乳腺と向き合う日々に

2026.02.10

乳腺の自己チェックで大切なこと ~乳がんは触ってわかるのか 隠された事実~

最初に述べますが、このブログは必ず最後まで読める方が読んでください。抜き出しや、最初だけ読む、は厳禁です。誤って受け取られる可能性が高いからです。そのつもりで読んでください。

私のブログでも、また私の外来でも、また著作でも、講演でも、私はずっと乳腺の自己チェックの大切さを説き、そして勧めてきました。

その際に多くの方からされる質問は、「本当に 乳がんは触ってわかるのか?」です。

誤解を恐れずに驚くような解答をします。「乳がんは自己チェックではわからない」が答えです。

もちろん本当は、乳がんはどんどん大きくなってくるので、進行がんにまで至れば必ずわかる、です。しかしこの質問は、「触っていたら早期で発見できるのか?」「乳がんで死なずにすむのか?」という質問が省略されています。自己チェックで乳がんは本当に早期発見できるか? 触っていれば、乳がん死は防げるか? これは実は否定されているのです。

この問題は非常に誤解を生みやすいのであえて触れないようにしてきました。ただとても大事なことなので、包み隠さず言わなければ真意が伝わらないことに気付きました。その真意とは、私は乳腺の自己チェックにおいて、

がんを探せとは言っていません。
先月と比べて変化を見落とすな、と言っています。

変化に気付く、そのためには同じ条件で比較する必要があります。また過去と比較しなければならないので、あまり間隔が空くと難しくなります。だから生理後に、定期的に必ずチェックする習慣をつけてください、と申しているのです。

これは私の外来に来られた方のほとんどは聞いておられると思います。

もはや頭がこんがらがってきたと思います。だから避けてきた話題なのです。
それでもなんとかその解説をしてみようと思います。

スペース

定期的な乳腺の自己チェックのエビデンス

定期的な乳腺の自己チェックを「教える/毎月やるよう指導する」よう介入することで、乳がん死は減少するか、について主要なエビデンスは、大規模なクラスターランダマイズ前向き試験が2本(中国・上海とロシア)で行われました。これらをまとめたCochraneレビューというものが公表されています。

Cochraneレビューでは、2つの大規模試験データから、乳がん死亡の減少は示されず、一方で害(良性病変の発見増・生検増)が増えるため、スクリーニングとしての自己チェックは推奨できないと結論づけています。また論考として Hackshawら(2003)が、生検が有意に増える(相対リスク 1.53, 95%CI 1.44–1.63)一方で、死亡減少は示されない、という要旨を示しています。

中国・上海(JNCI 2002 最終報告)では乳腺の自己チェック指導群 vs 対照群で、乳がん死亡は差がなかった(累積RR ≈ 1.04, 95%CI 0.82–1.33)一方で、良性乳房病変の診断が増える(=偽陽性→精査・生検が増える方向)という結果になりました。ロシア(St Petersburg/WHO関連の試験報告)でも、要約レベルではありますが、良性・悪性の検出や生検適応が介入群で増えることが示されています(=過剰精査方向)。

米国のUSPSTF(2009)(マンモグラフィ検診は2年おき、40歳から74歳まで、と決定した米国の公的機関)は「乳腺の自己チェックを教えることに反対(D推奨)」を明記しています。American Cancer Society(ACS)も、FAQで「BSEは(ルーチンとして)もはや推奨しない」旨を述べています。

ここまで読まれて皆さんもビックリされたと思います。

40歳を超えられた女性なら、昔乳がんの検診といえば、お医者さんのところに行って、”視触診”をされていたのを覚えておられる方もいると思います。現在ではそれは全くされていませんよね。
何度も言いますが、乳がんは大きくなってくるので、大きな乳がんは必ずわかります。医者が触っても、皆さんがご自身で触っても、です。しかしそれが早期でなければ、乳がん死の抑制は期待できません。つまり医者が触れば乳がんは見つかるのか 皆さんが触れば見つからないのか ではなくて、医者が触れば皆さんが触るより、早期、つまり乳がんを小さく見つけられる、だから乳がん死を抑制できる、その証拠がないと、わざわざ検診を受ける意味はないのです。

それは結局証明されませんでした。だから現在されていないのです。

そして同じく、皆さんに自己チェックを勧めても、早期がんで発見することはできなかった、むしろいらない検査ばかり増えた、だから推奨しない、となったのです。

ではなぜ私は自己チェックを勧めているのか?

それを知っていてなぜ私は乳腺の自己チェックを勧めるのか?

それは自己チェックの目標を変える必要がある、そして目標を変えれば有効である、と考えているからです。「がんを見つける」という指導から、「条件をそろえて変化に気付く」指導に切り替える必要がある、そうすれば早期がんで乳がんのしこりに気付けるのではないか、そして本当の乳がん以外のものを気にしてしまい、不要な検査を受けることも防げるではないか、と私は考えているのです。

だから「乳腺を自己チェックしていれば、がんはわかりますか?」という質問には、わかります、と答えてはいけないように考えています。それはその方は間違いなく、がんを探しているからです。私は、条件をそろえて比較することで、先月との違いに気付いてほしい、と言っているのです。

