乳腺と向き合う日々に

Q: 乳がん患者はCOVID-19のワクチン接種は可能ですか? 2021/6/18 加筆

 

Q: 乳がん患者はCOVID-19のワクチン接種は可能ですか? 

最近、外来で経過観察させていただいている患者さんによく聞かれる質問に答えさせていただきます。ただご存じの通り、日本ではまだ数%の方しかワクチン接種を受けておらず、日本人のデータそのものが乏しい状況です。まして乳がん患者さんに摂取して何が起こるのかは世界的に見ても研究がまだ進んでいません。そこでここでは接種の進んだ米国のデータから参照しました。ここで述べるデータは米国の国家機関から国民に向けて行われた発表内容ですので、信頼できるデータです。www.breastcancer.org/about_us/press_room/news/coronavirus

A: 答えはYESです。COVID-19ワクチンは緊急使用下において認可が下りていますが、現在乳がんにて治療中、そして過去に乳がんに罹患した経験のある方でも安全かつ有効であると考えられています。米国疾病予防管理センター、米国総合がんセンターネットワーク、そしてその他専門医による団体は、担癌患者さんにむしろ優先的にワクチン接種を受けるよう勧めています。もちろん各個人の状況は異なりますので、実際の摂取に当たってはまず主治医と相談することを勧めています。 

 2020年12月、アメリカ食品医薬品局はファイザー社、モデナ社製のCOVID-19ワクチンの緊急使用を認可しました。ジョンソンエンドジョンソン社製のワクチンは2021年2月に許可しました。他国で使用されているワクチン、そして新しく開発も進んでおり、順次認可していきます。 

 2021年4月にアメリカ食品医薬品局、米国疾病予防管理センターはジョンソンエンドジョンソン社製ワクチン使用について、“多くの検討事項の発生”を受けて、一時停止処分を決定しました。これによって医療関係者に、ジョンソンエンドジョンソン社製ワクチンを使用して血栓症を発症した6名の患者さんを含めて、これらを調査し、対応する時間的猶予を設けています。(最近解除されたようです。ただ血栓症についてはまだ完全には解明されておらず、注意喚起が添付されているようです。2021年4月25日注 ファイザー社、アストラゼネカ製のワクチンでも血栓症の報告は0ではないようです。すでにジョンソンエンドジョンソン社のワクチン特有の副作用ではないのでは、との報告も出ているようです。2021年6月注) 

 ワクチンは活性のあるウィルスを含んでいるわけではありません、ですので、がんの治療中などの理由で治療免疫が弱った方に使用することに問題があるわけではありません。アメリカ食品医薬品局はこれらのワクチンが安全で、かつCOVID-19の感染、重症化、そして死亡から身を守るのに有効であることを確信しています。ただワクチン接種しても、その効果がいつまで続くのか、そして接種後にウィルスにさらされた時、自分は症状のないまま、それをそのままほかの人に感染させないのか、まだわかっていません。ですので、マスクを着用し、距離をたもつことをワクチン接種のあとも継続するよう勧めています。 

 専門家はいまがんの治療中の方、がんの既往歴のある方、いずれもCOVID-19のワクチンを受けられることを勧めています。ただそれぞれの方で事情は異なりますので、実際に接種の際には、その判断が正しいかどうか、主治医に相談してから受けるようにしましょう。

にしはら乳腺クリニック院長 渡辺直樹

患者さんが持ってこられた質問に回答する

 ここでは実際に聞かれた質問に私の回答を示します。

Q1 私はリンパ節転移陽性でしたので、腋窩の郭清と、さらに放射線治療も受けています。手術していない方で受けたらいいですか?接種は2回必要と聞きましたが、同じ方でだいじょうぶでしょうか?

A1 おそらくワクチンでリンパ浮腫が発生したとする発表は存在せず、また1回目はよかったが、2回同じ腕に受けたら浮腫になったという発表もまだ存在しません。ワクチン接種とリンパ浮腫の関係性はまだ証明されておらず、いいとも悪いとも言えないのが現状です。ただ接種した腕はほぼ全員が数日間痛みます。下の記事を参考にしてほしいのですが、リンパ節はワクチンを打ったほうではほぼ全員と言って大きく腫れあがります。ただ一過性ですぐに腫れは収まります。そのことで上腕のリンパ浮腫の引き金になるかどうかはもちろん現段階で証明されていません。
とはいえ気になる方も多いでしょう。どちらでもいいのであればあえて手術を受けたほうで接種せず、反対側にしておいた方が心配は減るのではないでしょうか。2回目はどうするか、ですが同じ腕で受けても原則問題はないようです。痛みも2回目の接種が行われる頃にはなくなっていると思います。がんと反対側で2回とも受けて問題ないと考えている、が2021年6月時点での結論です。

