(平成30年4月30日時点)
平成22年5月1日開院してから、平成30年10月31日で8年半が経ちました。現在平成30年10月末で約3万人の方が当院を受診されました。また、乳腺の良性の変化を示す方々の詳細な検討はまだまだ時間がかかるものの、悪性疾患である原発性乳癌は乳腺単科の乳腺クリニックではどのような特徴があるのか検討すべきと思いました。
クリニック開設後3年後の平成25年から多くの乳癌患者さんが当院で発見されました。その年度からの5年間である平成29年度までの5年の間に、当院で発見された乳癌患者さんの内、追跡で臨床病理学的に詳細が確認できた768例を詳細に検討しました。
新たに乳癌と診断された症例数は、平成25, 26, 27, 28, 29年度各々132, 151, 150, 159, 176例で、総数768例(当院で把握した症例数)でした。Stage分類の検討では、JBCS(日本乳癌学会)のBig dataが示すStage0 10.8%(2011)に対して、当院のStage0比率は平成25, 26, 27, 28, 29年度各々25.0%, 23.9%, 16.7%, 30.8%, 19.8%でした。基本的にはBig dataより10%以上高く、特に平成28年度は約3倍約30%のStage0 比率でした。
次いで、StageⅠの検討ですが、JBCSのBig dataの41.5%に対して、当院のStageⅠ比率は平成25, 26, 27, 28, 29年度各々34.8%, 44.4%, 46.7%, 39.6%, 43.8%でした。平成25年度と28年度ではBig dataを下回る結果でしたが、それ以外はStageⅠでもそれを上回る結果でした。その上、Stage0, Ⅰを早期癌と判断すれば、早期癌比率はBig dataの52.3%に対して、当院の早期癌比率は平成25, 26, 27, 28, 29年度各々59.8%, 68.3%, 63.4%, 70.4%, 63.6%でした。当院で発見された早期癌比率は最大20%近く、Big dataを上回る結果でした。
今回の年齢別の検討では、20歳代の乳癌発見は少ないものの、累計5年間で13例発見され毎年発見されている現状です。30歳代は稀ではなくなり、5年間で77例も乳癌と診断されました。当院の職員も30歳代の乳癌発見にびっくりしなくなる状況です。総数に占める割合いは未だ少数であるものの、絶対値は無視出来ない数になり、今後も増加するのではないかと危惧し、その対策は乳腺クリニックが負うところが大きいのではないかと思います。
さらに40歳代は、当院発見乳癌のピークを占める世代です。平成28年度発見乳癌159例の内71例44.7%と約半数を占めていました。現在社会では妊娠出産を経験される世代の乳癌患者の多さに、社会全体の危機の現れとも考えるべき現状が浮かび上がって来ました。特に40歳代の女性に対して、市町村の対策型の乳がん検診も取り入れながら、避けることのできない乳癌罹患に対して、これまで以上により早期に乳癌と診断される環境を醸成していく必要性が、乳腺クリニックにとって必須課題と思われます。
乳腺クリニックの重要な役割の一つは、継続して診療を行える事です。今回検討した5年間の発見乳癌患者さんの検証では以下の結果でした。まず、乳癌と診断された症例数の検討では、初回来院時で乳癌と診断された症例数は、平成25, 26, 27, 28, 29年度各々102, 110, 112, 109, 122例でした。それ対して、複数回来院により乳癌と診断された症例数は、平成25, 26, 27, 28, 29年度各々30, 41, 38, 50, 54例でした。年度を経るごとに、複数来院で発見される乳癌患者数が増加している状況でした。
真の意味での早期の乳癌は、乳管内癌(pTis)及び浸潤径5mm以下(pT1a)です。当院では、浸潤径10mm以下(pT1b)も含めて、pTis, pT1a, pT1bを超早期乳癌と考えています。今回の検討では、超早期乳癌が全乳癌内で占める割合を検証しました。まず、初回来院で発見された乳癌患者さんの内、超早期乳癌が占める比率(%)は、平成25, 26, 27, 28, 29年度各々30.5%, 32.8%, 32.2%, 43.1%, 32.0%でした。それ対して、複数回来院により発見された乳癌患者さんの内、超早期乳癌が占める比率(%)は、平成25, 26, 27, 28, 29年度各々73.3%, 68.3%, 63.2%, 60.0%, 74.1%でした。複数回来院による発見される乳癌患者さんは、圧倒的な比率の超早期乳癌の状態で、治療現場に結び付けることができた事実を確認することができました。乳腺クリニックが、市民の方々に浸透すればするほど、乳癌患者さんの大半が、超早期で治療できる可能性が考えられました。故に、乳腺クリニックが担うべき社会に対する役割の大きさに、身が引き締まる思いをいたしました。
開院して10年目に近づきにつれ、にしはら乳腺クリニックの基本理念である「超早期乳癌で乳癌を発見する」に着実に近づいています。今後も、理想に向かって日々努力したいと思っています。
乳腺疾患の診断学で最も大切なことは、癌であるかもしくは癌ではないかを確実に区別することです。当院では超音波ガイド下の穿刺吸引細胞診検査法と経皮的針生検による病理組織診断法を用いて、肌にほとんど痕を残さずに診断することができます。年度を経るごとに、超音波を用いた病理診断の精度も着実に高くなって来ました。日々、乳腺自体の変化(いわゆる広義の「乳腺症」)と初期の癌病巣の鑑別に凌ぎを削っています。病理医の診断報告と臨床医の直接鏡検を含めた総合判断で、患者さんに精度の高いご報告をいたしております。今後も、1cm以下の病変を癌もしくは非癌に鑑別することを、画像と針先の感触及び乳腺病理組織像を組み合わせることにより、さらに研ぎ澄まして行っていきます。そして、年度を経るごとに増えてきた5mm以下の浸潤性乳癌病変(pT1a)、及び乳管内癌(DCIS)で発見される乳癌の割合を、さらに高めてまいりたいと思っています。
現在の乳癌治療の状況では、分子標的薬の登場などにより、乳癌患者の死亡率は著明に減少しました。乳癌治療は、徐々に患者さん個別の治療であるオーダーメイド治療の方向に向かっています。姫路市の施策が変更され、無料クーポンの配布の対象者が5歳刻みから2歳刻みと2.5倍に拡大された後、姫路市内の乳がん検診受診者は大幅に増加しました。しかし、この数年検診受診率の増加は定常化している現状もあります。その上、遺伝子診断(HBOC:遺伝性乳がん・卵巣がん症候群)診療の拡充も足踏み状態も見られます。再発乳癌の減少につながる道の拡大が見えていません。乳腺クリニックが果たすべき役割が、益々大きくなっています。
しかし、未だ多くの乳癌患者さんは進行癌で診断されている現実が、目の前で横たわっています。今後の課題は変わらず、後述の4つです。
そして、乳癌治療に日々邁進されている乳腺外科の先生方の努力に報いるために、最初の医療機関である乳腺クリニックの医療従事者は、罹患を避けることのできない乳癌患者さんを、超早期乳癌で治療現場に送り出す使命を帯びています。
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