、患者の 89% が白人でした。

DCIS 患者のほぼ 3 分の 2 (61%) は手術マージン幅が 3 ~ 9 mm で、19% はマージン幅が 10 mm 以上でした(注釈:温存手術をしたときに、がんがある範囲から安全域を何mmとって切除されていたか、という意味です。ですのでマージン幅は広ければ広いほど、局所再発はしにくいとされます)。
患者の 48% は DCIS サイズが 5 mm 以下、35% は DCIS サイズが 6 ~ 10 mm、17% は DCIS サイズが 10 mm を超えていました。

患者の大半はグレード 2 の DCIS (56%) でした(注釈:グレードは病理医が判断したがん細胞の”悪性度”です。高いほど悪性度が高いとされます)。当初は低または中グレードに分類されていた患者のサブセットは、ECOG-ACRIN E5194 研究で病理学的検査を実施した後、グレード 3 (13%) に格上げされました。

主な結果については先に述べました。

さらに手術マージン幅が10 mm以上かつDCISサイズが10 mm以上の患者ではタモキシフェンの効果がより大きいことが示されました。

この研究ではタモキシフェンによる対側乳房イベントの減少が見られませんでした。15年間の対側乳房イベント発生率は、タモキシフェン群では5.6%、タモキシフェン非投与群では8.8%で、その差は統計的に有意ではありませんでした。

まとめ
非浸潤性乳管がん(DCIS)の治療については、今混乱の真っただ中だと思います。ガイドラインが作れない、といってもいい。
だから逆に現状では念をいれて手術もするし、放射線治療もするし、ホルモン剤も飲む、そういう考え方もあります。
ただ一部の低リスクとされるDCISの中には手術すら不要なものもあることは間違いないようです。手術するなら放射線治療をしなくていいものもあることも間違いないようです。
では手術しないなら、放射線治療はする?しない? 手術するならホルモン剤はする?しない?専門医であっても、いや専門医であるからこそ、それを患者さんに説明することが大変難しい。
DCISとはいったいどういう病態なのか、解明が待たれます。

「5年間のタモキシフェンと5週間の放射線治療について患者とどのように話せばいいのかいつも悩んでいます」

2025.01.02

乳がんによる死亡率がいつまでたっても減少に転じないことについて

基本的に本能によるものではない人間の行動には意思が必要です。何か目的がなければ人間は動きません。そしてその目的は突き詰めれば自分やその家族の利益のためであり、純粋に他人のために無償で自己を犠牲にして何かをすることはないでしょう。

その例外は宗教でしょう。死後天国に行きたい、極楽浄土に往生したい、そういう意味ではそれも自分のためであるかもしれませんが、そういう因果応報を信じておられる方であれば、この現実世界にいる間はその人は一見他人のために自分を犠牲にして行動してくれます。

政治家は、国民のためになることを一生懸命考えて行動する、それを誓って選挙に出て、そして給料をもらっています。ただ基本は自分を政治家にしてくれる票のために行動しています。政治家の評価は、誓っている公約にせよ、実現した政策にせよ、その人の得票に反映されます。票に反映しないことはいくらそれが国民のため、市民のため、と言ってみても独りよがりとされます。票につながることが政治の行動原理です。

繰り返しになりますが、治療法は年々確実に進歩し、治癒率はあがっているのに、諸外国と比較して我が国、日本では乳がんによる死亡率が減少に転じていません。

WHOの提示しているこのデータは以前も引用しましたが、何度見ても納得できない。
日本は一番下、赤色の線です。
治療法が普及するのに何年かのラグがあるとしても、日本の線が一切の”折れ曲”を示すことなく一直線に上がっていることはどうしても納得できません。日本の乳癌学会の治療のガイドラインは米国のものとほとんど同じ、というよりもそれを日本語訳したもの、とも言えます。治療薬のラグはあっても2年程度です。治療そのものにはほとんど差がありません。コロナのワクチンで分かると思います。病気の治療薬は必要であるならばもはや年単位で入手が遅れるようなことはあり得ないのです。

日本も上昇していますが、フランスも上昇しています。ドイツのデータは1990年以前のものはありませんが、やはり同様です。これらの国も少なくとも先進国です。けれども減少に転じているとはいいがたい。

