2023.07.18
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「病理学者は、小葉がんの病理的表現型の特徴が、CDH1 遺伝子によってコードされる E-カドヘリンの機能の喪失であることを長い間知っていました。小葉がんにおいて、がん細胞の結合力を消失したかのような異常な増殖パターンの原因となるのは、このタンパク質の喪失です。」
ほとんどの小葉がんはルミナール表現型、主にルミナール A、つまりエストロゲン受容体陽性、HER2 陰性であり、増殖率(Ki67であらわされるがん細胞中に見られる分裂中の細胞割合)が非常に低いです。
Cancer Genome Atlas データセットにおけるルミナール Aの浸潤性小葉がんと、ルミナール Aの浸潤性乳管がんの比較では、小葉がんにおけるCDH1変異の「驚くべき」高さが示されました。実際には小葉癌で68%、乳管がんでは 2%に過ぎませんでした。
FOXA1異常は小葉がんでも多く見られ、小葉がんにおける FOXA1 活性はエストロゲン受容体シグナル伝達に重要な影響を及ぼし、治療に影響を与える可能性があると最近報告されました。(FOXA1遺伝子の主な機能は、エストロゲン受容体の制御です。エストロゲン受容体は、女性ホルモンであるエストロゲンに対して感受性を持ち、細胞内でエストロゲンのシグナルを受け取ることで特定の遺伝子の発現を調節します。)
筆者注: 難しく書かれていますが、以前から乳管がんと小葉がんの現れ方の違いは、CDH1遺伝子の変異によって引き起こされるE・カドヘリンという細胞間接着因子の異常に起因すると考えられるのです。
レゴのブロックを細胞にたとえると、ブロックにはブロック同士を引っ付けるために表面に出っ張りが並んでいますが、あれがなくなっていたり、おかしくなっている状況です。当然ブロックで何も作れません。
小葉がんではそれが原因で組織への浸潤性が高く、塊を作りにくい、と考えられてきました。
ですので、切除においてはできるだけ温存せず全摘されてきました。
術前の画像診断における考慮事項
「病気の進行度、あるいはひろがりを判断することについての懸念をよく聞きます。乳房温存手術における適切なマージンは? 術前療法の役割は何ですか?」
結節の管理については、乳管がんの管理と変わらないため、彼女は議論しませんでした。しかし、小葉がんの患者はリンパ節に微小転移を伴っている可能性が高いようであり、超音波ガイド下の針吸引はこれらの病変では感度が低下する可能性があります。(小葉がんは先に述べたように細胞単位で浸潤し、転移すると考えられているため、温存するにあたっては断端距離を大きくとる、あるいはあきらめて全摘する、などの対応がとられがちです。でも実際にさまざまな検討が行われましたが、実臨床においては乳管がんと小葉がんで取り扱いを変える必要はない、という結果しか出ていないのです。)
小葉がんに限らず、がんの乳腺内での広がり、つまり腫瘍サイズを決定するための最良の画像診断法は磁気共鳴画像法 (MRI) です。他のアプローチよりもはるかに高い精度を反映しています。
「しかし、私たちの画像診断法がすべて完璧であるわけではないことはわかっています」とキング先生も認めています。メイヨークリニックでMRIを受けた59人の患者を対象に、サイズと最終的な病理学的腫瘍サイズの一致率、過小評価、過大評価の割合を検討してみた結果、注目すべきことに、今まで通りの臨床における乳房検査による乳がんサイズの推定値は、MRI で得られた推定値と同じでした。(つまりMRIをしてもしなくてもあまり差は出ないということになります。)
「画像診断法についてはまだ課題が残っていますが、一般的に、浸潤性乳がんの結果を評価するために術前 MRI を使用すると、乳房切除術の利用が増加することがわかっています」と彼女は述べた。(筆者注:つまり最初から臨床上3.5㎝と判断された乳がんがあったとして、MRIを使用して検査をすればやはり3.5㎝と診断されるのだけれども、なぜか全摘が選択される確率が高くなる、ということになります。外科医がMRI以外の臨床検査で大きさを判断しても、実際はもっと小さいから温存してみるか、病理結果を待ってみるか、と決断し、MRIで大きさを示されるとこれは確実だから全摘しかないな、と決断しているということになるでしょうか。)
約86,000人の患者を対象とした、浸潤性乳がん(小葉がんおよび乳管がん)における術前MRI使用に関するメタアナリシスでは、手術結果のオッズ比が計算されています。
MRI の使用によって乳房切除術を選択する確率は有意に増加していましたが、断端陽性率(最終病理でとり切れていないと診断される確率)や再手術の必要性は減少しませんでした。
MRI の使用は、対側の予防的乳房切除術をほぼ 2 倍に増やします。
「したがって、小葉がん患者においては、MRIを使用すべきとして施行が増加する傾向があることはよく知られているが、実際には手術成績の改善は実証されていない」とキング先生は指摘しました。
(つまり小葉がんは、その病理学的な特徴から、”塊を作らない”ことが予想されていました。ですので、臨床上は2㎝と考えられても、顕微鏡で見てみると3㎝、4㎝とがん細胞が広がっていることが多いのではないか、と外科医は考えたのです。ですのでより正確に浸潤範囲が検討できるMRIを施行し、できるだけ全摘を選択し、と努力してきたわけです。しかしそうしたほうがいい、という具体的な結果はいままで何一つ得られていない、とキング先生は指摘しているわけです。)
