乳腺と向き合う日々に

2025.06.24

最新のASCO Educational BOOK =教育本から 乳がん術後の長期にわたるケアとその戦略 その7

治療管理およびフォローアップケアにおけるeヘルスの可能性

がんサバイバーのフォローアップケアについては、いくつかのモデルが提案されてきましたが、これらを実際に成功裏に運用するには、医療機関における人的・物的資源への依存が大きいのが現状です。
このようなアプローチでは、チームベースの多職種連携ケアの利点や、支援サービスの統合といった本来得られるべき効果が十分に活かされておらず、乳がんサバイバー(BCS)の多様なニーズへの対応において重大なギャップが残されているため、包括的かつ質の高いサバイバーシップケアの提供が妨げられています。

サバイバーシップケアにおける主な課題

サバイバーシップケアには、以下のような一般的な障壁があります。

  1. がんサバイバーの増加に対し、医療資源が不足していること
  2. 医療従事者の間でサバイバーケアに対する認識や訓練が十分でないこと
  3. 支援的ケア資源へのアクセスに地域差・格差があること
  4. 地域の支援サービスとの情報共有や連携が不十分であること
eヘルス技術の利点

eヘルス技術(電子的健康支援技術)は、サバイバーシップケアを「より積極的で、個別化され、予防的で、参加型のモデル」へと変革する可能性を持っています。患者が発信する情報や臨床データの収集・処理・共有・分析を効率化することで、eヘルスは以下のような利点をもたらします。

  1. 患者と医療者間のコミュニケーションの向上
  2. ケアの調整と症状マネジメントの改善
  3. 個別化された支援介入の提供
  4. 患者と医療者双方に対する教育とエンパワーメントの促進

実践例:Table 3では、eヘルス技術を活用した実践的なサバイバーケア強化の取り組み例を紹介しています。この表は、各技術の活用可能な領域・現時点でのエビデンス・導入状況をまとめたものであり、今後の導入や展開の方向性を理解する上での指針となります。

表3. サバイバーシップケアにおけるeヘルス技術の応用例

用途

技術の例

活用機会

エビデンスおよび実装状況

症状のモニタリングと管理

モバイルアプリ、ウェアラブルデバイス

患者報告アウトカム(PROs)の収集、症状の記録と傾向の追跡、異常値の早期発見

PROsによるケアの質向上が示されており、臨床試験での実装が進んでいます。

教育とセルフマネジメント支援

ウェブベースのプラットフォーム、ビデオ教材、インタラクティブツール

情報提供による意思決定支援、治療順守の促進、健康行動の改善

患者の知識向上と自己効力感の増加に関するエビデンスがあり、実装が進行中です。

遠隔医療とデジタルカウンセリング

ビデオ通話、チャットボット、オンライン心理支援サービス

地理的制約のある地域でも専門家にアクセス可能、心理社会的支援の提供

コロナ禍で急速に拡大し、BCSに対する満足度と成果の改善が報告されています。
行動変容の促進 テキストリマインダー、ゲーミフィケーションアプリ、ウェアラブル連携アプリ 運動・食事・禁煙などの健康行動を促進、リマインドによる治療遵守支援 一部RCTにて有効性が示されており、研究開発段階から実用段階への移行が進んでいます。
ケアの連携と調整 電子カルテ連携、共有プラットフォーム、患者ポータル 医療機関間・多職種間の情報共有、退院後の継続的フォローアップ 実装にはシステム統合とプライバシー対策が必要であり、制度面・技術面の課題もあります。

サバイバーシップケアにおけるデジタルヘルスは、急速に進化している分野であり、非常に大きな可能性を秘めています。しかし、今後の研究においては、実現可能性や臨床的有用性の実証にとどまるのではなく、より包括的な評価が求められます。具体的には、これらのツールを持続可能なケアモデルに統合するための戦略的な実装方法や、その効果の検証に焦点を当てる必要があります。また、多様な患者集団において公平なアクセスを確保することも重要な課題です。

まとめ

圧巻のまとめでさすがとしか言いようがないです。我々専門医が日常に気を付けてみていること、みなければならないことが、数値化されてすべて触れられています。また最後にはデジタルの活用についても触れています。
私のこのブログも言葉では伝えきれないものをカバーするために始めました。今では私の患者さん以外の方が多く読んでくださっているようで喜んでおります。これからもよろしくお願いします。