治療法、治療薬、これに関して、これら6つの国で差がないと仮定すると、そして乳がんという疾患に人種による差はないとすると、この違いを生み出しているのはただ国が違うということだけ、になります。だとすればそれは政治が原因となります。

昨日も述べましたが、全身治療の進歩はまだ乳がん細胞を根絶するところにまでは至っていません。だから手術という局所治療がいまだに生き残っているのです。がんが全身に拡散してしまえば原則現代でも確実に直せる方法はない。いまの全身治療の薬剤の進歩とは、1年のところを1年半生きられる、1年半のところを1年9カ月、と延命しているだけなのです。治癒させているのではない。
もちろんそれには大きな意味があります。たとえば100年延命できたなら、たとえ根絶できない、治せない、と言ってもそのがんでは死ななくなります。腎不全は治せませんが、透析をする限りは生きていられます。それと同じです。ただそこまでできないから、今でもたくさんの方が乳がんでなくなっているのです。

つまり米国、カナダ、英国では1990年ごろから急速に検診が普及し、早期で乳がんが発見されるようになった。そういう政策がとられた。それ以外の国では今でも早期で発見される努力がなされていない。だから死亡率は下がらない。そういうことなのです。
そしてそれは乳がんを早期発見しようとする努力、それはその国では票につながらないから、ということにもなります。

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乳がんを早期発見するための努力、それは検診の啓発活動に集約されるでしょう。

そしてその啓発活動ですが、日本では民間が草の根的に行っており、少なくとも政治が手掛けているイメージはありません。政治家が悪い、そういう言い方もできますが、少なくともそれが票につながらないから政治家も行動しないのです。つまりわが国では乳がんに対する危機意識が薄い。

日本、米国、英国の違い

日本:
主体:民間団体や企業が中心
活動内容:ピンクリボン運動や企業のCSR活動が主な啓発手段
自治体や学校での取り組みは比較的小規模
乳がん自己チェックについては主に民間の啓発活動として広がっている

米国:
主体:政府、自治体、民間企業、医療機関などが共同で啓発
活動内容:政府主導の啓発キャンペーンや保健センターでの啓発活動が強調
乳がん自己チェックや早期発見の指導は学校教育や地域コミュニティでも行われる

英国:
主体:政府、公共機関、自治体、民間団体などが共同で啓発
活動内容:国や地域単位での健康教育、啓発キャンペーンが多い
乳がん自己チェックや検診促進活動が公共サービスとして提供される

上記の違いについては過去にも触れました。
残念ながらこのブログもその一つです、民間、企業の取り組みにすぎません。

結局、多くの皆さんの意識が変わらない限り、乳がんの死亡率は上がり続けます。政治もみなさんの希望の反映にすぎません。政治家が、国が、行政が、乳がんの検診を啓蒙し続けていくことが自分のためになる、票につながる、と認識してくれない限り変わらないのです。
日本の乳がんによる死亡率がこのまま上場を続けて、米国、英国並みの高さまで到達した時、皆さんの意識が変わるかもしれません。だとしたら、もうあと少しなのかもしれません。
しかしそうなる前に変わることができればそれが理想のはずです。

まずは自分から規則正しい自己チェックをはじめましょう。そして周囲にもひろげましょう。まずは皆さんの家族から。それは皆さんの意識を変えることにつながると思います。そして最終的に政治を動かし、国をあげての啓蒙活動につながっていく。

まずは自分のこと、自分のため、そこから始めてみてください。

2025.01.01

明けましておめでとうございます 2025年

皆さんあけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

お正月にもかかわらず、このブログを訪問されておられる方は、現在年をまたいで治療を受けられている方、あるいは年明けに手術の予定が控えられている方だと思います。

私も基幹病院に勤務している時にはいつも年をまたいで手術の予定がびっしり入っていました。
年末に手術をして、年をまたいで翌年に退院の方はお正月を病院で過ごされていますので、他の先生方と交代で回診に訪れていました。その際に、こんなことになってと嘆かれていたり、家族みんな私が入院していると思っているので、逆に初めてと言っていいくらいのんびりした正月になりました、と言われたり、いろいろなことを口にされていたのを覚えています。

