2022.05.08
このブログを訪れるような方は少なくとも乳がんに関心を持ち、おそらくは定期的に検診を受けておられることと思います。
それはたとえば市町村から配布されるクーポンを使って2年に1度マンモグラフィで検診されている方もおられるでしょう。あるいは職場からの補助を受けて毎年乳腺の超音波検査で検診されている方もおられます。ドックに入られてマンモグラフィと超音波検査、その両方を毎年受けられている方もおられると思います。あるいは気になった時だけ乳腺クリニックを受診して、クーポンや、職場の検診など、定期的な検診を受けておられない方ももちろんおられます。
ここで皆さんに問いたいのは、その女性の生活の事情によって、検診の受け方は異なることが多いのですが、それはその女性のたとえば乳がんに”なりやすさ”、”かかりやすさ”を考慮して決めたものではない、ということです。その女性の乳腺の”事情”を考慮して検診の在り方を決めていません。
さらに医療側の事情、たとえば高濃度乳腺と診断されている方は、マンモグラフィ単独では乳がんの検診発見率が落ちてしまう、ことをご存知の方もおられるでしょう。それは医療側の事情なので、患者さんにはほとんど伝わっていない。自分の乳腺における乳がんの発見のしやすさ、難しさ、を考慮して検診の在り方を考慮し、決めておられる方はまずいないと思うのです。
検診を受けて、異常なし、と診断された。それはもちろんうれしい。
けれどもそれはほぼ当然のことです。皆さんもそう思っている。がんがある、と思って検診を受ける方はいないからです。では今回異常なしとして、いつまで安心していていいのでしょうか?次の検診はどれくらいの期間開けても大丈夫なのでしょう?それを医師に尋ねたことがありますか?
乳がんに限らず、がんの検診はすべて早期発見を目的に行われます。そして皆さんはそれを目的に検診を受けられています。そのことを否定する方はおられないでしょう。がんにかからない方法はわかっていないからです。がんにかかる可能性を0にできない以上、がんにかかっても治癒できる可能性が高い早期で発見することが目的になるのです。
それでは皆さん、乳がんの早期発見とはどのような状況で乳がんを発見することを目標としているかご存知ですか?それもわからなければ、早期発見もなにもない。
誤解を恐れず、皆さんにもわかりやすく、簡単に一言で言うならば、2cm以内で見つける、です。がんは2cmを超えると、高確率で”転移”を始めると考えられています。つまり乳がんなら乳腺、胃がんなら胃から”出ていく”のです。もちろん1cmでも転移することはあり得ます。けれども目標がないと決められない。ですので様々な研究で2cmが基準として決まっているのです。これは実は多くのがんで採用されている大きさの基準です。2cmはがんにとって大きな分岐点なのです。(注:乳がんに詳しい方はDCISのことをご存知と思いますが、ここではそのことに触れず、浸潤がんについて考察しています。)
さて最初の話に戻りましょう。
がんの検診は早期発見のために行われる、それは別の言い方をすれば、乳がんの検診は、がんを2cm以内に見つけるために行われる、となります。
今年検診を受けて幸い乳がんはなかったとしても、次回の検診で2cmを超える乳がんが発見されたなら、いままできちんきちんと検診を受けていた意味がなくなります。がんができても早期で発見する、それが目的だったからです。そうならないために、今回はよしとしても次の検診はどのようにしたらいいのでしょう。1年後?2年後?それを聞いておかなくてもいいですか?
