2025.07.03
私は男性なのでわかりようがないといえばないのですが、女性で更年期障害で悩まれている方は意外と多いという印象です。こうした方々は、婦人科で相談します。そうすると女性ホルモンの補充療法を受けることになる。女性ホルモンはどちらにしても年齢によって減少していくのですが、それが急激だから更年期障害が強く出てしまう。だからそれを補うことによって、ホルモンの急激な減少をすこし緩やかにして、更年期になれる期間を作ろうという考え方です。ですのでホルモン補充療法もいずれは少量になります。一生補充するということは原則ありません。
ただこうした治療を受けておられる方が、乳がんが気になるのできてみました、というパターンが増えています。本来下がってしまうタイミングで補充すれば、いわば若返ることになる。若い人の乳がんは進行も早く予後不良のことが多い。私もそのリスクがあるのではないか。なによりそんな年齢とともに減るホルモンを足すなんてことをして大丈夫だろうか?
そう思われる方は多いでしょう。今回そのホルモン補充療法と乳がんについての話です。
女性ホルモンと呼ばれるものは一般的には”エストロゲン”です。これは卵巣ホルモンと呼ばれるものです。女性に特有の現象として生理がありますが、この生理はエストロゲンだけで起こされるものではない。黄体ホルモンと呼ばれるプロゲステロンも関与します。この二つのホルモンのダイナミックな変化が生理という現象に結び付いています。
女性の体は、約1か月のサイクルで「妊娠に備える準備」と「リセット」を繰り返しています。このサイクルを調整しているのが、主にエストロゲンとプロゲステロンという2つの女性ホルモンです。
そこで更年期障害に対するホルモン補充療法ですが、エストロゲンを足す、そしてエストロゲンとプロゲステロンの両方を足すという考え方が出てきます。もちろん閉経に伴う更年期障害ですから、閉経前に戻すという考え方からはこの両方を補充する方が自然に思えます。
エストロゲン単独補充療法(エストロゲンのみを使用するホルモン補充療法)のことを指します。
「unopposed(拮抗しない)」という語は、「プロゲスチン(黄体ホルモン)を併用しない」という意味になります。エストロゲン単独で補充すると、子宮内膜が増殖するのですが、生理が来ないため、増殖ばかりが継続します。このため増殖症や子宮体がんのリスクが上がるため、子宮がある女性には通常推奨されません。しかし、すでに子宮摘出(子宮全摘)をしている女性ではこのリスクがないため、エストロゲン単独療法(unopposed estrogen therapy)が選択されることがあるのです。
ですので、子宮が残っている女性には原則禁忌(子宮内膜が刺激され、子宮がんリスクが上昇するため)、乳がん既往歴がある場合や血栓症リスクが高い場合には慎重投与または禁忌とされます。
製品名 | 成分 | 投与形態 | 特徴 |
---|---|---|---|
エストラーナ®テープ | エストラジオール | 経皮パッチ | 生体同一型。肝臓を経由せず副作用が少ない。 |
クリマラ®テープ | エストラジオール | 経皮パッチ | エストラーナと同様。貼付面積がやや小さい。 |
プレマリン®錠 | 結合型ウマエストロゲン(CEE) | 経口錠 | 日本でも古くから使われる。 |
ジュリナ®錠 | エストラジオール(生体同一型) | 経口錠 | 体内の自然なエストロゲンと同一構造。用量調整可能。 |
対照的にEP-HT療法とは、子宮が残っている女性に用いられる治療で、プロゲスチンで子宮内膜を保護し、がんのリスクを減らします。
使用薬剤 | 成分 | 投与形態 | 特徴・備考 |
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エストラーナ®テープ + デュファストン® | エストラジオール + ジドロゲステロン | パッチ + 錠剤 | 代表的なHRTの組み合わせ。自然な月経周期に近い。 |
クリマラ®テープ + デュファストン® | エストラジオール + ジドロゲステロン | パッチ + 錠剤 | 同様の経皮製剤。肝初回通過を避け副作用が少ない。 |
エストラーナ® + プロベラ® | エストラジオール + メドロキシプロゲステロン酢酸エステル | パッチ + 錠剤 | 長期処方でも比較的安定したプロゲスチン作用。 |
プレマリン® + プロベラ® | 結合型エストロゲン + メドロキシプロゲステロン酢酸エステル | 錠剤 + 錠剤 | 子宮内膜保護のため必ず併用。 |
ここまで ホルモン補充療法を、E-HTとEP-HTの二つに分けて、子宮がんの観点から話をしてきました。もちろん婦人科でこれらのお薬を処方してもらっていて、定期的に子宮がんの検診をされておられる方であれば、子宮がある方でE-HTをされていても過度に心配なさる必要はないと考えます。
ただ今回はこのE-HT療法と、EP-HT療法と、乳がんとの関係について考察していきたいと考えています。
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