乳腺と向き合う日々に

2024.09.02

検診を受けていれば大丈夫・・・なのか? さらに中間期がんについて

私はきちんと2年おきにマンモグラフィ検診を受けている、だから絶対大丈夫・・・

本当にそうでしょうか? 

最近も芸能人の方が毎年ドックをしていたのに、乳がんが発見されたら進行がんだったと公表されています。しかしこの内容はどこかで何度か聞いた話です。もはや驚かない方も多いのではないでしょうか。

雨の乳がん学会・・・その2で”中間期がん”について述べました。(英文ではInterval cancerと言います。日本語訳は私なので、正式には違う日本語かもしれません(汗))

中間期がんとは、検診を定期的に受けておられる方が、それでも検診ではなく、ご自分で腫瘤に気づいてしまうなど、検診以外で乳がんを発見してしまう場合、これを中間期乳がんと言います。
そうした場合には、その前の検診でがんを見落としたのではないか、とも考えられますが、短期間で急激に大きくなるがんの存在もあり得ます。それであったと反証する方法がないため、誰が見ても前回のマンモグラフィで異常を発見できなければ、真の中間期がんとして扱われています。
そしてその中間期がんが、残念ながら早期がんではなく、進行して見つかった場合、「私は2年おきにマンモグラフィ検診を受けているので大丈夫」・・・ではなかった!となるわけです。

大事なことなので繰り返しになりますが、米国予防サービス特別委員会 (USPSTF) による乳がんスクリーニングガイドラインでは、すべての女性が40歳から隔年で、つまり2年おきに乳がんの検査を受けることを推奨しています。

これは米国予防サービス特別委員会 (USPSTF) による乳がんスクリーニングガイドラインはMonticcioloをはじめとする研究者らによる、がん介入・監視モデリングネットワーク(CISNET)の2023年乳がんスクリーニング結果に基づいて定められました。研究者らは乳がん検診の利点とリスクを以下の4つの異なるシナリオで比較しました。

1、50~74歳の女性を対象とした2年に1回の検診
2、40歳から74歳の女性を対象とした2年に1回の検診
3、40歳から74歳の女性を対象とした年1回の検診
4、40歳から79歳の女性を対象とした年1回の検診

結論として、Monticcioloは、40歳から79歳の女性を対象にデジタルマンモグラフィまたはトモシンセシスによる年1回のスクリーニング(つまりシナリオ4)により、検診をうけない群と比較して、死亡率が41.7%減少することを発見しました。一方、シナリオ1では25.4%減少し、シナリオ2では30.0%減少しました。それはとても素晴らしいことではあります。しかし、検診の頻度を2年に1回から1年に1回にしても乳がんで死亡する確率を10%下げるだけだったのです。
Monticciolo DL, Hendrick RE, Helvie MA: Outcomes of Breast Cancer Screening Strategies Based on Cancer Intervention and Surveillance Modeling Network Estimates. Radiology 2024, 310(2).

対策型乳がん検診(市町村が行う検診)は乳がんによる死亡を抑制する目的で行われます。乳がんにならないためではありません。(ならない方法は見つかっていませんし)

私のクリニックがある医療圏では毎年140名の方が亡くなっていると言いました。2年に1回の検診を1年に1回の検診に倍に増やしても、140名が120名になるだけなのです。それが小さいとは言いません。ただ医療コストは毎年にすることで単純に倍になるので、それに見合わないとは言えると思います。

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Orsiniらの最新の研究では、中間期がんは全発見乳がん症例の28.9%にのぼり、その腫瘍の平均サイズは18mmでした。ちなみに20mmをこえると進行がんです。だから平均しても早期発見できています。
Orsini L, Czene K, Humphreys K: Random effects models of tumour growth for investigating interval breast cancer. Statistics in Medicine 2024.

しかし私が経験した患者さんで、過去3年以内に検診歴のない自己発見乳がん症例1541例における腫瘍サイズは触診では24.0mm、病理切片上では23.4mmでした。進行がんです。

同じ中間がんでも、検診を定期的に受けられている方では不規則に受けておられる方よりもサイズを小さく見つける傾向があります。乳がんは検診で見つけることだけが重要なのではなく、検診を定期で受けておられる方は乳がんへの関心が高く、そういう方は日常注意しているから早期で発見できている可能性があります。

しかし検診を受けているから私は大丈夫、安心だ、と決めつけてしまえばその効果は失われ、むしろ逆効果になります。中間期がんに無関心になるからです。検診と検診の間も乳がんの発生に注意を払い、日常気を付けるからいいのであって、むしろ検診をうけているからと、普段気にもしなくなってしまえばそれは油断そのものであって、安心とは違いますよね。

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そしてこの話題、本当にしつこいですが、最新の論文で、乳がん検診受診の間隔と、末期進行乳がんでの発見、そして乳がん死の関連について、発表がありました。
Zuley ML, Bandos AI, Duffy SW, Logue D, Bhargava R, McAuliffe PF, Brufsky AM, Nishikawa RM: Breast Cancer Screening Interval: Effect on Rate of Late-Stage Disease at Diagnosis and Overall Survival. Journal of Clinical Oncology 2024.