ちなみに過去のブログでも触れましたが、自己検診で乳がんを発見した、つまり検診を一切受けず、自分で自分の乳腺のしこりに気が付いて受診された方の乳がんの平均の大きさは約2.5cmでした。残念ながら2cmを超えているので半数以上の方は早期がんではありませんでした。しかし逆に早期で発見できた方も相当数おられます。こうした方は時間やお金をかけて検診を受けなくてもよかったことになりますが、それをあてにすれば半数以上は進行がんなのですからさすがに良くないですね。
さてここで考えて欲しいのです。その解答、そして正解はその方その方によって異なります。
皆さんがもし一生のどこかで残念ながら乳がんに罹患する、とします。その確率は高く、10から12%前後とされています。そして乳がんが好発する年齢は45歳から60歳の閉経前後、そして35歳から60歳まで、女性の死因のトップが乳がんです。加えて一部の乳がん患者さんは遺伝性に発生します。そのことを考えてなんとしても早期発見するために検診を受けるとします。
最初に決めておく必要があります。早期発見される確率を100%としますか?それは無理ですね。
では80%? 50%? 20%?。20%だと見つかった時には8割がた進行がんということなので、それは嫌ですね。80から90%と言われる方が多いでしょう。
では90%以上の確率で早期発見、つまり2cm以内で乳がんを見つけるためには
・マンモグラフィを毎年受ける、半年ごとに受ける、2年ごとに受ける、3年ごとに受ける、どのレベルで必要でしょうか?
・乳腺超音波を併用する、しない?するとしたら半年ごと、1年ごと、2年ごと、など、どのレベルで必要でしょうか?
・自分はまだ若く高濃度乳腺である、そして血縁者に乳がん患者が多く、自分も遺伝的にその可能性が高い、なのでMRIを併用する、しない?するとしたら半年ごと、1年ごと、2年ごと?
・そしてそれは何歳から何歳までがそうなのでしょうか?一生同じでしょうか?それとも加齢を重ねていけば頻度を落としていいのでしょうか?
もちろん頻度や検査方法を増やしていけば発見率は上昇します。しかし時間とコストが無駄になります。そしてマンモグラフィは被爆の問題もあります。
どうですか?まず答えられない、ご自身の正しい検診の在り方はご存じない、と思うのです。
なんどもいいますが、それは人によって正解が異なります。そしてその女性に求められる正しい検診の在り方、を無視して、早期発見を求めることはまず無理です。
私はこれをよく”保険”に例えています。
皆さんも車に乗られる方は自賠責保険だけでなく、任意保険に入っていると思います。原則この保険は掛け捨てで、その年に事故をしなければ払ったお金は帰っては来ません。事故しなければ結果としては無駄なお金です。それでも今年も払って保険に入る、今年こそ事故するかもしれない、事故したら困るからです。しかしだからと言って払える額に限界があります。たくさん払えば払うほど、手厚い対応が望めますが、たとえば1億円の対人賠償のために、毎年1千万保険金を払えと言われて、払う方はおられないでしょう。そこにおのずとバランスが存在するのです。皆さんもいろいろ考えて、これだけは必要だから、これだけなら払う、そんな風に考えて保険に入っているはずです。
対人賠償が発生するような交通事故に遭遇する確率は1年で9万2千件(2010年)との報告があります。乳がんは1年で9万4千人が罹患し(2018年)、1万4千人の方が亡くなります(2020年)。乳がんは対人賠償事故ほどは確率が高くありません。ただ車は乗らなければぶつけられることはあってもぶつけて賠償が発生する確率は0です。乳がんは生きている限り、0にはできません。とすれば、車の任意保険と同じくらい慎重に、自分にはどのような検診が必要なのか、考えてもいいのではないでしょうか。今年事故にあわなかった、今年乳がんが見つからなかった、ああよかった、ではなく、来年度のようにしておけばいいか、確認しておくべきではないでしょうか。
「もし私に乳がんができるとして、9割以上の確率で早期発見したいと考えるなら、私はどのように検診を受けておくのが求められますか?」そう医師に聞いておくことは大切なのではないでしょうか?
私はこれもブレスト・アウェアネスの一つと考えます。
自分の乳腺の状況をわかっておく、それはたとえば高濃度乳腺である、とか、嚢胞が多発していて常にしこりを蝕知している、だから触診ではなかなかがんを見つけにくい、などを意味するだけではありません。だから乳がんを早期発見するために、自分はこのように検診をうけておくことが必要だ、というところまでわかって完全なのです。
参照:
交通事故相談弁護士ホットライン
最新がん統計 国立がんセンター
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