乳腺と向き合う日々に

2025.06.24

最新のASCO Educational BOOK =教育本から 乳がん術後の長期にわたるケアとその戦略 その4

生殖機能の障害(Fertility Impairment)

近年、初産年齢の上昇が世界的に進んでおり、乳がん患者のうち7%が40歳未満で診断されるという報告もあります。この割合は、低・中所得国においては20%にまで上昇することが知られています。このような背景から、乳がんサバイバー(BCS)における妊孕性(妊娠可能性)の温存と家族計画の重要性はますます高まっています。

妊孕性を温存するための選択肢には、以下のような方法があります。
胚凍結・卵子凍結・卵巣組織の保存・卵巣機能の一時的抑制
これらの方法は、がん治療開始前に、閉経前の患者さんに対して必ず説明・提案すべき内容です。

内分泌療法を受けている患者さんに対しても、妊娠に関するカウンセリングや家族計画の支援が必要です。POSITIVE試験では、18~30か月の補助的内分泌療法を完了した後に、最大2年間治療を中断して妊娠および授乳に挑戦した42歳未満の女性について調査が行われました。その結果、再発率はSOFT/TEXT試験のコホートと同等であることが示されました。(つまり継続して卵巣機能抑制を受けておられた患者さんと再発率はほとんど変わりなかったということです)

この結果は、長期的なフォローアップが必要ではあるものの、内分泌療法中に妊娠を希望する女性に対するカウンセリングにおいて非常に重要な知見となっています。

神経障害(Neuropathy)

タキサン系化学療法を受けた乳がんサバイバー(BCS)においては、末梢神経障害が永続的に残るケースがあり、その発生率は約11%〜80%と幅広く報告されています。この神経障害は、生活の質(QOL)に重大な悪影響を及ぼすことが知られています。

この状態に関しては、以下のような臨床的リスク因子が同定されています。
・高齢・肥満または過体重・糖尿病・喫煙歴・既往の神経障害・累積された化学療法の投与量・治療スケジュール
特に、パクリタキセル(paclitaxel)はドセタキセル(docetaxel)よりも神経障害を引き起こしやすいとされています。

現在利用可能な治療選択肢は限られており、有効性が実証されている唯一の薬剤はデュロキセチン(商品名 サインバルタ)(1日最大60mg)です。
一方で、鍼治療や理学療法に関しては有望なデータが報告されており、今後の期待が高まっています。ただし、公式なガイドラインにはまだこれらの新しい知見は反映されていません。
最近のランダム化比較試験では、神経筋トレーニングと振動療法が、オキサリプラチンやビンカアルカロイド系抗がん剤の治療を受けている患者の神経障害予防に有効であることが示されました。しかし、タキサン系治療を受けている患者に対する同様のデータは現時点では不足しています。

心理的問題:感情的苦痛と再発の恐怖

乳がんサバイバー(BCS)においては、心理的問題が非常に一般的であり、約30%の方が感情的苦痛を経験し、最大で50%が再発への恐怖を抱いていると報告されています。そのため、心理的問題に対する積極的なスクリーニング・評価・管理が極めて重要であり、専門の多職種チームによって実施されるべきです。

感情的苦痛に対して効果が実証されている介入は、段階的アプローチに基づいています。

1 軽度の症状を持つ方には、身体活動やマインドボディ・インターベンション(瞑想、ヨガなど)を第一選択とする。

2 中等度から重度の症状を持つ方には、心理カウンセリングや認知行動療法(CBT)を、必要に応じて薬物療法と併用して実施する。

といった対応が推奨されます。

治療後の感情的苦痛の評価と対応に関しては、医療者向けのガイドラインも整備されています。また、対面式の認知行動療法だけでなく、デジタルヘルスを用いた介入においても有効性が確認されており、リソースの有無や患者さんの希望に応じて、どちらの方法も検討することができます。(これは精神科のDrの協力が必要ですね)