2023.01.05
明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
早速ですが 2023年1月 僕がいつも触れているASCO(米国臨床腫瘍学会)の機関誌であるJournal of clinical oncologyに、ホルモン療法に関する臨床試験であるSOFTの12年間の結果が発表になっていました。(参考文献 Francis PA, Fleming GF, Láng I, Ciruelos EM, Bonnefoi HR, Bellet M, et al. Adjuvant Endocrine Therapy in Premenopausal Breast Cancer: 12-Year Results From SOFT. Journal of Clinical Oncology. 2022.)
このSOFT試験の対象となった患者さんは、これを読まれるような患者さんはご存じのように、ゾラデックスやリュープリンは薬剤によって閉経状態を作る薬なので、当然ながら閉経前の方です。平均年齢は43歳でした。ただ12年経過を見ていますから途中で多くが閉経されたと思います。
3,047 人の患者が 1 : 1 : 1と等しく3つの群にランダムに分けられました。
1. 5 年間のタモキシフェンと卵巣機能抑制 (n = 1,015)
2.エキセメスタンと卵巣機能抑制 (n = 1,014)
3.またはタモキシフェン単独 (n = 1,018)
の3つです。卵巣機能抑制は、私はLH-RH(ゾラデックス🄬やリュープリン🄬)としましたが、この試験では卵巣を切除してしまったり、放射線で機能を根絶した場合も含まれます。
エキセメスタンはアロマシン🄬のことでアロマターゼ阻害剤(AI)です。ここではアリミデックス🄬やフェマーラ🄬と同等と考えてください。
卵巣を抑制すればいわば閉経状態ですので、閉経後の薬が使えます。ですのでAIも使用できるのです。第3,4回でも触れましたが、AIはタモキシフェンと比べて2割弱の確率で再発を抑制します。つまりタモキシフェンだけだと10人再発するなら、AIを飲んでいれば8~9人に抑えるということになります。
たった1人とも言えますが、相手は命のかかったがんの治療ですから無視はできません。可能ならAIのほうがいい。しかしAIは原則閉経していないと効果がありません。さらに作用だけではなく、副作用を考えないといけない、が前回までの趣旨でした。効果が強いから何も考えずにAI一択でいい、とは言い切れないのです。
閉経しないと使えないのだとしても、閉経”させれば”使えます。たとえば卵巣を手術で切除してしまったり、薬で機能を抑制してしまえば閉経と同じ状態にできます。そしたらタモキシフェンではなく、より強いAIが使用できる。そう考える人もおられるでしょう。
薬で閉経状態を作り出すのがLH-RH、ゾラデックス🄬やリュープリン🄬と呼ばれる薬剤です。お腹に打っている方が多いと思いますが、注射です。1か月ごと、3か月ごと、6か月ごとの製剤があります。
ですので閉経前の方でもLH-RHを使うのであればAIを使うこともできるのです。逆に閉経後の方にはもともとLH-RHを使う意味はありません。
ここで閉経前の方のホルモン治療には、タモキシフェンのみ、タモキシフェンにLH-RHを加える、どうせLH-RHを加えるならタモキシフェンをAIに変更する、の3つの選択肢が発生します。がん再発の抑制効果はこの順番で強くなるはずです。同時におそらく更年期障害や骨粗鬆など、副作用も同様に強くなるでしょう。
がんに対する効果が強くなるのは、エストロゲン、つまり女性ホルモンの抑制効果が強くなるからです。
したがってそれにともなっておこる更年期障害、骨粗鬆などの副作用も強くなります。加えてコストも上昇し、さらにLH-RHは注射なので、定期的に痛い目に合わないといけなくなります。
効果が強い、弱い、だけではなく、どれくらいがんの抑制効果が高くなるのか、それが問題になるのです。皆さんも、ただでくれと言われたら、1円だって意味なくあげないでしょう。でも本当に必要なものであれば1万円でも払います。そういうことです。本試験ではLH-RHの投与期間は5年間なのでその差は大変大きい。
このSOFT試験の結果から、12 年無再発生存率(再発せずに生存している確率)は、
タモキシフェン単独で 71.9%
タモキシフェン+卵巣機能抑制で 76.1%
エキセメスタン(AIの代表として)+卵巣機能抑制で 79.0% でした。
12 年での全生存率(再発の有無にかかわらず生存している確率)は、
タモキシフェン単独で 86.8%
タモキシフェン+卵巣機能抑制で 89.0%
エキセメスタン+卵巣機能抑制で 89.4% でした。
やはり確実にがんの抑制効果は上昇していました。
ただ細かく見ていくと、LH-RHを加えることでがんの抑制効果が認められる方とあまり認められない方がいたのです。私はむしろ下に示したこの図が非常に重要に思えました。(難しい図ですので、下に解説の図も入れています。)
一番極端なリンパ節転移の有無の項目(上から3段目)で見てみましょう。
真ん中に点がある3本でセットの線が並んでいます。上からAI + LH-RH、TAM + LH-RH、TAMのみです。
リンパ節転移が4個以上の方ではHER2の有無にかかわらず、予後(12年生存率)が相当悪いことがわかります。そしてHER2が陰性の方ではきれいにAI + LH-RH → TAM + LH-RH → TAMのみの順で予後が悪くなります。しかしリンパ節転移陰性の方ではその差はわずかに数%程度でしょう。5年間も痛い思いをし、多くのコスト負担をしながらメリットがあるのは100人中1-2名ならどうしますか。差がわずかでもあるなら打ちます、それならば打ちません、それはこうした条件を見てみなさんとともに主治医が判断していくことになると思います。この図を見ていると重なりがない3本線はほぼありません。その意味から統計的には微妙な差が多い。
年齢が35歳以下で乳がんになられた方、これはHER2の状態にかかわらず、LH-RHを使う群と、TAMのみで行った群で予後が開いています。使用が勧められる代表的な方々になるでしょう。さらに術前から化学治療を必要とされた方ではなおさらのようです。ただTAMをAIに変えてLH-RHと併用するかどうかについてはその効果は疑問と言わざるを得ません。
35歳以下なんだけれど、リンパ節転移もなかったし、組織学的な異型度も軽かったし、そういうときはどうするの?など悩みは尽きませんし、この図からその結論は出ません。そこは主治医の判断になるでしょう。
このようにホルモン治療は意外と複雑です。やはり実際の判断は主治医にゆだねることが最善なのではないでしょうか。皆さんも自分の乳がんの状態とこの図を照らし合わせながら自分のホルモン治療、そして5年間LH-RHの注射を受ける意味を考えて見られる程度の参考にされることを勧めます。
ご予約専用ダイヤル
079-283-6103