病院のベッドでたくさんの時間を持て余しておられて、このブログを読まれている方もおられるでしょう。手術の成功と、皆さんのご健康を祈念します。

さて

ここ数年、乳がん治療の大きな変化と言えば、免疫療法、そしてCDK4/6阻害剤の導入でしょう。
また抗HER2療法が、HER2の弱陽性の方にまで拡大されたことも大きいと思います。

また放射線治療は2Gyを25回から、寡分割照射と呼ばれる2.66Gyずつ16回、42.56Gy当てる方法に変わりつつあります。週5日を5週間続けるよりも、3週間と1日ですからずいぶん短縮になりました。去年までなら年をまたいで放射線治療をしていた方も今年はまたがないでもOKになっているかもしれません。

こうしたことをこの1年つらつらと書いてきて、読んでいただいた方もおられるでしょう。

ただ昨年暮れにも書きましたが、諸外国と異なり、ここ何十年も日本の乳がんによる死亡率は下がっていません。

乳がんに限りませんが、いったん全身転移を来してしまったがん細胞を薬で根絶する方法はまだ見つかっていません。ある程度の確率では根絶できることもありますが、基本あまり期待できない。だからこそ今でも手術が生き残っているのです。手術や、放射線治療は切ったところ、当てたところしか治せない。これを局所治療と言います。対してホルモン治療や抗がん剤治療は全身に向けて、見えているもの、見えていないものすべてのがん細胞を根絶する目的で行われるので全身治療と呼ばれます。

もし全身治療でがん細胞が”必ず”根絶できるなら、すでに局所治療はなくなっているはずなのです。

早期の乳がんの宣告を受けた患者さんに、手術は必要ですか?、と聞かれることがあります。
もちろんです。手術でしっかり治りますよ、と答えます。
聞かれた方が本当に聞きたかったのはそういうことではなく、手術しないでも治るか、という質問。
わかっています。

しかし手術で根治するように見つけるのが早期発見であり、手術はできませんと言われればそれは手術で根治できないということを意味します。全身治療で根治できるなら手術は不要です。早期でも、末期であっても、全身にがんが転移していても、全身治療は全身に”効く”のですから、もし全身治療で根治できる日が来れば、もちろん局所治療はなくなりますし、そもそも早期、末期というステージの概念もなくなります。つまりそのがんは克服されます。
典型的なのが血液のがんです。血液のがんは最初から全身にがん細胞が拡散しています。血が通わない組織はほぼないからです。ですので血液のがんにはほぼステージの概念がなく、局所治療が存在しません。常に全身治療しかないのです。その全身治療が効くか?効かないか?それが最も重要です。ただし正常な細胞まで全滅させる薬はだめです。がん細胞だけを、それも必ず、根絶できる、理想の全身治療です。

固形がんとも呼ばれるがん、乳がんもその一つですが、全身治療では原則根絶できない。あるいはその確率が低い。だから局所治療で直せる段階で発見することが求められており、それが早期発見と呼ばれるのです。固形がんでは早期発見こそが治癒につながる最も重要な要素になるのです。

免疫療法、CDK4/6療法(ベージニオ®や イブランス®など)は全身治療です。抗HER2療法(エンハーツ®など)ももちろん全身療法です。もちろんそれによって全身に転移したがん細胞が根絶できることもあります。けれども本当にそれが期待できるなら、本来乳腺の手術は必要ないはずです。

たとえば先に抗がん剤をして、もともとあった乳がんがほぼ消えてしまった。それを確認するために手術をする、それはありです。でもそれなら全摘は必要ないでしょう。リンパ節を調べる必要もなくなるはずです。見かけ上のがんが消えたように見えていても、根治できていない可能性があることをしているから、がんが残っていないかどうか調べているのでしょう。

全身治療では、乳がんはまだ治せない、治せるとは言えないのです。全身治療の進歩にばかり目を向けていても、いつまでたっても死亡率は減少に転じてくれません。昨年暮れにも書きましたとおり、諸外国では乳がんによる女性の死亡率はさがっているのに、日本では下がるどころか上昇が続いているのです。それは全身治療の進歩ばかりに目を向けている今の医療の在り方に問題があるとしか思えない。