Q2 私はインプラントで再建術を受けています。そちら側の腕で接種することに問題はないでしょうか。

A2 これもA1と同じ考え方でいいと思います。腋窩郭清や、放射線治療と異なり、インプラントによる再建と、リンパ浮腫は関係性はほぼないと思います。感染についても、上述の通り、ワクチンにはウィルスは含まれず、ワクチン接種で感染は起こらないことから、どちらで接種されてもいいでしょう。
(2021年6月時点で、利き腕にしたくないとの理由でインプラントが入っている方にワクチンをした方を2名診察しました。問題ありませんでした。それだけでは何も言えませんが、参考までに。)

Q3 抗がん剤の治療中ですが、ワクチンが始まったらいつ受けるのがいいでしょうか。

A3 抗がん剤治療中でも、ワクチン接種そのものは受けておかれることを勧める、とするのは前述されています。ここではそのタイミングに関する質問と思います。抗がん剤治療中は様々な原因で発熱することがあり、白血球の危険レベルへの減少を伴っている場合など、治療が必要とされる発熱も起こります。ただワクチン接種によっても発熱することが知られており、タイミングによっては治療側が原因を同定できず、対応に苦慮することがあり得ます。化学治療後の発熱のほとんどは、施行後1週間に発生しやすいため、可能ならば次の抗がん剤施行1週間前くらいがいいのではないでしょうか?ただ自分は毎日飲み薬です、とか、毎週点滴です、など、人によって化学治療の内容は異なります。原則は主治医に相談してください。
高齢の方を中心に接種が始まっていますが、まだわが国では接種される側の都合に合わせていつでも摂取できる状況は整っていません。受けられるときに接種を優先しておくことも選択肢でしょう。そういった場合は、むしろ化学治療のスケジュールを調整することも選択肢です。主治医に相談しておくことが重要でしょう。

Q4 問診表があって、かかりつけの意見を聞かれるそうなんですが…

A4 自治体によっては問診表は少し異なる可能性があります。私が主治医の患者さんには、かかりつけとして意見を伝えていますが、もちろんそれぞれの方のかかりつけ医に相談してください。ただその問診票に主治医、かかりつけ医の判子やサインを求める自治体は今のところ聞いていません。自己申告のようです。


2021/6/7 付記
乳がんを含め、がんで抗がん剤治療を受けておられる方は一種の免疫抑制状態になります。そのため、ワクチンを接種しても抗体価(ウィルスと闘う血液中物質の値で、免疫を有しているかどうかの目安になる)が上昇しにくいことが明らかになっています。(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8080507/
1回目の接種が済んだだけの状況ではまずしっかりした免疫は期待できません。2回目の接種のスケジュールをきちんと守り、受けておくこと。2回目が済んでも油断せず、マスクや感染防御の生活習慣を継続しておくことを勧めます。

最近はワクチンに関してネット上でたくさんのフェイクニュースが飛び交っています。
・ファイザー社の副社長は、自分ではワクチンを打たなかった。
・ワクチンを打つと遺伝子が操作されて、子供が作れなくなる。
など、実際に私が患者さんから相談されたものだけでも様々です。
ただ米国ではあえてテレビカメラの前で大統領が接種しており、少なくとも会社の幹部が自分で打たないような薬品を大統領に投与するでしょうか?そしてそれが本当だとしてもそれを自らネットに流すでしょうか?だれかが密告した?それこそ怪しい話ですよね。
またワクチンそのものが開発されて2年程度なのに、子供ができないということがわかるでしょうか?ワクチンなどなくても10組に1組は不妊で難渋されている統計データがあります。それと比べてワクチンをうった夫婦では不妊が増えた、という結論が出るまで数年かかるはずです。たしかに今ワクチンを打てるのは先進国、それもアメリカとイギリス、フランスなどの国の方だけです。後進国ではワクチンはまだいきわたっていません。もともと後進国では先進国より子供の数は多い傾向があります。そんな比較の話ですか。どう考えても怪しい話ですよね。
それでもワクチンは怖い、といわれる皆さんには一度この記事を読んでほしいと思います。よく書かれた記事で医師として賛同します。

「HPVワクチンで救える命を見殺しにしていいのか? 大手新聞社が握りつぶした幻の記事を再掲
国が積極的に勧めるのをやめてから8年が経つHPVワクチン。5年前に感染症が専門の小児科医・森内浩幸さんが必死に接種の推進を訴えたのに大手新聞社が握り潰した幻の記事を、BuzzFeed Japan Medicalで再掲載します。」