USPSTFは 最終的に2年おきの検診がベストとしましたが、乳がんを研究している学者、臨床医はやはり毎年だ、と反論しているのです。それが論文としてたくさん出てきているのでしょう。

Zuleyらが報告した観察分析によると、マンモグラフィ検査を年に1回していると、40歳以上の患者の臨床的および人口統計学的サブグループ全体で末期進行乳がん(Stage IIB以上で見つかることをこう呼んでいます。リンパ節にすでに転移をきたし、他の臓器に転移をきたしている可能性の高いがんです。)のリスクが低下し、乳がん死を減らして生存率の延長をもたらします。

たしかに「USPSTFが提案しているスクリーニングガイドラインは、がんを発見できる利点と、偽陽性に関連する潜在的な害およびコストとのバランスをとる必要があり、そして隔年での推奨になりました」と、インディアナポリスのインディアナ大学メルビン・アンド・ブレン・サイモン総合がんセンター女性クリニックの上級副編集長、キャシー・D・ミラー医学博士(FASCO)は声明で述べました。

しかし「Zuleyらのこの研究は、USPSTFが用いたモデリング研究の結果を補完して、ほとんどの女性に対する隔年ではなく、年1回のスクリーニングをすることを支持するものです。」

研究者らは、2004年から2019年の間に診断前マンモグラフィ検査を受けた40歳以上の乳がん患者8,145人を特定しました。この集団のうち、早期段階(ステージ 1~2A)および後期段階(ステージ2B~4)は、それぞれ2,065人(25%)および1,121人(14%)でした。

そしてZulkeyらは、Monticcioloらと同様に、検診を受けておられた間隔を 4 つのカテゴリに分類しました。 

1 ベースライン(症例数 が 2,307で全体の28%):診断前のスクリーニングエピソード1回(いままで1回だけだが検診を受けたことがある方)
2 年次(3,369例 41%):直近2回の検査の間隔は最大15か月(毎年検診群)
3 2年ごと(1,340例 16%):直近2回の検査の間隔が15か月以上27か月以内(2年おき検診群)
4 断続的(1,129例 14%):直近2回の検査の間隔が27か月以上。(ときどき検診される群)

末期進行乳がんの診断率は、毎年検診群、2年おき検診群、ときどき検診群で、それぞれ9%、14%、19%でした(有意差あり P <.001)。検査間隔が長くなるにつれて末期進行がんの比率は増加します。そしてこの増加傾向は、年齢、人種、閉経状況に関係ありませんでした。

2年おき検診群や(これはわかる人のみ参考にしてください。単変量ハザード比[HR] = 1.42、95%信頼区間[CI] = 1.11〜1.82、多変量HR[年齢、人種、閉経状況、乳がんの第一度近親者で調整済み] = 1.48)

ときどき検診群ではこれはわかる人のみ参考にしてください。単変量HR = 2.69、95% CI = 2.11〜3.43、多変量HR = 2.04)

毎年検診群と比較して、全生存率が有意に低い(P < .001)ことがわかりました。

しかし私はこの論文をもう少し読み込んでみました。早期乳がん つまりステージ 1で見つかる割合はどうだったのでしょうか。

毎年受けられている方では全体の52%がステージ 1でした。半分は早期で見つけられていません。
2年おきだと 47%です。ときどき検診される方では46%でした。

これおどろきませんか?思い付きでときどき検診していても、2年おきにであってもきちんと検診していても、ステージ 1で早期発見できる確率は変わらないのです。

ではステージ 4の末期の方はどうなのか?
毎年受けられている方では全体の1%がステージ 4でした。二年おきだと1%です。ときどき検診される方では2%でした。

毎年検診していて、乳がんが発見されたら100人に一人はすでに末期なのです。そしてそれはときどき検診しているかた、2年おきに検診している方でもほとんど変わらない。これではUSPSTFが言うとおり、2年に1回の検診で十分、さらに推奨レベルもBどまり、でも仕方ないように見えませんか?

ここまで述べてきて、私自身は、検診が毎年なのか、2年おきなのか、その間隔よりも、乳がん検診を定期的に受けることによって、自分自身でも乳がんに関心を持ち、気を付けるようになることによる死亡抑制効果の方が大きいのではないか、と考えています。毎年にしてもそれほど早期発見率は上がらず、そして末期での発見率も大きくは下がらないからです。

歯医者さんに診てもらう機会が、年に1回なのか、2年に1回なのかよりも、所詮は年に何回か、のこと。そんなことよりもそのことで気持ちを改めて歯磨きをきちんとすることの方が虫歯予防には有効なのではないか、と考えます。

ここで誤解しないでいただきたいのは、検診を受けても無駄だと申しているのではありません。
検診をうけているから大丈夫と決めつけてしまい、日常に自己チェックをしないなど、まったく気にしなくなってしまうようであるなら、検診をうけていることはむしろ逆効果になり、検診が持つ大事な良い効果がなくなってしまうのではないでしょうか。

だからその意味において、乳がん検診をきちんとうけていても大丈夫ではない、とあえて提案させていただきたいのです。自己チェックと検診は車の両輪であり、歯磨きと歯医者による定期健診同様の関係と同じである、いやむしろ普段の自己チェックこそより重要である、と考えていただきたい、そう思っています。