現在 30歳代の女性の乳がん死が増えてきています。そして30歳代の女性には検診を付与する公的なルールがありません。もし乳がんに罹患されても自分で気づくしか助かる道はないのです。
検診は行われていない、そして自分で触っても早期では見つからない、無駄な検査が増えるだけ、もしそうだとしたら30歳代で、もっといえば20歳代で、日本では60歳以上で乳がんになったら、もはや死ぬしかありません。運が悪かった、そうなります。

それは嘘です。検診で発見されていなくても、自分で早期で乳がんを見つけて医療機関を受診され、ちゃんと助かっている方も多いからです。

下の図を見てください。自分で見つけてこられた方の中でステージ I 早期がんの方の割合と、検診で見つかったがんの患者さんの中でのステージ I 早期がんの方の割合はそんなに違わないのです。ステージ 0はDCISといってしこりをそもそも作らないので、自分ではまず見つけられません。

自分で見つけても、検診でみつけても、ステージ Iの比率はそれほど変わらない。とすればその自分で早期で乳がんに気付いた人にどんな特徴があったのか、を見直す必要がある。早期で見つけられなかった人にどんな反省点があったのか、を見直す必要があると考えます。

グラフ1_20210419C

なぜ自分で発見された乳がんに早期発見と進行がんの違いが出てしまうのか?

まず 検証の必要すらないことに、定期的にチェックする習慣があったのか? は言うまでもないでしょう。それ以外のヒントを提示したいと思います。

私のクリニックで、ビー玉チェックをされていて、乳がんに気付かれてこられた4人の患者さんについてお話ししたいと思います。ちなみにビー玉を見つけたと言ってこられて、乳がんではなかった方は2名です。当院では毎年述べ2万人強が受診されていて、乳がんは200名以上見つけています。その中の4名はまださみしい数ですが、考えてみてください。その4名の方は定期的に当院で乳腺の検診を受けていて、その検診と検診の間で自分で乳がんを見つけているのです。

その4名の方には共通の特徴があります。

まず検診を受けて異常なし、とされて、およそ3-5か月で、ビー玉に気付かれている。
(これは検診をしているものにも脅威です。まず前回の検診の際にもちいさながんは発生していたはずです。見つけられなかった、ということですので。)

マンモグラフィではすべて確認できませんでした。乳腺超音波検査で、訴えられているしこりの位置に異常を認め、測定上 5㎜が3名 8㎜が1名でした。8㎜だった方は乳腺の乳頭より下側でした。5㎜の方は乳腺が比較的薄い上側でした。

また非常に印象深いのは、来られた際のお話から、実は外来に来られるその1か月前から固い変化に気付いておられたそうです。でも自信がなかったからもう1か月待ってみた。生理が終わったので触ってみたら間違いなく、「大きくなっていた」から受診した、と言われたことです。乳がんではなかった2名の方はビー玉を見つけてすぐに受診された方でした。

逆に、最近の話題で 梅宮アンナさんが毎年検診を受けていたのに、進行がんとして発見された、ということがあります。北斗晶さんも同様です。お二人とも、毎年検診されていました。
つまり検診を受けることで安心してしまえば、乳がんがかなり大きくなるまで気づきにくくなることもまたあり得ると思います。

「検診を受けていても、いなくても」「生理後に条件をそろえて」 「定期的にチェックを行い」「乳腺の変化を見落とさない」これをそろえることで初めて自己チェックの効果が出てくるのではないか、私が生きている間に、38万人のデータまでは無理であっても、自己チェックを肯定する証拠が出せればと思っています。

大変長くなりました。

この内容は非常に誤解を生みやすく、今まで避けてきた話題です。しかしお付き合いいただけた方はわかっていただけたと思います。私は乳腺の自己チェックで早期がんを発見できる、と考えているのです。ただそれには正しい教育が不可欠で、間違った教育をすればしないほうがましな事態に陥ることも確実なのです。だからあえてこの記事を書きました。

もう一度 ここで強調しておきます。

がんを探せとは言っていません。

私は、先月と比べて変化を見落とすな、と言っているのです。

皆さんが娘さんや、周囲の方に、自己チェックを勧める際、ぜひ、がんを探せ、という言葉を使わないでほしいのです。もしそう教えてしまえば、もしなにか異常があっても、痛くないから乳がんじゃないだろう、動くから乳がんじゃないだろう、と自分で判断して相談してくれない。変化があればその段階で気にしておく必要があるのです。自分でもはっきりがんだとわかったら遅い。「変化を見落とすな」「もし気づいたらすぐにお母さんに言いなさい」「相談しなさい」 これ一択です。

付記

実際のガイドラインとのズレ
国際的な医学ガイドライン(米国がん協会や英国NICEなど)は、近年では かつて推奨されていた自己触診(BSE:Breast Self-Examination)を「強く推奨しない」方向に変えています。代わりに「乳房に変化がないかに留意する(Breast Awareness)」という概念が重視されています。つまり、州法で教育が義務づけられている内容と最新の医学的推奨にはズレがあることがわかります。つまり米国でも法律上は自己チェックを勧める、となっているのですが、その内容はすでに、自己チェックから「乳房に変化がないかに留意する(ブレスト・アウェアネス)」に変化しているのです。

医師による触診による検診
これに関してはほぼ否定されたと思っています。医師の触診では過去と比較ができない、それが致命的に弱点です。微細な変化に気付けない。医師が前回の触診を覚えているはずがないからです。おそらく覚えていて比較ができるのは、こんなところに固いところが先月あったっけ、そう気づくことができるのはご本人だけでしょう。