乳腺と向き合う日々に

2025.06.24

最新のASCO Educational BOOK =教育本から 乳がん術後の長期にわたるケアとその戦略 概論

毎年 ASCO(米国臨床腫瘍学会)の最大の学会がシカゴで開催されます。その最新の知見を基に更新されたわれわれの教科書がこの時期発刊されます。

いろいろなテーマがあるのですが、今回は乳がんに罹患されて、治療をいったんすべて完了され、その後のフォローアップ、観察期間にはいられた方を、長期間にわたり、何を注意し、何を観察しながら見ていくべきなのか、まとめた本が出ました。非常に参考になるので触れていきたいと思います。(内容が多いのでおそらく何回かに分かれます。)

スペース
要約

早期発見のための努力、およびホルモン治療、抗がん剤治療、放射線治療などの集学的治療戦略の進展により、早期乳がんの10年生存率は80%を超えるまでに改善しています。しかしながら、乳がんサバイバー(乳がんの治療をうけ、回復され、”生き残られた”方=BCS)は、がんおよびその治療の直接的な結果として、たとえば全摘後に受けるボディイメージの損失、痛みなど身体的、あるいは更年期障害伴う抑うつなどの心理的、そして治療に伴ってかかる費用や、就労の問題などの社会的な課題を継続的に経験することがほとんどです。こうした負担に対処するには、積極的で効率的な医師以外の看護師やケースワーカーなどさまざまなチームベースのアプローチによるサバイバーシップケアが必要です。

BCS の複雑なニーズに対する認識は高まっているものの、症状負担・支援ニーズ・実際のケア提供との間には依然としてギャップが存在します。将来的にはこのギャップは、サバイバーシップケアモデルの革新と最適化によって解決されていかなければなりません。

本稿では、BCS が術後の観察期間中に経験する、全身療法および局所療法に起因する最も一般的な症状や懸念事項を概説し、それらに対するエビデンスに基づいた管理戦略を提示します。
さらに、サバイバーシップケアの質、効率、アクセス性、患者中心性を高める有望な手段として、テクノロジーの役割も検討します。

効率的で積極的な症状管理とデジタルヘルスツールや革新的なケアアプローチを統合することで、医療システムはBCSをより適切に支援し、その長期的な健康転帰および生活の質の向上に寄与することが期待されます。

最初に

現在、世界中で約5,350万人ががんと診断された後に生存されており、年間で約2,000万件の新たながん診断がなされています。乳がんに関しては、全世界で800万例が生存中であり、年間200万件を超える新規診断があるります。今後、これらの数字はさらに増加する見込みです。(つまり乳がんサバイバーは全世界で800万人おられるわけです。)

こうしたがん患者は、さまざまな未充足のニーズ(求めて得られないもの)を抱えています。データによれば、治療後1年以内には、多くのがんサバイバーが平均して5つの未充足ニーズを報告しており、中には最大36のニーズを訴える人もおられます。診断から5年後でも、患者さんの約3分の1が、1つ以上の未充足ニーズを抱えており、こうしたニーズは時間が経過しても継続することが示唆されています。

報告されている代表的な未充足ニーズには、情報的ニーズ(93%)、副作用に関連する身体的ニーズ(89%)、心理社会的ニーズ(89%)、および精神的ニーズ(51%)が含まれます。

乳がんサバイバーに特有のニーズは、身体的・心理的・社会的・家族的・経済的負担など、多岐にわたる課題や症状と結びついていることが多い(下記Table 1参照)とされます。これらの多くはがんおよびその治療に直接原因があるのですが、医師に過小評価されがちであり、より高い認識と積極的な症状管理の必要性があります。

【Table 1】乳がん診断後に報告された重度の機能障害(%)
診断から2年経過しても、多くの患者が依然として情緒的・身体的・社会的なQOL低下を経験しており、とくに疼痛・疲労・脱毛関連の苦痛が増加傾向にある。

健康関連QOLの側面

診断時 (%)

2年後 (%)

情動機能

36.3

28.3

認知機能

29.9

38.4

社会機能

16.0

24.9

疲労 23.1 33.6
疼痛 26.5 51.0
呼吸困難 27.2 45.2
不眠 36.1 37.4
経済的困難 13.4 14.6
性的満足度の低下 29.5 38.4
体型イメージ 15.2 32.7
乳房の症状 13.6 23.0
腕の症状 19.7 37.4
脱毛による苦痛 59.2 72.2

現代のがん医療の主要な目標は、治療に伴う副作用を適切にコントロールし、がん発症前と同等の生活の質を取り戻すことにあります(図1)。
本稿では、局所療法および全身療法の双方に関連してよくみられる長期的な副作用のいくつかを取り上げ、それらを軽減するための方策を論じていきます。さらに、身体的・心理社会的課題への対処、健康行動の促進、二次悪性腫瘍の予防、併存症の管理など、乳がんサバイバー(BCS)の変化するニーズにより的確に応えるため、サバイバーシップケアを変革し得る新たなテクノロジーの活用についても検討します。

プレゼンテーション1

今回は 概論でした。次回に具体的な”後遺症”とその対策などの項目に触れていきます。