治療後の再発リスク
2004年から2015年までに発表された一連の研究では、局所再発率が非常に低く「許容できる」率であり、乳管がん患者の再発率と何ら変わらないことが判明しました。2011年のGalimbertiらによる最大規模の研究では、局所再発率は追跡期間中央値8.4年で5.7%、乳腺内手術と同じ範囲内では3.9%、それ以外の部位で1.8%であったことが示されました。同氏は、「より広範囲に明瞭な断端」(断端幅が10mmを超えると定義される)を有する患者では、局所領域再発に差はなかったと付け加えました。
(乳腺外科医は、浸潤性”小葉”がんに対して温存切除術を選択すれば、残された乳腺から再発しやすいのではないか、と考えていました。しかし実際にはそんなことがなく、8年追いかけて6%程度、そしてもしかすると再発ではなく、新しいがんかもしれないものも2%で含まれている、と考えられる、と述べられています。)
(浸潤性小葉がんに対して温存切除をする際に、普段 乳管がんに対して取っているよりも、断端距離を多めにとった方がいい、画像で考えられている範囲よりも大きめに切除したほうがいい、と考える外科医も多く存在していました。)
小葉がんにおける辺縁幅の問題は、キング博士の施設であるブリガム・アンド・ウィメンズ病院/ダナ・ファーバーで1997年から2007年に治療を受けた一連の736人の患者で評価されました。小葉がん患者の半数が乳房温存手術を受け、全員が少なくとも 5 年間追跡調査されました。中央値72か月(6年)の追跡調査では、乳房温存術と乳房切除術の間で局所領域再発率に差はなく、それぞれ5%未満でした。また、局所領域再発は腫瘍サイズ、悪性度、最終断端の状態と関連していましたが、最終断端の幅とは関連していませんでした。(つまり大きめに切除したほうが、取り残しが減る、ということはなかった、結論付けています。小葉がんだからと言って大きめに切除する必要はない、と言われているのです。)
術前補助療法の考慮事項
(浸潤性小葉がんも乳管がんも発見が遅れて進行して見つかることはあります。そうした際に、なんとか小さくできないか、あるいは抗がん剤に反応するかどうか確認しておきたい、そう言った理由で手術に先行して抗がん剤を施行することがあります。しかし小葉がんはホルモン感受性があることが多く、またホルモン感受性のがんは抗がん剤に対しては反応が鈍い傾向があります。小葉がんではどうでしょうか?)
小葉がん患者に術前化学治療を施行しても、病理学的完全寛解率は非常に低く、公表されているシリーズでは 1% ~ 6% であり、エストロゲン受容体陽性の乳管がん患者で見られる 9% ~ 20% よりもさらに低いです。(小葉がんは抗がん剤に反応しにくい傾向があると考えられています。)
Loiblらは、術前化学療法に対する反応を評価する最大規模の研究として、エストロゲン受容体陽性乳がん患者を対象としたドイツの9件の試験の結果をまとめたものを発表しています。全体として、小葉がん患者 1,051 人の病理学的完全寛解率は 6% であったのに対し、乳管がん患者では 17% でした。
注目すべきことに、病理学的完全寛解(術前化学治療によって、手術を施行してもがんが乳腺内から完全に消えていると診断された)が得られていても、小葉がん患者さんではそれが遠隔無病生存率(PFS)や全生存率(OS)とは関連していませんでした。
対して非小葉がん患者さんでは、病理学的緩解が得られた方ではその後の経過もやはり良好であった、という結果が得られました。
(つまり小葉がんでは、術前抗がん剤によって乳房内のがんがたとえ消えたという結果になっていても、消えなかったという結果の患者さんと比較してその後の予後に差がありませんでした。こうした小葉がんの特殊性を理解するために遺伝子の観点から研究が始まっていますが、これからの結果を待たないといけない、とキング博士はまとめています。)
細胞間の結合タンパクに異常があって、細胞がばらばらになりやすい特徴のある小葉がんの予後はやはり悪いのが事実でしょう。小葉がんの多くはホルモン感受性がありますが、あったからといって予後が良くなるのでもないようです。
しかし抗がん剤、化学治療への反応性も決して良いとはいえない。
だから手術で大きくとる、思い切って全摘する、としても結局は転移によって予後は決められてしまうのであまり影響はないようです。
何か新しい治療法が見つからない限り、一般的な乳管がんと同じ治療方針でよく、特別に意識してしなければいけない何かはない、という結論になるでしょう。
ただこの論文では触れられていませんが、小葉がんは塊、つまりしこりを作りにくい特徴があります。レゴブロックが綺麗に積み上がらないからです。そのためマンモグラフィはもちろん、さまざまな検診方法を併用してもなお発見が難しい特徴があるのも事実です。
しこりというよりぼんやりと板状に固くなり、乳腺が縮こまるイメージです。自己チェックの際にはそういう顔があることを少し意識していてもいいでしょう。
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