いつかはそうなるかもしれません。全身治療で乳がんが根治できる。
けれども副作用の問題もあります。なによりコストの問題もある。

現在、歯科治療ではインプラントの技術が進歩し、一見見かけ上は自然の歯と区別がつかない、おまけにしっかり噛めてメンテナンスも自分の歯と変わらない、そんな治療ができるようになりました。歯を丸ごと入れ替えてしまうのですから、どんな虫歯でもある意味で治ります。
それでも虫歯にならずに一生自分の歯で噛んで食べられる方がいいと誰でも思うはずです。何よりすべての歯をインプラントにするなんて、いくらお金がかかるか大変です。ちいさな手術で腫瘍を切除して、抗がん剤は必要なく、ほぼ100%近く完治できる早期での発見の重要性を否定する先生はいないはずです。同じ治療にコストをかけるなら検診にかけたほうがよほど患者さんには幸せだと思います。

虫歯の予防には、日常にしっかりと意識して行う歯磨きが最も重要です。歯科医による定期的なチェックの重要性はその次になるでしょう。歯磨きなしでチェックしていても意味はない。

乳がんの検診も、乳腺は自分で触ることができる臓器です、日常にしっかりと意識して自己チェックすることが重要です。またそれが可能です。
マンモグラフィや、人間ドックも重要ですが、2年に1度、あるいは1年に1度でしょう。さらに忙しかったり、なにかと用事があれば間隔も空きがちです。私は検診を受診してくださった皆さんに、日常の自己チェックこそが一番重要であり、何年かに一度のマンモグラフィや超音波検査などの皆さんの意識している検診だけでは不十分ですよ、と説明しています。

今年こそ、それを皆さんにしっかり伝えていく年にしたいと考えています。

今年もよろしくお願い申し上げます。

非浸潤性乳管癌(DCIS)と診断されても手術を省略して アクティブモニタリングで大丈夫!?

DCIS(非浸潤性乳管がん)は以前から超早期がん、Stage 0とされ、ほぼ転移や再発はなく、手術で完治できるがんとして扱われてきました。

ただ本来 がんは、「転移、再発の可能性が否定できない」、「手術で完全に切除できたはずなのに何年かして再発してくる、転移が見つかる」、「微小転移の存在が0%とできない」、それこそががんであったはずです。取れば100%治るのは良性のイボや良性のポリープと変わりません。

がんの定義はがん細胞で構成された腫瘍であり、がん細胞とは命をとるもの、転移するもの、という定義ではなく、無限に増殖する細胞という定義になります。つまり命を取らなくても、転移しなくても無限に増殖し続ければがんなので、DCISはその範疇としてがんと程度されているのです。

その意味から、DCISは未だ皆さんが認識しているがんと呼べる状況にまで至っていない、前がん病変、未病とも考えられます。ならばがんになるまで待っていても問題ないはず。つまり厳重経過観察していれば、DCISの段階でとどまっている限り、手術や、ましてホルモン剤、抗がん剤をしなくてもいいのではないか?という考え方は出てきます。

今年の米国で開催されたサンアントニオ乳癌シンポジウムでは、 低リスクの乳管内癌(DCIS)に対しては、厳重経過観察(これを積極的モニタリングと呼んでいます)でいい、いままでガイドラインで推奨されていた治療、つまり手術で切除する、必要なら放射線治療を加える、と比較しても、その後に本来の乳がん、つまり同側の浸潤がん(これこそがStage 1から4までに分類される乳がん)の発生率を高めることにはつながらなかったことが、ランダム化COMET試験で示されました。

つまり、DCISを手術せずに経過観察していても、手術をして切除しても、その後に本来の乳がんが発生する(乳がんと診断される)確率に差がなかったことが分かったのです。ちなみに両方の群ともに乳がんによる死亡例は1例もなかったそうです。またホルモン剤に関しては、患者さんの選択によってたとえ手術をしていなくても飲用してもいいことになっていました。