森内先生が百日咳ワクチンの例の中で提示したように、薬はメリットとデメリットのバランスの中で考えなければいけません。ワクチンを打たなくても周りのみんなが打ってくれれば、自分は打たなくても感染は沈静化する、それも事実でしょう。ただイギリスのジョンソン首相はアフリカにもワクチンを配給して接種を普及させると宣言しました。世界すべてで免疫を確保しないとコロナには勝てない、だから援助して、こちらから頼んで、ワクチンを打っていない地域がないようにする、そう考えているのです。
感染がずるずると続くと、人種を超え、地域を超え、人から人に伝わるうちに変異株と呼ばれるものが発生します。より感染力や、危険度を増して、また感染が新たに始まることはよく知られています。天然痘のように、撲滅するべき時に撲滅できれば最善です。一部で感染が続いている限り、安心はないのです。

ワクチンは少なくとも自己責任ですから、打つ打たないは自己判断です。自己判断だからこそ、正しい資料を使って判断しなければなりません。ネットの情報やテレビの情報ですら絶対正しいとは言えません。特に衝撃的な、印象に残るような、悪い事例ばかり強調されて伝わる傾向があります。
たとえば車、毎日たくさんの人がそのために亡くなっています。子供も、若い方もたくさん亡くなっています。事故をしたら自己責任です。だから車に乗らない、それも自由です。しかしそれを根拠に乗らない、と判断している人がどれくらいいるでしょうか。命がかかっているわけではない、毎日の買い物などでも車を使っていないでしょうか。

ワクチンは大量の抗原(免疫を刺激する物質)を投与して(COVID-19ワクチンでは抗原を作り出して)、長期間にわたる消えない強い免疫を体内に作り出そうとするものです。アナフィラキシーと呼ばれる、免疫反応が一定レベルを超えたためにむしろ体に不利益になる免疫反応の副作用は一定の頻度で起こりえます。副作用が0である薬はありません。どこの会社のワクチンでもアナフラキシーの報告例はあり、またその延長上に血栓症、そして脳出血など、重い副作用の報告も出てきているようです。まして今回のワクチンは十分な研究試験期間を設けていません。世界中の人類全体で試験を行っているようなものです。ただパンデミックが起こった時、経済封鎖や、自宅蟄居を無限に続けられないのだとしたら、それに対抗できる手段は現状ワクチンの普及以外ありません。
一定の頻度で起こる副作用を見て、投与しないことは自由です。ただもし車に乗られるのなら、私がここで書いたことを思い出して、そのメリットとデメリットのバランスについてもう一度考えてみていただければと思います。

ワクチンでリンパ節は腫れます  2021.06.19.

テレビはもちろん、医療従事者でも知られておらず、あまり話題にされていないワクチンにかかわる乳がん患者さんで困ることとして、リンパ節の腫大があります。先にも触れましたが、ワクチンは免疫を刺激して、体がウィルスと戦う力を準備させようとする薬ですから、もちろん腕に打てば、そちらの腕、そしてそれをつかさどるそちら側の腋窩から鎖骨周囲のリンパ節が累々と腫れあがっていることが多いのです。人によっては”わきが痛い”、”首のところのぐりぐりが痛む”、”腕を動かすとごろごろする感じがする”など、リンパ節に起因する症状がある方もおられるようです。
腕がはれたり、熱が出た方はもちろんですが、全く症状はなかった方でも、超音波検査で調べてみると激しく腫れていることは珍しくありません。
ただこれは副作用ですか?と言われる方もおられますが、それは違うと思います。
むしろ免疫を刺激しているはずですから、何も反応がなかった方のほうが心配です。免疫が成立していない可能性もあるからです。たとえばコロナの抗体(体がウィルスと戦う免疫の武器、血液などに存在する)を調べて有る、無しと話題にしていることもありますが、この抗体を作るのもリンパ球です。このリンパ球が集まっているのが、リンパ節なのですから、盛んに抗体を産生していればしていれば腫れることもあるでしょう。

我々の施設で経験された、リンパ節がはれている方は、いずれも1か月以内にワクチンを打たれていました。どれくらいで腫れが引くのかは個人差がありそうですが、おそらく1-2か月で沈静化すると思われます。

副作用ではない、と言いながら、なぜ”困ること”と書いたのか、ですが、それは、もし検査をする側が、患者さんが最近ワクチンを接種していることを知らなかった場合、大きく腫れているリンパ節を、転移再発と疑ってしまうことがあるからです。ちなみにこれは乳がん術後に限りません。リンパ節は乳腺内にも存在しているので、それがひどく腫れて、マンモグラフィに映り込めば、やはり異常所見あり、とせざるを得ません。経過を見て、腫れが引いてくるまでは、乳がんや、乳がんのリンパ節転移ではなく、これはワクチンによる腫れである、と確定できないからです。
それを防ぐために、ワクチンを打って、1-2か月以内に、検診や検査を受けられる方は必ず担当医にそれを伝えましょう。それだけでも非常に参考になります。
もう現場の検査を担当する医師や技師は何例もこうした方を経験して知っています。医師や検査技師のほうから聞くことも多いと思いますが、言われなければ、どちらの腕にいつくらいに打ったか、申告するようにしてください。大変参考になります。