当初 浸潤性乳管がん=DCISとされていても、手術をしないで、経過観察をしているうちに、しっかりした乳がん、命をとる可能性のある本来の乳がん、つまり浸潤がんがそこにできてくることはあります。また手術をして、切除し、放射線や、ホルモン剤投与を行っていても、その切除後にそこに浸潤がんが再発してくることがあります。

切除しているのに出てくることがあるの?それって本当にまれじゃない?とだれでも思われるでしょう。あるんです。めったにありませんが。

DCISの発見後、2年間での同側の乳房における浸潤がんの累積発生率は、積極的モニタリング群では4.2%、標準治療群では5.9%でした。この差は統計的に有意ではありませんでしたが、DCISに対する積極的モニタリングは、ガイドライン推奨治療と比較して、統計学的には”劣る”とは言えない、と証明されるものでした。ノースカロライナ州ダーラムのデューク大学医学部のシェリー・ファン医学博士、公衆衛生学修士は、このことを今年のサンアントニオ乳癌シンポジウムで報告しました

この試験のデザインは少し理解が難しいので、捕捉します。本来DCISは見つかったらすぐに手術をするのが原則です。切除すればその標本は病理で詳しく検査されます。そうすればDCISだとされた腫瘍の一部に浸潤癌が見つかることがあります。つまりStage 0ではなかったのです。もちろんStage 1、本来の転移を起こし、再発する可能性が否定できない、つまり生命に危険を及ぼすがんであった、ということになります。
今回の試験では、DCIS診断後、すぐに手術を受けた群で、その後の2年間で浸潤がんが見つかった症例は、4-5人を除いてすべて、手術時に実は浸潤がんだったとのことです。つまり標準治療群で2年間で浸潤がんだった5.9%は最初からDCISではなかった、ということになります。切除しているのに浸潤がんが出てきたわけではなく、それはやはりまれだったのです。

このことは大変重要な意味を持ちます。純粋なDCIS(手術してみたら浸潤がんだったということのないDCIS)は最初に診断されたDCISの95%程度であり、それは2年程度見ていても浸潤がんにはならない、ということです。もっと言えば本当に本来のDCISなら手術や治療は不要で、放置していても問題ない、ということになります。積極的モニタリングで2年以内に浸潤がんが見つかった症例はそもそもDCISでなかったということも同時に推察されます。

誤解を恐れずに言います。この結果からは DCISはがんではない、ということです。少なくとも真のDCISは2年程度ではみなさんのおそれる浸潤性乳がんにはならない、のです。

ただ現状ではDCISが本当にDCISなのか、実は一部に浸潤がんが混じっているのか、それを確実に診断できる方法はなく、5%程度は誤りが生じます。そこは注意が必要でしょう。

 積極的モニタリングでは平均2年間(5年以上観察されている方もいます)、DCIS診断後に厳重に経過観察されています。そしてあらかじめ決められた危険なサインが認められれば手術が行われます。同じように病理に回され、調べてみても浸潤がんがそこで見つかる可能性は4.2%で差がなかったのです。
逆に言えば、このファン先生らが決めた、あらかじめ決められた危険なサイの内容こそが大変重要で、そのサインが2年間経っても出てこないDCISはおそらく真のDCISであり、手術は不要だ、ということになります。ホルモン剤を飲んでおられる方もおられるので、それは必要なのかもしれませんが…

このことにより今後はDCISについて、そのすべてが何も考えることなしに手術、まして全摘、とは言えない、ことになりました。これは乳がん、特にDCISについて、検診の在り方、方法、からその診断基準、そして前述の標準治療のガイドラインに及ぶ、とんでもない変化をもたらします。

乳房温存切除の考え方が米国で発表された時、日本では乳がんの手術は全摘一択でした。その考え方が受け入れられ、普及し、一般化するまで2年のずれがあったとされます。
しかし今ではこうした発表はインターネットで一瞬で拡散されています。ガイドラインの変更はすぐに浸透します。なによりこの学会には日本からも多くの先生が参加されています。そしてDCISと診断され、手術を直前に控えた患者さんに与える影響を恐れず、これをネットで拡散する私のような人間もいます。
いま米国で騒がれているこの発表はすぐに日本でも大きな反響が出るでしょう。私がここで触れるかどうかは大勢から見れば大きな問題にはならないでしょう。

シェリー・ファン医学博士によれば、「DCISと診断された2年後、積極的モニタリングに無作為に割り当てられた低リスクDCISの女性は、ガイドラインに準拠した治療に無作為に割り当てられた女性と比較して、同側乳房の浸潤がんの発生率において劣ることはない、という結果が得られました」とファン氏は記者会見で述べました。

「非浸潤性乳管がんと診断されたその後に、浸潤性の乳がんが発生した症例では、その2群間で腫瘍の大きさ、リンパ節の状態、腫瘍のグレードに有意差はありませんでした。」

「まだ2年間の経過観察しか終わっていませんが、短期的な結果からは積極的モニタリングによる対応は有望だと感じており、さらなる追跡調査によって、低リスクDCISの女性に対するこの治療法の長期的な結果と実現可能性が判明すると思われます」と彼女は付け加えました。

この研究はJAMA誌にも同時に発表されました。

記者会見の司会者で、テキサス大学サンアントニオ校ヘルスセンターおよびメイズがんセンターのバージニア・カクラマニ医学博士は、この研究結果はあまりにも影響が大きすぎる、とし、ファン氏がこの研究結果を患者と今後はどのように話し合うつもりなのかと質問しました。当然です。これが発表されてしまえば、DCISで今まさに手術、まして乳房全摘が必要とされた患者さんは迷うに決まっているからです。

「ここで重要な点は、これらはまだ初期のわずかな期間の観察結果だということです」

ファン氏は言います。「ですから、この結果は刺激的ではありますが、まだ実践を変える、標準治療のガイドラインをかえるほどではないと思います。もし今回のこの結果によって患者との関わり方が変わるとするならば、積極的なモニタリングで対応したとしても、その後に浸潤がんを発症するリスクは低いと患者に伝えられるようになるということだと思います。」

「私の患者の多くがそうであるように、すでに手術を拒否する決断をしている患者のために、私たちは安全で、非常に早い段階で浸潤がんをはっきりと検出できる能動的モニタリングプロトコル(これこそ前述の、DCISが手術が必要と判断されるようになる危険なサインのことです)を考案したと思います」と彼女は指摘した。「これらの結果が永続的であるかどうかを確認するには、5年、7年、10年の計画された分析を待たなければなりません。そうすれば、これは診療を変えるものになると思います。」

発表ではむしろ手術を受けた患者さんの方が浸潤がんが多く発見されたことになっていることに対して、ファン氏は、手術群で浸潤がんの発生率が高かったのは、乳房病変がDCISではなくがんであることが手術中に発見されたためだと述べました。「手術を受けた患者で発見された浸潤がんのほとんどは、4~5人の患者を除いて、ステージ分類時に発見されました。」

「それでは、積極的モニタリンググループでも手術率はおそらく同様になると予想されますか?」とカクラマニ氏は尋ねた。

「その通りだと思います」とファン氏は言う。「結果は2年と短いものですが、私たちはこの患者集団の40%を5年以上追跡してきました。私たちが検出した腫瘍のサイズが小さかったことは、積極的モニタリング群の患者に害を及ぼさない程度に診断を遅らせたことを示しているのです。」

→ この緑いろの文章で分かられたと思いますが、ファン先生はDCISが手術が必要とされる危険なサインを定義して見つけた、と考えていることがわかります。そしてその危険なサインがない限りは、”(今の段階では)おそらく”手術をせずに経過観察していても大丈夫だ、ということが分かったと言われています。そしておそらくこの危険なサインは、DCISと診断されていても、実はほんらいの乳がんである浸潤がんであった、最初の診断が誤りであったサインなのです。
もしかすると今後は、DCISが発見されたとしても、この危険なサインがない限りは手術をせずに経過観察することもできる、という風に標準治療のガイドラインが書き換わるかもしれません。

質問がありました。この研究結果は、DCISの手術が遅れると患者に悪影響を与える可能性があることを示す最近の分析結果と矛盾しています。このことはこのブログでも過去に触れていますね。

これは(DCISの患者さんのなかでもさらに)リスクの低い患者群です」とファン氏は言います。「これは DCIS 患者全員に当てはまるアプローチではありません。また、DCIS には多くのサブグループがあり、その一部は浸潤性に進行していく傾向がないことは明らかです。私たちのチームは現在、浸潤性進行のリスクが最も低い患者を予測するのに役立つバイオマーカーの開発に取り組んでいます。これは、臨床特性と組み合わせて、患者が治療について決定を下すのに役立つ追加の補助手段になると思います。今回提示したこれらのまだこれから観察が必要とはいえ、しっかりとした結果は、少なくともDCISについて考えるという議論を開始し、患者と彼らを治療する臨床医の両方にとってDCISをまったく異なる方法で捉えるきっかけになると思います」と彼女は付け加えました。

研究結果

米国における DCIS の年間発症数は約 50,000 人です。手術が依然として主な治療法であり、多くの場合、放射線療法や内分泌療法と組み合わせて行われます。治療法は、低リスクおよび中リスクの浸潤性乳がんの場合と同じです。(高リスクな浸潤がんでは抗がん剤治療が加わるという違いがあります。)

「すべてのDCISが浸潤がんに進行するわけではないので、DCISの管理において手術を軽減できる可能性がある」とファン氏と共著者らは考えました。つまりある一定の危険なサインがないDCISは、真のDCISであり、手術せずに経過観察していても大丈夫な可能性があると考えたのです。

多施設COMET試験は ガイドラインに準拠した治療と、積極的モニタリングとを比較するように設計されており、後者では手術は浸潤がんへ進行が確認された場合にのみ行われます。主要な評価項目は、その後2 年間にDCISと診断された方の乳腺に浸潤がんがあると診断されたかどうかでした。

研究者らは、浸潤性疾患の証拠がない、新たに診断されたグレード 1/2(核の低異型度)、ホルモン受容体陽性、HER2 陰性の低リスクの DCIS を持つ 40 歳以上の女性を登録しました。

1.ガイドラインに準拠した治療に無作為に割り付けられた患者は、手術として乳房部分切除術または乳房切除術のいずれかを選択できました。乳房部分切除術を選択した患者には放射線療法が提供されました。両グループの患者は内分泌療法を選択できました。フォローアップのマンモグラフィーは 12 か月間隔で実施されました。

2.積極的モニタリング群では、患者は、DCISがある乳房については 6 か月ごとに、DCISのない健康な側の乳房については 12 か月ごとに診断用マンモグラフィー検査を受けました。新たな病変が発生したり、乳房組織の変化に関する画像診断が検出された場合には、針生検が推奨されました。生検で浸潤癌が判明した場合は、そこからガイドラインに準拠した手術が必要とされました。

主要解析には、年齢の中央値が 64 歳の 957 人の患者が含まれていました。DCISの 4 分の 1 は核グレード 1 で、残りはグレード 2 でした。

2年後の浸潤がん発生率は統計的に有意ではなかったが、「積極的モニタリングはガイドラインに準拠した治療より劣らない」という結論を裏付ける、と研究者は報告しました。

こういう臨床試験は言葉にすればするほど難しくなります。
だからといってわかりやすくすると誤解を生じやすくなります。
しかしこのままの文章ではあまりにわかりにくいので、私なりに言い切ることで分かりやすくします。その意味で非常に誤解を生みやすくなるかもしれません。もしDCISと診断された方がこれを読むときはそれを了承して読んでください。

この論文が意味すること

低リスク非浸潤性乳管がん(=DCIS)(核異型度グレード1-2、ホルモンレセプター陽性、HER2陰性)と診断された患者さんの5%程度は、実はその中に浸潤がんを含んでいる。そしてその5%も、半年おきに経過観察していれば、変化が認められて、いずれは診断される。
そして残りの95%の真のDCIS症例は、治療をしなくても問題なく生存し、命を取られるようなことはない。現段階では診断後の2年間についてはおそらく保証できる

だから低リスクのDCISと診断されても、経過観察でよく、すぐに治療は必要ではない。そしてその95%の方は2年後もそのまま治療せずに経過される。